第49回日本理学療法学術大会

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身体運動学11

2014年5月31日(土) 13:00 〜 13:50 ポスター会場 (基礎)

座長:石田弘(川崎医療福祉大学リハビリテーション学科)

基礎 ポスター

[0938] 立ち上がり動作における大腿回旋運動について

豊田裕司, 関田惇也, 萩原耕作, 湯田健二 (海老名総合病院)

キーワード:立ち上がり動作, 大腿回旋運動, 角速度計

【はじめに,目的】
臨床上,立ち上がり時に股関節や膝関節に疼痛を訴える症例を多く経験する。特に球関節である股関節では水平面運動,ひいては大腿回旋運動を捉えることは重要であると思われる。諸家より,立位では骨盤前傾に伴い大腿内旋,骨盤後傾に伴い大腿外旋するとの報告がある。しかし,立ち上がり動作における矢状面での動きを捉えた文献は散見するが,水平面での動きを捉えた文献は少なく,大腿と骨盤の関係は統一見解を得ていない。
そこで,本研究の目的は,立ち上がり動作における空間上の大腿回旋運動及び,骨盤前後傾と大腿回旋運動の関連性について角速度計を用いて検討することとした。
【方法】
対象は,整形外科的疾患を有さない健常成人22名(男性17名,女性5名,年齢26.4歳±3.95)とした。
測定課題は,両上肢を胸部で組んだ椅座位からの立ち上がり動作とし,動作速度は各被験者の行いやすい至適速度とした。開始肢位は,座面の先端に大腿長の中点と合わせた膝関節屈曲80°とした。前額面上の足部の位置は,左右上前腸骨棘間と足関節中心(内外果間の中心)の幅を一致させた。また,計測は数回練習後,5回計測を行った。
使用機器は,Micro Stone社製の小型無線モーションレコーダ(MVP-RF8-GC)を使用した。小型無線モーションレコーダは骨盤と大腿遠位部に装着した。得られた角速度データから動作時の大腿,骨盤の角速度を抽出した。
動作開始および終了の規定は,骨盤前傾運動の開始から骨盤後傾運動の終了とした。動作の全期間を100%とし,各5%の値を骨盤前後傾平均角速度とした。また,骨盤前後傾平均角速度に各相の時間を乗じて,骨盤前後傾積分値を求めた。角速度は正の値を前傾及び外旋とした。立ち上がり動作の相分けは,骨盤前傾運動の開始から骨盤前傾角速度のピーク値までを1相,骨盤前傾角速度のピーク値から骨盤前後傾運動の切り替わりを2相,骨盤前後傾運動の切り替わりから骨盤後傾角速度のピーク値までを3相,骨盤後傾角速度のピーク値から骨盤後傾運動の終了までを4相とした。
立ち上がり動作における大腿回旋運動の傾向をみるため,各相における大腿回旋平均角速度を算出し,各相において正の値を示したものを大腿外旋と定義した。
以上のパラメータを用いて各相間における差の検定をTukey法による多重比較法を用いて実施した。また,大腿回旋運動と骨盤前後傾運動及び骨盤前後傾角度変化量の関係性を明らかにするため,大腿回旋平均角速度に対する骨盤前後傾平均角速度,骨盤前後傾積分値をPearsonの積率相関係数を用いて検討した。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
研究に先立ち,被験者に本研究の目的と趣旨を十分に説明し,口頭にて同意を得て行った。なお,本研究はヘルシンキ宣言に基づき当院倫理委員会の承認を得て行った。
【結果】
大腿回旋平均角速度は1相-0.0357±0.242rad/s,2相1.57±1.08rad/s,3相0.976±0.979rad/s,4相0.398±0.679 rad/sであった。各相間における大腿回旋平均角速度では1相と2相(p<0.01),1相と3相(p<0.01),2相と4相(p<0.01)のみ有意差を認めた。大腿回旋平均角速度と骨盤前後傾平均角速度及び骨盤前後傾積分値に,有意な相関は認められなかった。
【考察】
今回の研究では,健常成人の立ち上がり動作において1相に対して2相3相は有意に大腿回旋平均角速度が髙値となっていることから,骨盤前傾速度が減少し,その後後傾に切り替わり速度が増加していく時期において大腿外旋運動が出現していると考えられた。また,4相に対して2相は有意に外旋速度が髙値となっているが,3相とは差がなく,平均値との比較で,2相から4相にかけて徐々に大腿外旋平均角速度が低下していることから,骨盤後傾していく時期において大腿外旋運動が減少していると考えられた。有意に大腿外旋運動が出現した時期は,股関節屈曲角度が増加している時期である。建内は,臼蓋と大腿骨頭による骨の形態的特徴から,股関節屈曲位では外転,外旋を伴うと述べている。立ち上がりにおける大腿外旋運動は骨の構造的特徴により生じると考えられる。
統計上,立ち上がり動作における骨盤前後傾運動と大腿回旋運動との関連性は見いだすことはできなかったが,骨盤前後傾に分けた相で大腿回旋運動に有意差を生じたことから,骨盤と何らかの関係はあると考えられた。健常成人における矢状面での骨盤前後傾角度変化や運動方向に関わらず,大腿は外旋運動することが示唆され,よって今後下腿や体幹等との関連性を検討していく必要があると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法上評価指標とすることが多い立ち上がり動作において,健常成人では大腿外旋運動を伴うことが示され,水平面での関節におけるストレスを解明するための一助となると考える。理学療法施行上,3次元で動作を捉える必要性があると再確認した。