[1109] 特発性肺線維症の線維化急性進行に対する急性期リハビリテーションの一例
キーワード:特発性肺線維症, 呼吸困難, セルフマネジメント
【はじめに】
特発性間質性肺炎とは労作時の低酸素血症,呼吸困難,乾性咳嗽を主症状とし,一般的に予後不良とされている。そして徐々に進行する呼吸困難の増悪から不安やうつ症状を併発し,活動制限に伴う廃用症候群をきたしやすい。また特発性肺線維症の診断確定後の平均生存期間は2.5~5年間,とくに急性増悪をきたした後の平均生存期間は2ヶ月以内との報告もある。今回,特発性肺線維症における線維化病変の急性進行により呼吸困難が増悪し,パニック症状を呈した症例に対し,呼吸リハビリテーション,運動療法と併せて病態の理解と症状に対するセルフマネジメントの獲得により自宅退院に至った症例を経験したので報告する。
【症例紹介】
66歳女性,身長:157.6cm,体重:49.5kg,BMI:19.6,診断名:特発性肺線維症,主訴:労作時の呼吸困難,現病歴:入院数日前から呼吸困難と咳嗽が増悪し,会話や食事が不可能となり内科外来受診後,間質性肺炎増悪が疑われ,咳嗽コントロール目的で入院,既往歴:60歳から同疾患を発症,ステロイドパルス,免疫抑制剤での治療後,往診によりフォローアップ中,在宅酸素療法導入済,喫煙歴無し。
【倫理的配慮,説明と同意】
本症例には今回の発表の主旨を説明し,同意を得た。
【経過】
入院3病日目よりリハビリ開始。介入初期は頻呼吸(45回/分)と頻回な乾性咳嗽をみとめ,会話が困難であり,パニック症状を呈していた。呼吸困難感は修正MRC:grade 4,修正Borgスケール:8,呼吸補助筋は亢進状態であった。リハビリでは口すぼめ呼吸による呼吸コントロール,呼吸補助筋に対するリラクゼーション,安楽肢位の確立,そしてこれらに対するセルフマネジメントの指導を実施。7病日目に経鼻酸素(5.0L/min)で車椅子にてリハビリ室へ出棟。起居,起立,移乗動作,平行棒内歩行は近位監視レベルであった。11病日目より頻呼吸,乾性咳嗽が再発し呼吸困難感が増悪。16病日目に皮下気腫,縦隔気腫を発症しパニック症状が再燃。33病日目まではベッドサイドにて呼吸トレーニング,リラクゼーション,下肢筋力維持増強トレーニングを実施。またこれらと併せて自宅でのADL,QOL維持・改善に向けた病態の理解と症状に対するセルフマネジメントの重要性を説明。その上で呼吸,身体活動,栄養,食事の摂食方法など,日常生活におけるセルフマネジメント方法の指導を実施。さらに将来に対する不安や不定愁訴を傾聴することでメンタルケアも併せて実施。25病日目よりパニック症状が緩和。34病日目に再びリハビリ室へ出棟可能となる。38病日目より食事が全量摂取可能となる。40病日目に家族に対してもセルフマネジメント方法の指導を実施。42病日目に自宅退院となる。退院時の呼吸回数は35回/分,呼吸困難感は修正MRC:grade 4,修正Borgスケール:4,呼吸補助筋に著しい亢進は認めなかった。
【考察】
呼吸困難とは「呼吸に伴う不快な感覚の総称」とされ,生体にとって最も基本的な苦痛の一つである。本症例は呼吸困難に対する対処方法を知り得ていなかったため日常生活において活動を制限していた。その結果,身体活動量低下,食欲低下,栄養不足,廃用症候群の進行という悪循環を呈していた。この背景には徐々に進行する呼吸困難への不安や,それに伴うパニック症状への対応困難といった精神的要素も大きく影響していたと考えられる。またCOPD患者の呼吸消費エネルギーは健常人の約10倍と言われているが,本症例においても頻回な呼吸や咳嗽,呼吸補助筋の亢進などにより,呼吸に要する消費エネルギーが増加していたと推測される。そこで本症例では呼吸リハビリテーションや運動療法のみならず,身体活動の基礎となる栄養,食事,そしてそれらを包括した病態の理解と症状に対する対策へのセルフマネジメントを本人と家族に行った。セルフマネジメント能力の向上は急性増悪の減少とQOLの改善をもたらすことが期待され,またセルフマネジメントが適切に行われることにより医療監視下と同程度の効果が得られることが報告されている。本症例においても,病態への理解を深め,症状に対するセルフマネジメントが可能となった結果,呼吸困難に対する不安が軽減し,それに起因する悪循環を改善させるに至ったと考える。間質性肺炎における呼吸困難,そして活動制限に伴うQOLの低下に対し,本人ならびに家族が共に病態を理解し,その対策,対処法を知り得ることは日常生活における不安を軽減させ,QOLの向上に寄与するものと考える。
【理学療法学研究としての意義】
