[0896] 脳卒中患者における小型無線加速度計を用いた歩行非対称性の推定
Keywords:ステップ時間, ステップ長, Leave-one-out法
【はじめに,目的】
脳卒中患者の代表的な歩行特性である歩行非対称性は,理学療法における治療対象の一つであり,その病態の把握や効果判定には客観的評価が必要である。われわれは,過去の関連学会において,加速度計を用いた歩行非対称性評価の妥当性を床反力計との比較から検討し,体幹前後加速度からステップ時間非対称性,体幹上下加速度からステップ長非対称性を評価できることを報告した。しかし,加速度計を用いた評価が真値とどの程度一致するかについては,十分に検討されていない。本研究の目的は,脳卒中患者の歩行非対称性について,床反力計から得られる真値を,加速度計で推定できるか検証することである。
【方法】
対象は,当院回復期病棟に入院した初発脳卒中患者で,杖を使用せずに10m以上の歩行が可能な25名とした。除外基準は,歩行に影響する整形外科疾患の既往,内科疾患による運動制限,研究内容の理解が困難な者とした。年齢は65±12歳(平均±標準偏差),発症後期間は98±45日,麻痺側下肢の運動機能は,Brunnstrom stage IIIが3名,IVが6名,Vが12名,VIが4名であった。杖なしでの歩行能力は,自立が9名,監視が16名であった。
課題は,杖を使用しない至適速度での10m歩行とし,5回測定した。測定機器は加速度計1台と床反力計4台を用い,両機器はサンプリング周波数60Hzで同時に記録した。
加速度計は対象者の第三腰椎部に弾性ベルトで固定し,体幹加速度を測定した。測定された加速度データは,計測波形全体のバイアスを除去するため振幅の平均値を0m/s2に補正し,定常歩行5周期分を加算平均した。歩行の初期接地は前方加速度ピーク,麻痺側と非麻痺側は側方加速度から識別した。加速度データの解析において,体幹前後加速度からステップ時間非対称性,体幹上下加速度からステップ長非対称性を評価した。体幹前後加速度の解析は,前方加速度ピークの時間間隔を測定し,非麻痺側から麻痺側までの初期接地ピーク間隔を麻痺側測定値とした。体幹上下加速度の解析は,初期接地後に連続して生じる上方加速度の積分値を算出し,麻痺側初期接地後の積分値を麻痺側測定値とした。
床反力計では足圧中心点を算出し,初期接地を特定した。初期接地の識別閾値は鉛直床反力5Nとした。一側の初期接地から反対側初期接地までの時間と前進距離を測定し,それぞれステップ時間およびステップ長とした。なお,非麻痺側初期接地から麻痺側初期接地までを麻痺側ステップと定義した。非対称性は,(麻痺側測定値-非麻痺側測定値)÷(麻痺側測定値+非麻痺側測定値)×100%で算出した。完全な対称は0%となる。
統計解析では,加速度計測定値と回帰式による推定値について,真値の推定精度を検討した。加速度計推定値はLeave-one-out法を用いて,全データから1名のデータを除外して加速度計測定値から真値を推定する回帰式を作成し,除外した1名の加速度計測定値を回帰式に代入して算出した。この手続きを全対象者で実施した。推定精度の指標は二乗平均平方根誤差を算出した。推定精度の数値が,真値の最小可検変化量以下を精度良好とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
当院倫理審査会の承認後,ヘルシンキ宣言に従い,対象者全員に研究内容の十分な説明後に同意を得て研究を実施した。
【結果】
歩行速度は0.86;0.19~1.25m/s(中央値;最小値~最大値)であり,ステップ時間非対称性およびステップ長非対称性の真値は,それぞれ6.2;-0.2~32.1%,3.3;-11.6~26.2%であった。非対称性の最小可検変化量は,ステップ時間が6.0%,ステップ長が12.0%であった。加速度計を用いたステップ時間非対称性評価の推定精度は,加速度計測定値が5.5%,加速度計推定値が4.6%であった。推定値の算出に用いた回帰式は,測定値×0.81(0.81~0.82)+1.25(1.17~1.33)であった(平均値(95%信頼区間))。加速度計を用いたステップ長非対称性評価の推定精度は,加速度計測定値が18.3%,加速度計推定値が7.6%であった。推定値の算出に用いた回帰式は,測定値×0.23(0.22~0.24)+2.40(2.27~2.53)であった。
【考察】
加速度計を用いた脳卒中患者の歩行非対称性評価は,ステップ時間およびステップ長のどちらにおいても,回帰式を用いて精度の高い推定が可能であることが示された。今後の研究では,加速度計を用いた歩行非対称性評価の推定精度を低下させる原因を解明し,加速度計による評価の適用基準を明確にする必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
計測の制約が少なく比較的簡便に使用できる加速度計が,脳卒中患者の歩行非対称性を客観的に評価できることを明らかにした点で意義がある。これは,歩行非対称性の病態把握や効果判定に用いることができ,根拠に基づく理学療法を遂行するうえで価値がある。
