[0827] 人工膝関節全置換術後症例に対する温熱刺激と電気刺激の組み合わせ効果
キーワード:人工膝関節全置換術, 温熱刺激, 電気刺激
【目的】
人工膝関節全置換術(TKA)後,関節腫脹と損傷の二次的な抑制反応に起因する中枢神経システム弱化により,大腿四頭筋筋力低下が残存する。近年その中枢性筋力低下に対して神経筋電気刺激(NMES)が有効であると報告されている。しかし,筋収縮を誘発する従来の運動閾値でのNMESでは,術後の腫脹や疼痛により至適な強度に設定することが困難な症例も経験する。Rostrupらは,電気刺激に表在性の温熱刺激(TS)を組み合わせることで疼痛を抑制し,電流強度に対する耐性を向上させると報告している。今回はTKA後症例に対してTSとNMESの組み合わせ刺激(cTEMS)を実施し,その効果を予備的に検証した。
【方法】
対象は当院にて片側TKAを施行した症例17名17膝とし,cTEMS群8名(男性2名,女性6名,平均年齢75.9±4.7歳)と非実施群(Control群)9名(男性1名,女性8名,平均年齢71.7±6.3歳)にカルテ番号の末尾の数字を用いて割り付けた。cTEMS群では,術後3週目より5日/週×2週間,cTEMSを大腿四頭筋へ実施した。機器はオートテンズプロIIIリハビリユニット(ホーマーイオン)を使用し,パラメータは二相性矩形波,周波数20Hz,パルス時間0.2msec,Duty cycle 4s on/2s offとした。電流強度は最大耐性強度とし,電極はシリコンパッド(6×8cm・導子温度43℃)を使用した。運動療法はクリニカルパスに準じて術後翌日より膝関節ROM拡大,下肢筋力増強,歩行・ADL練習を実施した。主要アウトカムは大腿四頭筋等尺性最大筋力(MVIC)体重比とし,Hand held dynamometerを用いて評価した。二次アウトカムはTimed Up and Go test(TUG),Stair Climbing Test(SCT),2分間歩行テスト(2MWT),膝伸展最大収縮時の疼痛とし,疼痛はVisual analogue scale(VAS)を用いて評価した。また生体電気インピーダンス法による下肢骨格筋量(LSMM)をIto-InBody370を用いて測定し,体重比を算出した。評価は術前と術後2・3・4週目の計4回測定した。下肢筋肉量はインプラントによる電気抵抗を考慮して術後のみの1・2・3・4週目の計4回測定した。各項目の平均値をMann-Whitney U-testを用いて群間比較し,有意水準は5%とした。
【説明と同意】
本研究では施設長,主治医,大和橿原病院倫理委員会の承認を得た上で症例に対し本研究の概要について説明し,文書による同意を得てから計測を実施した。
【結果】
cTEMS実施に関する有害事象は認めず,全対象者でプログラムを完遂した。MVICはcTEMS群とControl群で術前0.27±0.05・0.30±0.08kgf/kg,術後2週目0.12±0.03・0.13±0.03kgf/kg,3週目0.18±0.04・0.15±0.03kgf/kg,4週目0.24±0.03・0.19±0.03 kgf/kgとなり,術前と術後2週目では両群間に有意差はなかったが,術後3・4週目ではcTEMS群で有意に増大した(p<0.05)。TUGはcTEMS群とControl群で術前11.7±5.5・12.0±3.8sec,術後2週目12.5±2.8・13.5±4.8sec,3週目8.9±0.6・11.6±4.9sec,4週目8.2±0.9・10.4±3.5secとなり,術後3・4週目ではcTEMS群で改善傾向を示した。SCTはcTEMS群とControl群で術前14.7±6.6・13.0±6.8sec,術後2週目21.3±4.0・18.1±3.8sec,3週目15.0±2.5・14.4±4.8sec,4週目12.0±4.8・12.2±4.0secとなり,術後2週目ではControl群で有意に速かったものの,術後3・4週目では両群間に有意差は示さなかった。2MWTはcTEMS群とControl群で術前118±25・115±29m,術後2週目104±8・98±21m,3週目128±9・116±28m,4週目136±10・122±25mとなり,両群間に有意差は示さなかった。LSMMはcTEMS群とControl群で術後1週目92±12・100±21g/kg,2週目91±11・98±22g/kg,3週目87±9・95±26g/kg,4週目89±10・98±27g/kgとなり,両群間に有意差は示さなかった。膝伸展最大収縮時のVASはcTEMS群とControl群で術前22±19・11±10mm,術後2週目55±14・48±29mm,3週目28±13・37±22mm,4週目19±7・25±24mmとなり,両群間に有意差は示さなかった。
【考察】
NMESにTSを組み合わせることで不快感を軽減し,至適な電流強度で骨格筋を刺激できた可能性があり,MVICが有意に増大し,TUGとSCTで改善傾向を示した。LSMMには有意差はなかったことからMVIC増大は筋肥大ではなく,動員される運動単位増加によるものと考えられた。VASには2群間で有意差がなかったことから,MVIC増大は疼痛抑制ではなく,中枢神経システムを介した運動単位賦活によってもたらされた可能性がある。今後は周波数・パルス時間などの影響を捉え,より効果的なパラメータを調査する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
TKA後症例において,NMESにTSを組み合わせた方法の有用性が示唆された。cTEMSでは,症例への不快感を抑えられることが利点であることから従来の運動閾値でのNMESでは実施困難であった症例に適応できる可能性がある。
