[0807] 脳卒中片麻痺患者における立ち上がり動作評価の再考
キーワード:脳卒中片麻痺者, 立ち上がり動作評価, 身体機能
【目的】椅子からの立ち上がり動作評価(sit to stand:STS)は下肢筋力や歩行速度の指標として利用されている。海外では低体力者や脳卒中片麻痺者(片麻痺者)に対する簡便な下肢筋力評価として5回や10回のSTS時間を測定する方法も報告されているが,国内での研究報告はほとんどない。そこで今回我々は,片麻痺者に対しSTSを5回及び10回施行した時間(STS5・STS10)を測定し,各々の信頼性,身体機能との関連性を片麻痺者の特徴である病期別に比較し,STSの有用性を検討することを目的とした。
【方法】対象は片麻痺者62名(男性39名,女性23名,平均年齢68±10歳)とし,発症から6ヶ月未満(回復期群)32名と6ヶ月以上(慢性期群)30名に分けSTS5及びSTS10を測定した。また,身体機能としてBrunnstrom recovery stage(BRS),functional independence measureの運動項目(motor FIM),Berg balance scale,10m歩行速度,麻痺側及び非麻痺側膝伸展筋力を測定した。STSは先行研究に基づき,背もたれ付きの高さ43cmの椅子にて両脚を肩幅程度に広げた自然安静座位を開始肢位とした。検査者の口頭指示により開始し,上肢を使用せず出来るだけ速く5回,10回の立ち座り動作を繰り返し,着座した時点までの所要時間を計測した。麻痺側及び非麻痺側膝伸展筋力の測定は酒井医療社製徒手筋力計mobie®を用い,膝関節90°屈曲位での等尺性膝伸展筋力を計測した。検討項目は1)STS5・STS10の検者内及び検者間信頼性,2)STS5・STS10に寄与する身体機能の検討,3)STS5・STS10と2)の寄与した身体機能との関連性とした。統計学的処理は検討1)には級内相関係数(ICC),2)は重回帰分析,3)はspearmanの順位相関係数を用い病期別での検討を行なった。全ての統計学的処理において有意水準は5%未満とした。
【説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に則り行い,対象全員に書面にて本研究の趣旨を説明し同意を得て実施した。
【結果】STS5・STS10の信頼性の検討は,検者内・検者間共にICCが0.8以上と高い信頼性を認めた。STS5・STS10に寄与する身体機能との検討では,回復期群では歩行速度・非麻痺側膝伸展筋力・BRSが寄与率R2=0.74で抽出され,慢性期群では寄与率R2=0.38にてmotor FIMが抽出された。関連性の検討では,回復期群にてSTS5・STS10は共に歩行速度とr=0.7以上と高い相関を認めたが,非麻痺側筋力,BRSとは低い相関であった。慢性期群ではmotor FIMが中等度の相関を認めた。
【考察】本検討の結果から,STSは片麻痺者において信頼性の高い評価であることが示唆された。しかしSTSに寄与する身体機能は,回復期では歩行速度,非麻痺側膝伸展筋力,BRSであり,慢性期においてはmotor FIMのみで,下肢筋力は寄与しない結果であった。STSは高齢者をはじめ他の疾患の下肢筋力指標となりうることが過去の研究にて報告されているが,片麻痺者への使用には病期を考慮し使用する必要があること,回復期であれば歩行速度の指標にはなりうるが,下肢筋力の指標とするには難しいことが考えられる。したがって,片麻痺者のSTSの測定は下肢筋力を反映するものではなく,徒手筋力計などにより直接筋力測定することが必要と思われた。本検討ではSTS5・STS10間の違いは認められなかったことから,臨床においては5回の計測が簡便と考えるが,今後は他の身体機能との関連も検討しSTSの利用場面について再検討する必要がある。また,本検討は1施設間のデータであることから,多施設間での検討も必要と考える。
