[0814] パーキンソン病患者における転倒回数からみた歩行能力と反応時間の関係について
Keywords:パーキンソン病, 歩行, 反応時間
【はじめに,目的】
パーキンソン病患者(以下PD)の歩行の特徴には突進現象があり,歩行速度が歩行能力を表していない場合がある。黒澤は反応時間(以下RT)から快適歩行速度は注意需要を最小にする歩行速度と近似しているとした。この注意需要は歩行の困難さの指標として応用されている。歩行が困難であるならばより注意して歩かなければならない。個人の注意容量は一定であるという前提から,歩行に注意を多く消費してしまうと結果的に残存し使用できる注意能力は少なくなる。そこに第二課題を負荷すると,残存注意容量が少なくなっている状況ほど処理に時間がかかってしまうという現象を利用している。霍明はRTを用いて高齢者や片麻痺患者の転倒予測が可能であることを示した。比較的転倒頻度が多いと思われるPDに対してもRTが利用可能であれば歩行能力の把握に有用であると考えられる。本稿の目的は,PDにおける転倒頻度とRTの関係を確認することである。
【方法】
PD12名(男性4名,女性8名,平均年齢71.42±7.61歳,平均罹患期間6.92±5.71年)を対象とした。Hoehn & Yahr重症度分類II~IV,Mini-Mental State Examination 23.91±2.70点だった。問診転倒調査とTimed Up and Go test(以下TUG)を実施した。自由歩行およびRTを測定しながら歩行する二重課題歩行を実施し,それぞれの歩行パラメーター(歩行速度,歩行率,歩幅)を測定した。安静立位時RTと歩行時RTの測定は,霍明の反応時間測定システムを用いた。これは聴覚的刺激音に対する発声応答によるRTを計測するものである。音声解析ソフトによってRTを1/1000秒単位で解析した。各項目の関係にはPearsonの積率相関係数を用いて評価し,聴取転倒回数およびTUGとRTについては,その時の歩行速度で調整した偏相関係数を算出した。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき対象者には採取データは匿名化の上研究目的にのみ使用し情報を守秘する旨を説明し書面による同意を得た。
【結果】
聴取転倒回数は,自由歩行速度(r=-0.645,p<0.05),二重課題歩行速度(r=-0.729,p<0.01),二重課題歩行歩行率(r=-0.601,p<0.05),二重課題歩行歩幅(r=-0.698,p<0.05),安静立位時RT(r=0.882,p<0.01),歩行時RT(r=0.703,p<0.05)との間にそれぞれ相関がみられた。TUGは,自由歩行速度(r=-0.695,p<0.05),自由歩行歩幅(r=-0.596,p<0.05),二重課題歩行速度(r=-0.812,p<0.01),二重課題歩行歩行率(r=-0.680,p<0.05),二重課題歩行歩幅(r=-0.757,p<0.01),安静立位時RT(r=0.881,p<0.01),歩行時RT(r=0.767,p<0.01)との間に相関がみられた。聴取転倒回数とTUG(r=0.860,p<0.01)は相関がみられた。二重課題歩行速度を制御変数とした歩行時RTと聴取転倒回数(r=0.721,p<0.05)およびTUG(r=0.913,p<0.01)の偏相関分析においてそれぞれ相関がみられた。
【考察】
聴取転倒回数とTUGは,それぞれがすべてのRT測定項目と相関を示した。実際の転倒回数と転倒予測の指標となるTUGがともにRTと関係があることは,PDにおいてもRTが歩行能力の指標となりえると示唆される。聴取転倒回数とTUGは,自由歩行速度と相関がみられたが,二重課題歩行速度との間により強い相関がみられた。課題下での歩行時間計測は一般的な歩行時間計測よりもPDの歩行能力を示している可能性がある。対象者による任意の歩行をベースとした歩行時RTを考える場合,それぞれの課題のどちらにより注意が分配されているかが疑問となる。歩行課題に注意をはらっているか,または反応課題に注意を向けているか。すなわちトレッドミルなど速度の固定が可能な状況とは異なり,任意の歩行では歩行に集中するタイプと,発声応答に集中するタイプの存在が考えられるからである。そこで聴取転倒回数とTUGについて,二重課題時歩行速度の影響を除いて歩行時RTとの関係をみるために,その時の歩行速度を制御変数とした偏相関を算出した。結果は聴取転倒回数とTUGともに偏相関係数の方がより強く相関している値となった。これは二重課題時歩行速度と歩行時RTのそれぞれが同時に聴取転倒回数とTUGに密接に関係していることであり,それぞれがどちらも歩行能力の指標として利用可能であることを示唆していると考える。
【理学療法学研究としての意義】
一般的に歩行速度の計測は歩行能力を確認する方法として用いられている。PDでは突進現象というような歩行速度の調整が困難な症状を呈することがある。このような疾患の場合は一概に10m歩行時間が短いから歩行能力が高いとは言えない場合がある。歩行が数値的には速くても余裕があるのか倒れそうで必死なのかという面を客観的に示すことができれば有用だと考える。
