第49回日本理学療法学術大会

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発達障害理学療法1

2014年5月31日(土) 13:55 〜 14:45 第13会場 (5F 503)

座長:小塚直樹(札幌医科大学保健医療学部理学療法学科)

神経 口述

[1009] 運動障害をもつ子どものtactile localization能力と運動機能の関係

浅野大喜1,2, 森岡周1 (1.畿央大学大学院健康科学研究科, 2.日本バプテスト病院リハビリテーション科)

キーワード:運動障害, 感覚, 身体イメージ

【はじめに,目的】
脳性麻痺に限らず発達障害児は不器用さなど運動に困難をもつ場合が多い。これまでの研究では上肢について手の知覚能力と運動機能に関係があることが明らかとなっている(Krumlinde-Sundholm&Eliasson,2002)。なかでも触れられた身体部位を同定するtactile localization(以下,TL)は身体イメージの指標とされ,先行研究では手指のTLと手の運動機能との関係が示されている(Auld et al.,2012)。しかし下肢についてはいまだ調べられていない。本研究の目的は,運動に困難さをもつ子どもの上下肢のTL能力と運動機能との関係について調査することである。
【方法】
対象は運動発達遅滞をもつ子ども16名(男児10名,女児6名,平均月齢79.0±35.1)である。診断の内訳は,脳室周囲白質軟化症による軽度脳性麻痺7名,知的障害3名,自閉症スペクトラム障害3名,発達性協調運動障害2名であった。TLは接触された身体部位を同定する能力を意味し,指し示す対象が自己身体ではなくイラストなどの外部対象の場合には身体イメージの指標になるとされている。方法は,対象者の視覚を遮断した状態で,上肢については手指の先端,下肢については足趾の先端,さらに下肢のうち下腿の遠位,近位部,大腿の遠位,近位部の4ヵ所を実験者がランダムに触れ,対象者には触れられた部位と同じ部位を,目の前に提示された身体のイラストにつけられたマーカーのいずれかを指さしするよう求めた。なお指のTLは第1~5指(趾)と第1,3,5指(趾)の2条件を設け,5指と下肢全体については各身体部位2回ずつそれぞれ計10回と8回,3指については各3回ずつ計9回接触し,その正答率を算出した。なお感覚障害の影響を最小限にするため,触れられている感覚があることを毎回確認しながら実施した。運動機能の評価は,上肢についてはManual Ability Classification System(MACS),ペグボードテスト,iPadアプリを利用したタッチスピードテストの所要時間とエラー数を,下肢についてはGross Motor Function Classification System(GMFCS),Gross Motor Function Measure(GMFM)の立位と歩行,走行の2領域の合計点,片脚立位時間,片脚跳躍回数を評価した。また非言語的知能の評価としてレーヴン色彩マトリックス検査(RCPM)を実施した。データ分析は,まず上肢,下肢機能についてMACS,GMFCSの結果をもとにそれぞれ高機能群と低機能群の2群に分け,月齢,RCPM,TL能力について比較した。次にTLと運動機能評価の関係を調べるために相関分析を行った。なお有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究を実施するにあたり,研究の目的と方法について対象児の両親に文書,口頭にて説明し同意を得た。なお本研究は本大学研究倫理委員会の承認を得ている。
【結果】
上肢の高機能群(MACS=1)7名と低機能群(MACS>1)9名の比較では,月齢,RCPM,手指のTLに有意差は認められなかった。下肢の高機能群(GMFCS=1)8名と低機能群(GMFCS>1)8名の比較では,月齢,RCPM,足趾のTLに有意な差はなかったが,足趾TLと下肢全体TLの平均値は高機能群のほうが有意に高かった(p<0.05)。TLと運動機能の相関分析の結果,5指のTLとペグボードテスト,タッチスピードとの間に有意な相関関係が認められた(ペグボードテスト:ρ=0.43,タッチスピード:ρ=0.52,いずれもp<0.05)。また下肢については,足趾のTLと運動機能との間には有意な関係はなかったが,3趾のTLと下肢TLを合わせた平均値と片脚立位時間,片脚跳躍回数との間に有意な正の相関関係が認められた(片脚立位:ρ=0.37,p<0.05,片脚跳躍:ρ=0.49,p<0.01)。
【考察】
上肢のTLと上肢機能との間に正の相関関係があったことは先行研究の結果と一致する。今回下肢については,足趾のTLだけでなく下肢全体のTLも含めたTL能力と下肢の運動機能の間に有意な関係性が認められた。これはバランス保持には足趾の身体イメージだけではなく下肢全体のイメージが関与している可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果は,運動に困難さをもつ発達障害児の知覚と運動との関係を明らかにしたものであり,発達障害児の運動機能向上のために知覚に焦点を当てた治療の必要性を示唆するものである。