【理学療法学研究としての意義】STS5及びSTS10に関して国内における検討は少なく,片麻痺者の病期別でのSTSの信頼性や結果が寄与する身体機能の検討はなかった。本検討により,片麻痺者に対するSTSは信頼性が高い評価であることが示された。しかし結果の解釈に関しては,従来から報告されている下肢筋力評価としての使用が適さない可能性があること,病期による違いを考慮する必要性が示唆された。この結果は,片麻痺者のエビデンス構築における評価法選定の一助となりうる。
【方法】対象は片麻痺者62名(男性39名,女性23名,平均年齢68±10歳)とし,発症から6ヶ月未満(回復期群)32名と6ヶ月以上(慢性期群)30名に分けSTS5及びSTS10を測定した。また,身体機能としてBrunnstrom recovery stage(BRS),functional independence measureの運動項目(motor FIM),Berg balance scale,10m歩行速度,麻痺側及び非麻痺側膝伸展筋力を測定した。STSは先行研究に基づき,背もたれ付きの高さ43cmの椅子にて両脚を肩幅程度に広げた自然安静座位を開始肢位とした。検査者の口頭指示により開始し,上肢を使用せず出来るだけ速く5回,10回の立ち座り動作を繰り返し,着座した時点までの所要時間を計測した。麻痺側及び非麻痺側膝伸展筋力の測定は酒井医療社製徒手筋力計mobie®を用い,膝関節90°屈曲位での等尺性膝伸展筋力を計測した。検討項目は1)STS5・STS10の検者内及び検者間信頼性,2)STS5・STS10に寄与する身体機能の検討,3)STS5・STS10と2)の寄与した身体機能との関連性とした。統計学的処理は検討1)には級内相関係数(ICC),2)は重回帰分析,3)はspearmanの順位相関係数を用い病期別での検討を行なった。全ての統計学的処理において有意水準は5%未満とした。
【説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に則り行い,対象全員に書面にて本研究の趣旨を説明し同意を得て実施した。
【結果】STS5・STS10の信頼性の検討は,検者内・検者間共にICCが0.8以上と高い信頼性を認めた。STS5・STS10に寄与する身体機能との検討では,回復期群では歩行速度・非麻痺側膝伸展筋力・BRSが寄与率R2=0.74で抽出され,慢性期群では寄与率R2=0.38にてmotor FIMが抽出された。関連性の検討では,回復期群にてSTS5・STS10は共に歩行速度とr=0.7以上と高い相関を認めたが,非麻痺側筋力,BRSとは低い相関であった。慢性期群ではmotor FIMが中等度の相関を認めた。
【考察】本検討の結果から,STSは片麻痺者において信頼性の高い評価であることが示唆された。しかしSTSに寄与する身体機能は,回復期では歩行速度,非麻痺側膝伸展筋力,BRSであり,慢性期においてはmotor FIMのみで,下肢筋力は寄与しない結果であった。STSは高齢者をはじめ他の疾患の下肢筋力指標となりうることが過去の研究にて報告されているが,片麻痺者への使用には病期を考慮し使用する必要があること,回復期であれば歩行速度の指標にはなりうるが,下肢筋力の指標とするには難しいことが考えられる。したがって,片麻痺者のSTSの測定は下肢筋力を反映するものではなく,徒手筋力計などにより直接筋力測定することが必要と思われた。本検討ではSTS5・STS10間の違いは認められなかったことから,臨床においては5回の計測が簡便と考えるが,今後は他の身体機能との関連も検討しSTSの利用場面について再検討する必要がある。また,本検討は1施設間のデータであることから,多施設間での検討も必要と考える。
【理学療法学研究としての意義】STS5及びSTS10に関して国内における検討は少なく,片麻痺者の病期別でのSTSの信頼性や結果が寄与する身体機能の検討はなかった。本検討により,片麻痺者に対するSTSは信頼性が高い評価であることが示された。しかし結果の解釈に関しては,従来から報告されている下肢筋力評価としての使用が適さない可能性があること,病期による違いを考慮する必要性が示唆された。この結果は,片麻痺者のエビデンス構築における評価法選定の一助となりうる。