脳卒中患者の代表的な歩行特性である歩行非対称性は,理学療法における治療対象の一つであり,その病態の把握や効果判定には客観的評価が必要である。われわれは,過去の関連学会において,加速度計を用いた歩行非対称性評価の妥当性を床反力計との比較から検討し,体幹前後加速度からステップ時間非対称性,体幹上下加速度からステップ長非対称性を評価できることを報告した。しかし,加速度計を用いた評価が真値とどの程度一致するかについては,十分に検討されていない。本研究の目的は,脳卒中患者の歩行非対称性について,床反力計から得られる真値を,加速度計で推定できるか検証することである。
【方法】
対象は,当院回復期病棟に入院した初発脳卒中患者で,杖を使用せずに10m以上の歩行が可能な25名とした。除外基準は,歩行に影響する整形外科疾患の既往,内科疾患による運動制限,研究内容の理解が困難な者とした。年齢は65±12歳(平均±標準偏差),発症後期間は98±45日,麻痺側下肢の運動機能は,Brunnstrom stage IIIが3名,IVが6名,Vが12名,VIが4名であった。杖なしでの歩行能力は,自立が9名,監視が16名であった。
課題は,杖を使用しない至適速度での10m歩行とし,5回測定した。測定機器は加速度計1台と床反力計4台を用い,両機器はサンプリング周波数60Hzで同時に記録した。
加速度計は対象者の第三腰椎部に弾性ベルトで固定し,体幹加速度を測定した。測定された加速度データは,計測波形全体のバイアスを除去するため振幅の平均値を0m/s2に補正し,定常歩行5周期分を加算平均した。歩行の初期接地は前方加速度ピーク,麻痺側と非麻痺側は側方加速度から識別した。加速度データの解析において,体幹前後加速度からステップ時間非対称性,体幹上下加速度からステップ長非対称性を評価した。体幹前後加速度の解析は,前方加速度ピークの時間間隔を測定し,非麻痺側から麻痺側までの初期接地ピーク間隔を麻痺側測定値とした。体幹上下加速度の解析は,初期接地後に連続して生じる上方加速度の積分値を算出し,麻痺側初期接地後の積分値を麻痺側測定値とした。
床反力計では足圧中心点を算出し,初期接地を特定した。初期接地の識別閾値は鉛直床反力5Nとした。一側の初期接地から反対側初期接地までの時間と前進距離を測定し,それぞれステップ時間およびステップ長とした。なお,非麻痺側初期接地から麻痺側初期接地までを麻痺側ステップと定義した。非対称性は,(麻痺側測定値-非麻痺側測定値)÷(麻痺側測定値+非麻痺側測定値)×100%で算出した。完全な対称は0%となる。
統計解析では,加速度計測定値と回帰式による推定値について,真値の推定精度を検討した。加速度計推定値はLeave-one-out法を用いて,全データから1名のデータを除外して加速度計測定値から真値を推定する回帰式を作成し,除外した1名の加速度計測定値を回帰式に代入して算出した。この手続きを全対象者で実施した。推定精度の指標は二乗平均平方根誤差を算出した。推定精度の数値が,真値の最小可検変化量以下を精度良好とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
当院倫理審査会の承認後,ヘルシンキ宣言に従い,対象者全員に研究内容の十分な説明後に同意を得て研究を実施した。
【結果】
歩行速度は0.86;0.19~1.25m/s(中央値;最小値~最大値)であり,ステップ時間非対称性およびステップ長非対称性の真値は,それぞれ6.2;-0.2~32.1%,3.3;-11.6~26.2%であった。非対称性の最小可検変化量は,ステップ時間が6.0%,ステップ長が12.0%であった。加速度計を用いたステップ時間非対称性評価の推定精度は,加速度計測定値が5.5%,加速度計推定値が4.6%であった。推定値の算出に用いた回帰式は,測定値×0.81(0.81~0.82)+1.25(1.17~1.33)であった(平均値(95%信頼区間))。加速度計を用いたステップ長非対称性評価の推定精度は,加速度計測定値が18.3%,加速度計推定値が7.6%であった。推定値の算出に用いた回帰式は,測定値×0.23(0.22~0.24)+2.40(2.27~2.53)であった。
【考察】
加速度計を用いた脳卒中患者の歩行非対称性評価は,ステップ時間およびステップ長のどちらにおいても,回帰式を用いて精度の高い推定が可能であることが示された。今後の研究では,加速度計を用いた歩行非対称性評価の推定精度を低下させる原因を解明し,加速度計による評価の適用基準を明確にする必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
計測の制約が少なく比較的簡便に使用できる加速度計が,脳卒中患者の歩行非対称性を客観的に評価できることを明らかにした点で意義がある。これは,歩行非対称性の病態把握や効果判定に用いることができ,根拠に基づく理学療法を遂行するうえで価値がある。