人工膝関節全置換術(TKA)後,関節腫脹と損傷の二次的な抑制反応に起因する中枢神経システム弱化により,大腿四頭筋筋力低下が残存する。近年その中枢性筋力低下に対して神経筋電気刺激(NMES)が有効であると報告されている。しかし,筋収縮を誘発する従来の運動閾値でのNMESでは,術後の腫脹や疼痛により至適な強度に設定することが困難な症例も経験する。Rostrupらは,電気刺激に表在性の温熱刺激(TS)を組み合わせることで疼痛を抑制し,電流強度に対する耐性を向上させると報告している。今回はTKA後症例に対してTSとNMESの組み合わせ刺激(cTEMS)を実施し,その効果を予備的に検証した。
【方法】
対象は当院にて片側TKAを施行した症例17名17膝とし,cTEMS群8名(男性2名,女性6名,平均年齢75.9±4.7歳)と非実施群(Control群)9名(男性1名,女性8名,平均年齢71.7±6.3歳)にカルテ番号の末尾の数字を用いて割り付けた。cTEMS群では,術後3週目より5日/週×2週間,cTEMSを大腿四頭筋へ実施した。機器はオートテンズプロIIIリハビリユニット(ホーマーイオン)を使用し,パラメータは二相性矩形波,周波数20Hz,パルス時間0.2msec,Duty cycle 4s on/2s offとした。電流強度は最大耐性強度とし,電極はシリコンパッド(6×8cm・導子温度43℃)を使用した。運動療法はクリニカルパスに準じて術後翌日より膝関節ROM拡大,下肢筋力増強,歩行・ADL練習を実施した。主要アウトカムは大腿四頭筋等尺性最大筋力(MVIC)体重比とし,Hand held dynamometerを用いて評価した。二次アウトカムはTimed Up and Go test(TUG),Stair Climbing Test(SCT),2分間歩行テスト(2MWT),膝伸展最大収縮時の疼痛とし,疼痛はVisual analogue scale(VAS)を用いて評価した。また生体電気インピーダンス法による下肢骨格筋量(LSMM)をIto-InBody370を用いて測定し,体重比を算出した。評価は術前と術後2・3・4週目の計4回測定した。下肢筋肉量はインプラントによる電気抵抗を考慮して術後のみの1・2・3・4週目の計4回測定した。各項目の平均値をMann-Whitney U-testを用いて群間比較し,有意水準は5%とした。
【説明と同意】
本研究では施設長,主治医,大和橿原病院倫理委員会の承認を得た上で症例に対し本研究の概要について説明し,文書による同意を得てから計測を実施した。
【結果】
cTEMS実施に関する有害事象は認めず,全対象者でプログラムを完遂した。MVICはcTEMS群とControl群で術前0.27±0.05・0.30±0.08kgf/kg,術後2週目0.12±0.03・0.13±0.03kgf/kg,3週目0.18±0.04・0.15±0.03kgf/kg,4週目0.24±0.03・0.19±0.03 kgf/kgとなり,術前と術後2週目では両群間に有意差はなかったが,術後3・4週目ではcTEMS群で有意に増大した(p<0.05)。TUGはcTEMS群とControl群で術前11.7±5.5・12.0±3.8sec,術後2週目12.5±2.8・13.5±4.8sec,3週目8.9±0.6・11.6±4.9sec,4週目8.2±0.9・10.4±3.5secとなり,術後3・4週目ではcTEMS群で改善傾向を示した。SCTはcTEMS群とControl群で術前14.7±6.6・13.0±6.8sec,術後2週目21.3±4.0・18.1±3.8sec,3週目15.0±2.5・14.4±4.8sec,4週目12.0±4.8・12.2±4.0secとなり,術後2週目ではControl群で有意に速かったものの,術後3・4週目では両群間に有意差は示さなかった。2MWTはcTEMS群とControl群で術前118±25・115±29m,術後2週目104±8・98±21m,3週目128±9・116±28m,4週目136±10・122±25mとなり,両群間に有意差は示さなかった。LSMMはcTEMS群とControl群で術後1週目92±12・100±21g/kg,2週目91±11・98±22g/kg,3週目87±9・95±26g/kg,4週目89±10・98±27g/kgとなり,両群間に有意差は示さなかった。膝伸展最大収縮時のVASはcTEMS群とControl群で術前22±19・11±10mm,術後2週目55±14・48±29mm,3週目28±13・37±22mm,4週目19±7・25±24mmとなり,両群間に有意差は示さなかった。
【考察】
NMESにTSを組み合わせることで不快感を軽減し,至適な電流強度で骨格筋を刺激できた可能性があり,MVICが有意に増大し,TUGとSCTで改善傾向を示した。LSMMには有意差はなかったことからMVIC増大は筋肥大ではなく,動員される運動単位増加によるものと考えられた。VASには2群間で有意差がなかったことから,MVIC増大は疼痛抑制ではなく,中枢神経システムを介した運動単位賦活によってもたらされた可能性がある。今後は周波数・パルス時間などの影響を捉え,より効果的なパラメータを調査する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
TKA後症例において,NMESにTSを組み合わせた方法の有用性が示唆された。cTEMSでは,症例への不快感を抑えられることが利点であることから従来の運動閾値でのNMESでは実施困難であった症例に適応できる可能性がある。