第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 基礎理学療法 口述

生体評価学3

2014年5月31日(土) 13:55 〜 14:45 第4会場 (3F 302)

座長:松原貴子(日本福祉大学健康科学部)

基礎 口述

[0983] 超音波診断装置による分節ごとの定量的腰部可動性評価方法の検討

兎澤良輔1,2,3, 加藤宗規1, 荒巻英文1, 隈元庸夫3, 藤縄理3 (1.了德寺大学健康科学部理学療法学科, 2.医療法人社団了德寺会葛西整形外科内科リハビリテーション科, 3.埼玉県立大学保健医療福祉学研究科)

キーワード:超音波, 腰部可動性, 信頼性

【目的】
腰部可動性は腰痛との関連が示唆されており,可動性にあわせた治療選択は高い治療効果を得られることが報告されていることからも,腰部可動性評価は重要である。現在の定量的な腰部可動性評価は関節可動域検査や指床間距離,modified Schober testなどが使用されている。しかし,これらは腰部の全体的な可動性の評価方法であり,腰部だけでなく骨盤帯や股関節などの可動性を含めて複合的に評価している。また,これらの評価法では,腰部をL1-2・L2-3など分節ごとに捉えることはできない。分節ごとの腰部可動性評価は触診などの定性的評価が主に行われている。しかし,定性的評価は検査者の主観や経験に大きく左右され,信頼性は高くないことが報告されている。そこで,本研究では超音波診断装置(以下US)を使用した分節ごとの定量的腰部可動性評価を行い,その評価方法の信頼性について検討を行った。
【方法】
対象者は整形外科的既往のない男性10名,検者は理学療法士2名とした。使用機器はUS(GE Healthcare社製vivid-i),プローブは周波数6.3MHz,分解能2.0mmのリニア式プローブ(GE Healthcare社製8L-RS),また,撮影時は超音波ゲル(日本光電工業社製)を使用した。対象者10名について,正座にて股関節・腰椎を最大屈曲した姿勢(屈曲位),腹臥位(中間位),パピー肢位(伸展位)の3つの姿勢にて撮影を行った。検者は対象者のL1-5を触診し,マーキングを行った。マークを目印にプローブを脊柱に対して平行,かつ棘突起の直上に垂直に置き,腰椎棘突起の画像を撮影した。部位はL1-2,L2-3,L3-4,L4-5間の4分節とし,各姿勢でそれぞれ3回連続撮影した。対象者10名×4分節×3姿勢×3回測定×検者2名の計720枚の画像の分析を行った。分析は画像内の棘間をUSの計測機能を使用し1mm単位で計測した。画像からの棘間計測は先行研究により,検者内及び検者間信頼性が高いことから,画像の分析者は理学療法士1名とした。また,1枚の画像に対して1回の計測とした。棘突起の頂点部分よりも末端部分での計測が信頼性は高いことから,末端部分を指標点として選択した。その際,末端部分の指標点は定義化を行い,計測を行った。2名の検者が撮影した720枚すべての棘間計測結果から検者内信頼性,検者間信頼性について級内相関係数(以下ICC)を用いて検討した。統計は統計処理ソフトR2.8.1を使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は埼玉県立大学倫理委員会の承認を得た(登録番号24713)。また,対象者には十分な説明を行い,文書による同意を得た上で研究を実施した。
【結果】
屈曲位での各分節の検者内信頼性ICC(1,1)は0.948~0.988となった。また検者間信頼性ICC(2,1)は0.745~0.845となった。中間位では検者内信頼性ICC(1,1)は0.824~0.962であった。また,検者間信頼性ICC(2,1)は0.605~0.876となった。伸展位での検者内信頼性ICC(1,1)は0.856~0.970となった。また,検者間信頼性ICC(2,1)は0.649~0.746となった。
【考察】
ICCは先行研究によれば0.700以上であれば信頼性は良好とされている。本測定方法では検者内信頼性はすべての姿勢,すべての分節においてICC(1,1)は0.824以上となったため,信頼性は良好であったと考えられる。しかし,検者間信頼性は屈曲位では良好であったが,中間位,伸展位では中等度の信頼性となった。これは屈曲位では最も皮下の軟部組織が伸張され,皮膚表面から棘突起までの距離が短くなり,棘突起が他の姿勢よりも明瞭に撮影出来たことが要因の一つではないかと考えられた。また,2名の検者が撮影した際に対象者の測定姿勢の定義付けを行ったが,全く同一の姿勢にすることが出来ていなかったことや,プローブなどの機器の操作方法により信頼性が低下したものと考えられた。今後,検者間信頼性を高めるためには3つの姿勢の詳細な定義化を行うことや,USやプローブの操作の手引を作成することなどが考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究でUSを用いた分節ごとの定量的腰部可動性評価方法は,検者内信頼性では高い信頼性を示し,検者間信頼性においては中等度の信頼性を示した。今後,測定方法や手順を統一することで信頼性の高い実用的な評価方法となり,腰部に対する理学療法選択の一助となることや,治療効果判定としての応用が考えられる。