第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 基礎理学療法 口述

身体運動学4

2014年5月31日(土) 15:45 〜 16:35 第3会場 (3F 301)

座長:百瀬公人(信州大学医学部保健学科)

基礎 口述

[1145] 踵骨―下腿の運動連鎖の動態解析

江戸優裕1,2, 山本澄子2 (1.文京学院大学理学療法学科, 2.国際医療福祉大学大学院福祉援助工学分野)

キーワード:運動連鎖, 足部, 変形性膝関節症

【はじめに,目的】
荷重位における踵骨回外と下腿外旋,および踵骨回内と下腿内旋の連動(以下,踵骨-下腿の運動連鎖)はよく知られた運動連鎖である。この運動連鎖は足部と下腿間の運動面の変換機能を有することから,下肢の関節疾患領域において特に重要視されている。しかし,その動態は多くの成書でも連動の方向を述べるに留まっており,詳細に調べた研究は少ない。このような背景から,本研究では踵骨-下腿の運動連鎖の動態を定量的に解析し,その特徴を明らかにすることを目的とした。
また,内側型変形性膝関節症(以下,膝OA)者は下腿の回旋運動の特異性を有する報告(菅川ら2003)があるため,膝OA者の運動連鎖の動態についても調べた。
【方法】
対象は健常若年者25名(50肢),高齢者29名(58肢),膝OA者5名(8肢)とした。
運動連鎖の動態計測は,三次元動作解析システムVICON-NEXUS(VICON社製)を用い,立位にて左右同時に足部の回内外(それに伴う下腿回旋)を5回反復する動作を計測した。マーカーの貼付位置は,両側の腓骨頭・脛骨内側顆・内果・外果・踵後面・踵内側面・踵外側面・第1中足骨頭・第5中足骨頭の合計18点とした。得られたマーカー位置座標から演算処理ソフトBodyBuilder(VICON社製)を用いて下腿に対する踵骨角度,および足部に対する下腿角度を算出した。この計測課題における踵骨回内外と下腿回旋は一定の比率で連動することが分かっているため,両者の一次回帰係数を連鎖比[下腿回旋角度/踵骨回内外角度]と定義し,運動連鎖の動態として捉えた(江戸ら2012)。尚,この計測方法の妥当性はマーカー貼付位置と計算プログラムについて確認し,再現性は足部回外と回内の運動方向,およびマーカー貼付位置と計測課題動作について確認した。
統計学的分析は,データの正規性を確認した上で,全ての群を対象に連鎖比の1元配置分散分析,および若年群と高齢群を対象に年代・性別・左右を要因とした連鎖比の3元配置分散分析を行った。また,連鎖比の個人差の指標として変動係数を求めた。尚,全ての検定における有意水準はp<0.05で判定した。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者に対して事前にヘルシンキ宣言に基づいて研究の主旨を説明し,同意が得られた場合に同意書を締結した。尚,本研究は国際医療福祉大学倫理委員会の承認を得て行った(承認番号:11-156)。
【結果】
連鎖比は若年群1.0±0.2・高齢群1.0±0.2・膝OA群1.5±0.6であり,有意な群間差は認められなかった。連鎖比の変動係数は若年群22.8%・高齢群23.6%・膝OA群40.9%であり,膝OA群が大きかった。
若年群と高齢群を対象とした連鎖比の分析から,属性では性別のみに有意差が認められ,男性1.1±0.2・女性0.9±0.2で男性の方が大きかった。他の要因,および交互作用は有意でなかった。連鎖比の変動係数は年代と性別による差はほとんどなかったが,左右においては右25.3%・左20.4%で右が大きかった。また,連鎖比は最大1.6から最小0.4まで約4倍の個人差があった。
【考察】
立位での足部回内外運動における踵骨-下腿の運動連鎖は,平均的には踵骨回内外と下腿回旋が1対1の比率で連動するが,この比率は約4倍もの個人差があった。また,男性は下腿回旋が優位な動態を呈し,女性は踵骨回内外が優位な動態を呈することが分かった。そして,右は左よりも,且つ膝OA者は健常者よりも個人差が大きかった。
これらのことから,健常な下肢においても運動連鎖の機能に個人差や性差があることが示唆され,特に右下肢は多様性があると推察される。また,膝OA者は運動連鎖の動態が変容している可能性があり,下腿回旋などの評価の際は連鎖比の個人差に注意を払うことが望ましいと考える。
【理学療法学研究としての意義】
これまでに多くの臨床家や研究者が述べてきている通り,踵骨-下腿の運動連鎖が有する踵骨回内外と下腿回旋の変換機能の重要性に疑う余地はないと言える。しかし,実際にどのような動態を呈して連動するのか,そしてその動態の個人差や左右差などの科学的な検討はほとんど成されていなかった。そのような背景の中,本研究は運動連鎖の動態に加齢変化はないが膝OAでは変容している可能性があることや,健常下肢においても個人差,左右差があることを示した。これらの知見は,各下肢の運動連鎖の機能を一括りにして捉えることの問題提起でもある。即ち,運動連鎖の動態は,踵骨回内外が優位な下肢と下腿回旋が優位な下肢があることを考慮した上で議論されなければならない。今後は,動態を決定する解剖学的要因や,歩行などの動作中の動態を分析することで更なる臨床応用に繋がるものと考えている。