特発性肺線維症に対し呼吸リハビリテーションと運動療法に加え,病態の理解とセルフマネジメント能力の獲得はQOLの維持・改善の一助となると考える。
特発性間質性肺炎とは労作時の低酸素血症,呼吸困難,乾性咳嗽を主症状とし,一般的に予後不良とされている。そして徐々に進行する呼吸困難の増悪から不安やうつ症状を併発し,活動制限に伴う廃用症候群をきたしやすい。また特発性肺線維症の診断確定後の平均生存期間は2.5~5年間,とくに急性増悪をきたした後の平均生存期間は2ヶ月以内との報告もある。今回,特発性肺線維症における線維化病変の急性進行により呼吸困難が増悪し,パニック症状を呈した症例に対し,呼吸リハビリテーション,運動療法と併せて病態の理解と症状に対するセルフマネジメントの獲得により自宅退院に至った症例を経験したので報告する。
【症例紹介】
66歳女性,身長:157.6cm,体重:49.5kg,BMI:19.6,診断名:特発性肺線維症,主訴:労作時の呼吸困難,現病歴:入院数日前から呼吸困難と咳嗽が増悪し,会話や食事が不可能となり内科外来受診後,間質性肺炎増悪が疑われ,咳嗽コントロール目的で入院,既往歴:60歳から同疾患を発症,ステロイドパルス,免疫抑制剤での治療後,往診によりフォローアップ中,在宅酸素療法導入済,喫煙歴無し。
【倫理的配慮,説明と同意】
本症例には今回の発表の主旨を説明し,同意を得た。
【経過】
入院3病日目よりリハビリ開始。介入初期は頻呼吸(45回/分)と頻回な乾性咳嗽をみとめ,会話が困難であり,パニック症状を呈していた。呼吸困難感は修正MRC:grade 4,修正Borgスケール:8,呼吸補助筋は亢進状態であった。リハビリでは口すぼめ呼吸による呼吸コントロール,呼吸補助筋に対するリラクゼーション,安楽肢位の確立,そしてこれらに対するセルフマネジメントの指導を実施。7病日目に経鼻酸素(5.0L/min)で車椅子にてリハビリ室へ出棟。起居,起立,移乗動作,平行棒内歩行は近位監視レベルであった。11病日目より頻呼吸,乾性咳嗽が再発し呼吸困難感が増悪。16病日目に皮下気腫,縦隔気腫を発症しパニック症状が再燃。33病日目まではベッドサイドにて呼吸トレーニング,リラクゼーション,下肢筋力維持増強トレーニングを実施。またこれらと併せて自宅でのADL,QOL維持・改善に向けた病態の理解と症状に対するセルフマネジメントの重要性を説明。その上で呼吸,身体活動,栄養,食事の摂食方法など,日常生活におけるセルフマネジメント方法の指導を実施。さらに将来に対する不安や不定愁訴を傾聴することでメンタルケアも併せて実施。25病日目よりパニック症状が緩和。34病日目に再びリハビリ室へ出棟可能となる。38病日目より食事が全量摂取可能となる。40病日目に家族に対してもセルフマネジメント方法の指導を実施。42病日目に自宅退院となる。退院時の呼吸回数は35回/分,呼吸困難感は修正MRC:grade 4,修正Borgスケール:4,呼吸補助筋に著しい亢進は認めなかった。
【考察】
呼吸困難とは「呼吸に伴う不快な感覚の総称」とされ,生体にとって最も基本的な苦痛の一つである。本症例は呼吸困難に対する対処方法を知り得ていなかったため日常生活において活動を制限していた。その結果,身体活動量低下,食欲低下,栄養不足,廃用症候群の進行という悪循環を呈していた。この背景には徐々に進行する呼吸困難への不安や,それに伴うパニック症状への対応困難といった精神的要素も大きく影響していたと考えられる。またCOPD患者の呼吸消費エネルギーは健常人の約10倍と言われているが,本症例においても頻回な呼吸や咳嗽,呼吸補助筋の亢進などにより,呼吸に要する消費エネルギーが増加していたと推測される。そこで本症例では呼吸リハビリテーションや運動療法のみならず,身体活動の基礎となる栄養,食事,そしてそれらを包括した病態の理解と症状に対する対策へのセルフマネジメントを本人と家族に行った。セルフマネジメント能力の向上は急性増悪の減少とQOLの改善をもたらすことが期待され,またセルフマネジメントが適切に行われることにより医療監視下と同程度の効果が得られることが報告されている。本症例においても,病態への理解を深め,症状に対するセルフマネジメントが可能となった結果,呼吸困難に対する不安が軽減し,それに起因する悪循環を改善させるに至ったと考える。間質性肺炎における呼吸困難,そして活動制限に伴うQOLの低下に対し,本人ならびに家族が共に病態を理解し,その対策,対処法を知り得ることは日常生活における不安を軽減させ,QOLの向上に寄与するものと考える。
【理学療法学研究としての意義】
特発性肺線維症に対し呼吸リハビリテーションと運動療法に加え,病態の理解とセルフマネジメント能力の獲得はQOLの維持・改善の一助となると考える。