第49回日本理学療法学術大会

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身体運動学13

2014年5月31日(土) 13:55 〜 14:45 ポスター会場 (基礎)

座長:武田涼子(東北文化学園大学医療福祉学部リハビリテーション学科理学療法学専攻)

基礎 ポスター

[1015] クラインフォーゲルバッハの運動学に基づいたバランス戦略について重心動揺計を用いて定量的に評価する試み

八木崇行1,2, 古山宣洋2,3, 冨田昌夫4, 伊藤慎英4, 藤野宏紀1, 宮下大典1, 遠松哲志1, 野口健人1, 高田勇1, 田村妃登美1, 吉田育恵1 (1.医療法人鉄友会宇野病院リハビリテーション部, 2.総合研究大学院大学複合科学研究科情報学専攻, 3.国立情報学研究所, 4.藤田保健衛生大学医療科学部リハビリテーション学科)

キーワード:バランス, 重心動揺, 片麻痺

【はじめに,目的】バランス戦略で広く知られているものとして,股関節戦略,足関節戦略がある(Nashner and McCollum,1985)。これらは,姿勢制御を少ない自由度で表現でき,広く受け入れられている。しかし,静的で部分的な表現に限られるなどの問題も指摘されている(Bardy et al,1999)。そこで,われわれはクラインフォーゲルバッハ(KV)の運動学に基づいたバランス戦略の評価に着目した(冨田,2000)。この評価は,特別な機器を必要とせず,重力と身体との関係性について視覚的に簡便に評価できるだけでなく,どのような姿勢や身体部位にも適用できるなど前述のバランス戦略の問題点を克服できるメリットがある。またこの評価ではバランス戦略をCounter Activity(CA)戦略とCounter weightを活性化する(CW)戦略に大別している。一般的に健常者は,CA戦略とCW戦略を組み合わせ姿勢制御している。一方で,片麻痺者はCW戦略をとりやすいとされる(佐藤,1993;冨田,2001;玉利ら,2008)。しかし,このバランス戦略について定量的に評価した報告はないのが現状である。そこで今回,これらの戦略の定義を再確認し,この評価に適した静止立位時の足圧中心(COP)パラメータを抽出した。そして,そのパラメータについて健常者と片麻痺者で比較,検討した。
【方法】KVの運動学についての本邦での報告を調査すると,冨田が1994年,2000年に報告していた。これらの報告では,CA戦略は支持基底面内でのCOPの変化を伴いながら,筋活動で運動を直接制御し,目的を遂行する戦略と定義される。一方,CW戦略はCOPを変化させずに重りの釣り合いが取れるよう身体の各位置を変化させながら目的を遂行する戦略あるいは,身体の一部を元の運動と逆方向に移動させ,元の運動を減速させることと定義され,これが達成できない場合に不安定となる。以上より,KVの運動学では身体の位置関係や速度に着目していることがわかった。そして,特にCW戦略では釣り合いが不均衡となる場合があり,速度のバラツキが大きくなると考えられた。この知見に基づき,COP速度の標準偏差(速度SD)と前後左右各方向に分けた速度SDを算出し,健常者と片麻痺者で比較することとした。被験者は健常男性11名(年齢25±2歳,身長168±4cm,体重60±7kg)と男性片麻痺者7名(右片麻痺3名,左片麻痺4名,平均年齢70±13歳,平均身長162±5cm,平均体重56±11kg)とし,静止立位時のCOPを重心動揺計(Medicapteurs社製WinPod)にてサンプリング周波数100Hzで20秒間計測した。計測は開眼にて行い,眼前に棒のない条件,眼前2mに長さ180cm直径1cmの棒1本を立てた条件,眼前2mに25cm間隔で横並びに棒3本を立てた条件の3条件で各2回,計6回ランダムで実施した。そして,定義より抽出した速度SD,前後左右各速度SDについて健常者と片麻痺者で比較検討した。統計学的解析では6回の計測値を平均した値を,各被験者の代表値とし,Mann-Whitney U testを用いて比較した。
【倫理的配慮,説明と同意】当院倫理委員会の承認の下,被験者には紙面と口頭にて説明を行い,同意を得た。
【結果】得られた速度SDはそれぞれ健常者13.7±2.1mm/s,片麻痺者25.8±10.6mm/sであり,Mann-Whitney U testで有意差を認めた(p<0.05)。左右速度SDは健常者19.3±2.9mm/s,片麻痺者33.2±11.0mm/s,前後速度SDは健常者19.1±2.9mm/s,片麻痺者33.3±16.1mm/sであった。Mann-Whitney U testで左右方向のみ有意差を認めた(p<0.01)。また,その比率(前後速度SDで左右速度SDを除した値:速度SD比)は,健常者1.0±0.1に対して,片麻痺者は1より大きい被験者4名(1.3±0.2)と小さい被験者3名(0.8±0.1)に分かれた。
【考察】今回,KVの運動学におけるバランス戦略の定義からCW戦略が優位になっている場合,速度SDが大きくなると考えた。そして,CW戦略が優位とされる片麻痺者で健常者よりも速度SDが有意に大きな値を示した。この結果より,KVの運動学におけるCW戦略が優位な場合には速度SDが大きな値を示すことが示唆された。また,片麻痺者と健常者で速度SD比が異なり,この値は姿勢制御の特徴を示す指標である可能性が考えられた。片麻痺者においては効率的な姿勢制御を行うために非麻痺側を中心とした立位を構築する場合がある(長谷,2006)。つまり,片麻痺者と健常者の姿勢制御では異なる戦略をとっていると考えられ,このような指標を用いることで,姿勢制御戦略をより詳細に評価できる可能性があると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】今回の結果より,KVの運動学に基づいたバランス戦略を定量的に評価できる可能性を示すことができたと考えている。また,高齢健常者との比較や片麻痺者の回復過程などを評価していく際にも応用可能であり,臨床的に意義のある研究と考えている。