パーキンソン病患者(以下PD)の歩行の特徴には突進現象があり,歩行速度が歩行能力を表していない場合がある。黒澤は反応時間(以下RT)から快適歩行速度は注意需要を最小にする歩行速度と近似しているとした。この注意需要は歩行の困難さの指標として応用されている。歩行が困難であるならばより注意して歩かなければならない。個人の注意容量は一定であるという前提から,歩行に注意を多く消費してしまうと結果的に残存し使用できる注意能力は少なくなる。そこに第二課題を負荷すると,残存注意容量が少なくなっている状況ほど処理に時間がかかってしまうという現象を利用している。霍明はRTを用いて高齢者や片麻痺患者の転倒予測が可能であることを示した。比較的転倒頻度が多いと思われるPDに対してもRTが利用可能であれば歩行能力の把握に有用であると考えられる。本稿の目的は,PDにおける転倒頻度とRTの関係を確認することである。
【方法】
PD12名(男性4名,女性8名,平均年齢71.42±7.61歳,平均罹患期間6.92±5.71年)を対象とした。Hoehn & Yahr重症度分類II~IV,Mini-Mental State Examination 23.91±2.70点だった。問診転倒調査とTimed Up and Go test(以下TUG)を実施した。自由歩行およびRTを測定しながら歩行する二重課題歩行を実施し,それぞれの歩行パラメーター(歩行速度,歩行率,歩幅)を測定した。安静立位時RTと歩行時RTの測定は,霍明の反応時間測定システムを用いた。これは聴覚的刺激音に対する発声応答によるRTを計測するものである。音声解析ソフトによってRTを1/1000秒単位で解析した。各項目の関係にはPearsonの積率相関係数を用いて評価し,聴取転倒回数およびTUGとRTについては,その時の歩行速度で調整した偏相関係数を算出した。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき対象者には採取データは匿名化の上研究目的にのみ使用し情報を守秘する旨を説明し書面による同意を得た。
【結果】
聴取転倒回数は,自由歩行速度(r=-0.645,p<0.05),二重課題歩行速度(r=-0.729,p<0.01),二重課題歩行歩行率(r=-0.601,p<0.05),二重課題歩行歩幅(r=-0.698,p<0.05),安静立位時RT(r=0.882,p<0.01),歩行時RT(r=0.703,p<0.05)との間にそれぞれ相関がみられた。TUGは,自由歩行速度(r=-0.695,p<0.05),自由歩行歩幅(r=-0.596,p<0.05),二重課題歩行速度(r=-0.812,p<0.01),二重課題歩行歩行率(r=-0.680,p<0.05),二重課題歩行歩幅(r=-0.757,p<0.01),安静立位時RT(r=0.881,p<0.01),歩行時RT(r=0.767,p<0.01)との間に相関がみられた。聴取転倒回数とTUG(r=0.860,p<0.01)は相関がみられた。二重課題歩行速度を制御変数とした歩行時RTと聴取転倒回数(r=0.721,p<0.05)およびTUG(r=0.913,p<0.01)の偏相関分析においてそれぞれ相関がみられた。
【考察】
聴取転倒回数とTUGは,それぞれがすべてのRT測定項目と相関を示した。実際の転倒回数と転倒予測の指標となるTUGがともにRTと関係があることは,PDにおいてもRTが歩行能力の指標となりえると示唆される。聴取転倒回数とTUGは,自由歩行速度と相関がみられたが,二重課題歩行速度との間により強い相関がみられた。課題下での歩行時間計測は一般的な歩行時間計測よりもPDの歩行能力を示している可能性がある。対象者による任意の歩行をベースとした歩行時RTを考える場合,それぞれの課題のどちらにより注意が分配されているかが疑問となる。歩行課題に注意をはらっているか,または反応課題に注意を向けているか。すなわちトレッドミルなど速度の固定が可能な状況とは異なり,任意の歩行では歩行に集中するタイプと,発声応答に集中するタイプの存在が考えられるからである。そこで聴取転倒回数とTUGについて,二重課題時歩行速度の影響を除いて歩行時RTとの関係をみるために,その時の歩行速度を制御変数とした偏相関を算出した。結果は聴取転倒回数とTUGともに偏相関係数の方がより強く相関している値となった。これは二重課題時歩行速度と歩行時RTのそれぞれが同時に聴取転倒回数とTUGに密接に関係していることであり,それぞれがどちらも歩行能力の指標として利用可能であることを示唆していると考える。
【理学療法学研究としての意義】
一般的に歩行速度の計測は歩行能力を確認する方法として用いられている。PDでは突進現象というような歩行速度の調整が困難な症状を呈することがある。このような疾患の場合は一概に10m歩行時間が短いから歩行能力が高いとは言えない場合がある。歩行が数値的には速くても余裕があるのか倒れそうで必死なのかという面を客観的に示すことができれば有用だと考える。