第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 生活環境支援理学療法 ポスター

福祉用具・地域在宅5

2014年5月31日(土) 13:55 〜 14:45 ポスター会場 (生活環境支援)

座長:目黒力(群馬パース大学保健科学部理学療法学科)

生活環境支援 ポスター

[1033] 介護老人保健施設での包括的褥瘡ケアシステム

小武海将史1, 奥壽郎2 (1.介護老人保健施設ハートケア湘南芦名, 2.宝塚医療大学保健医療学部理学療法学科)

キーワード:介護老人保健施設, 褥瘡, 包括的ケアシステム

【はじめに】褥瘡は長期間臥床することにより生じる創傷で,筋委縮や関節拘縮と同様に長期の安静によって生じる廃用症候群の1つでADLやQOLを低下させる。急速に高齢化が進行するわが国において,褥瘡はますます重要な問題になっている。当施設は入所定員150名で開設13年になる。これまで独自の褥瘡ケアマニュアルを用い褥瘡ケアに取り組んでいた。平成23年9月からの1年間での褥瘡新規発生率は10.5%,褥瘡治療者数は29.1%であった。調査方法の相違はあるが,日本褥瘡学会が2010年に実施した全国実態調査での介護老人保健施設の有病率は2.2%,推定発生率は1.75%でいずれも当施設が大きく上回っている。そこで1年間の褥瘡ケアの問題点を検討し,平成24年9月に,包括的褥瘡ケアシステムを導入した。本研究の目的は,包括的褥瘡ケアシステム(システム)導入1年後の,新規発生率,治療者数などの変化について検討することである。
【褥瘡ケアシステム】システム導入前の問題点として,褥瘡に対するリスク評価が機能していない,各専門職の役割分担が曖昧であった,カンファレンスが設定されてなくモニタリングであった,これらの結果褥瘡防止用具の適応の基準が不明確であったことなどが考えられた。システムでは,OHスケールでの褥瘡リスク評価,各専門職の役割および業務の明確化,書式の見直し,新規入所者入所時に褥瘡の有無(深達度による重症度分類II以上)及びリスクの評価を行いその結果によって,各種褥瘡カンファレンス(発生,継続,完治,経過)を開催する。開催頻度は各カンファレンスにより規定している。また,施設全職員を対象に2回の褥瘡ケアに関する勉強会を実施,褥瘡防止用具の補充を行った。
【方法】対象は,平成23年9月からの2年間の当施設入所者491名(男性164名・女性327名,平均年齢83.1歳,平均介護度3.11)とした。システム導入前1年間(平成23年9月~平成24年8月:男性83名・女性155名,平均年齢83.0歳,平均介護度3.04:導入前)とシステム導入後1年間(平成24年9月~平成25年8月:男性81名・女性172名,平均年齢83.3歳,平均介護度3.18:導入後)に分類し,年間褥瘡新規発生率(新規発生者数および延べ入所者数に対する新規褥瘡発生者の割合:新規発生率),年間褥瘡治療者数(治療者数および延べ入所者数に対する治療者数の割合:治療者数),年間褥瘡重症度別治療者数(総治療者数に対する重症度別治療者数および割合:重症度別治療者数),年間繰り越し治療者数(褥瘡の治療が2ヶ月以上要した治療者数および総治療者数に対する繰り越し治療者数の割合:繰り越し治療者数)を後方視的に収集した。データは単純集計を行い,導入前と導入後を比較検討した。
【倫理的配慮】施設の入所者および家族には,入所時にシステムの目的と内容および研究について説明をして同意を得た。また,施設の倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】新規発生率は,導入前25人・10.5%,導入後は56人・22.1%であった。治療者数は,導入前は69人・29.1%,導入後は85人・33.5%であった。重症度別治療者数は,導入前では,IIは50人72.4%,IIIは13人18.8%,IVは6人8.6%であった。導入後では,IIは83人97.6%,IIIは2人2.3%であった。繰り越し治療者数は,導入前は43人・18.1%,導入後は29人・11.4%であった。
【考察】導入前に比べ導入後では,新規発生率が増加する結果となった。この要因として,システム導入により褥瘡の早期発見・報告が徹底されたことがあげられる。また,重症度別治療者数では,導入前では,ステージIII・IVが27.4%存在していたのに対し,導入後ステージIIIは2.3%であり,ステージIIからの早期発見が浸透したことが推察できる。また,年間繰り越し治療者数は,導入前に比べ導入後は低下していた。システムを導入したことで,褥瘡の治療にも好影響をもたらした点に加え,早期発見により重症度の軽症期から治療が開始できたことが,治療期間を短縮させたものと考えられた。これらの結果新規発生率が増えているにも関わらず治療者数は大差が無い成果が得られた。今後は,職員の意識および知識・技術面の影響,フロア別の検討などを行う必要があると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】高齢者を対象とする理学療法分野では,褥瘡をはじめとする廃用症候群はADL,QOLの阻害因子となる。介護老人保健施設全体で褥瘡に対する包括的な取り組みを行い成果をあげたことは意義が大きい。