第49回日本理学療法学術大会

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脳損傷理学療法17

2014年5月31日(土) 11:20 〜 12:10 ポスター会場 (神経)

座長:増田知子(千里リハビリテーション病院)

神経 ポスター

[0883] 回復期リハビリテーション病棟入院患者における脳損傷後の麻痺側上肢に生じる浮腫の関連要因の検討

湯田智久1,2, 生野公貴1,2, 尾川達也1,2, 藤井慎太郎1 (1.医療法人友紘会西大和リハビリテーション病院, 2.畿央大学大学院健康科学研究科)

キーワード:脳卒中, 浮腫, 痛み

【はじめに,目的】
脳卒中後の麻痺側上肢に生じる浮腫(以下上肢浮腫)は関節可動域制限,疼痛をもたらし,活動的な動きの減少と廃用につながるとされている(Leibovitzら,2007)。先行研究において上肢浮腫は脳卒中後の16-82%に認められると幅広い発生率が報告されているにも関わらず,本邦における研究報告は少なく,病因は明らかでない。現在最も広く受け入れられている病因は,長期間の不使用と関連する静脈血の鬱血の増加と麻痺肢筋のポンプ機能の欠如とされているが,他にもリンパ還流障害(Wernerら,1997)や緊張の障害(Faghriら,1997,)等も報告されており,要因は一元的ではないと考えられる。また,上肢浮腫は手の機能に関連するとの報告(Boomkamp,2005)もみられるが,上肢浮腫に対する介入方法の根拠は乏しく,治療対象と認識され難いのが実情である。
本研究では,脳損傷後に生じる麻痺側上肢浮腫の病因,治療を明らかにするために,まずは当院回復期リハビリテーション病棟入院患者における浮腫の関連要因について検討することを目的とした。
【方法】
平成19年1月以降に当院回復期リハビリテーション病棟に入院した患者の中で平成25年9月までに退院した134名を対象(年齢71.2±14.1歳,男性77名,女性57名,脳梗塞77名,脳出血38名,クモ膜下出血8名,脳挫傷11名)とした。研究デザインは診療録を用いた横断研究とした。浮腫に関連する因子として,基礎情報は年齢,性別,診断名,麻痺側,身体機能・能力は麻痺側握力,上肢・下肢・手指のBrunnstrom stage(以下Br.st),Barthel Index(以下BI),麻痺側肩関節屈曲可動域,麻痺側上肢の筋緊張,長谷川式簡易知能評価スケール,浮腫・知覚障害・起居時の麻痺側上肢忘れ・亜脱臼・麻痺側肩の痛み(以下肩の痛み)・高次脳機能障害の有無とした。対象を浮腫の有無により,浮腫が生じた群(以下浮腫有り群)と浮腫が生じなかった群(以下浮腫無し群)の2群に分類した。まず,2群間での比較はMann-WhitneyのU検定,Wilcoxonの符号付き順位和検定およびχ2検定を行った。その後上肢浮腫に関与する因子の抽出を行うために従属変数を浮腫の有無,独立変数を2群間の比較で有意差が認められた基礎情報,身体機能・能力の評価項目として,ステップワイズ法による多重ロジスティック回帰分析を行った。欠損値に関しては代入値を用いずに解析を行った。統計学的分析には,JMPを用い,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は実施施設長の許可を得て実施し,ヘルシンキ宣言に基づき収集した情報は個人を特定できないようにした。
【結果】
浮腫有り群は40名,浮腫無し群は92名,残りの2名は不明であった。2群間の比較において浮腫有り群ではBr.st,肩関節屈曲可動域,BIが有意に低く,知覚障害・反側空間無視・肩の痛み・亜脱臼・起居時の上肢忘れは有りで有意差を認めた(p<0.05)。多重ロジスティック回帰分析においては,肩の痛み(オッズ比4.033,95%信頼区間:1.239-13.796),Br.stの手指(オッズ比0.148,95%信頼区間:0.025-0.836),起居時の上肢忘れ(オッズ比4.087,95%信頼区間:1.049-17.23)で有意差を認めた。
【考察】
本研究より上肢浮腫には,起居時の麻痺側上肢忘れ,肩の痛みが関連している可能性が考えられた。Boomkampらは浮腫の有無において,運動機能,知覚に差があり,高緊張が唯一の浮腫の予測因子であると報告しているが,本研究では筋緊張は浮腫との関連を認めず,肩の痛みと起居時の上肢忘れが認められた。Iwataらは浮腫が痛みの予測因子となることを報告しており,浮腫と痛みの関連が考えられている。また,Roosinkらは脳卒中後の肩の痛みが麻痺側への注意機能,肩の微細損傷と関連していることを報告しており,起居時の上肢忘れは微細損傷による肩の痛みにつながり,間接的に浮腫を引き起こしていたことも考えられた。また,浮腫有り群・無し群の比較において肩関節屈曲可動域,BI,知覚障害,反側空間無視,亜脱臼等の項目で有意差が出現したことからも,要因は他要因であり,浮腫に対する評価とその治療介入は多角的な視点が必要であると考えられた。本研究は欠測値や筋緊張の評価等で先行研究と異なった帰結を用いている等の問題点もあるが,先行研究と同様の因子を抽出し,かつ治療介入の根拠となるべき関連要因を抽出することができた。
【理学療法学研究としての意義】
脳損傷後の麻痺側上肢浮腫は臨床においてよく認められるが,本邦の理学療法研究において病因や治療を分析した報告は殆ど無く,回復期リハビリテーション病棟における発生率も不明である。本研究はその数少ない上肢浮腫に関する知見を提供し,上肢の機能的予後に影響しうる浮腫に対して多角的評価および介入の必要性を示唆するものである。