[1146] 加齢に伴う片脚立位動作の不安定性要因について
キーワード:片脚立位, 高齢者, 三次元動作解析
【目的】
片脚立位は,高齢者の転倒予防プログラムの一つとして全国的に普及している(阪本,2013)。この動作は,下肢挙上直前に足圧中心(COP)が遊脚側へ偏位することによって体重心(COM)を支持脚側へ加速させる相(加速相),COPが支持脚側へCOMよりも先行することによってCOMを減速させる相(減速相)およびCOMを支持脚内で保持する相(保持相)の3相に区分できる。既往研究では,加齢に伴い片脚立位時間の減少(Bohannon, 1984)やCOPの動揺の増加(Gilagys, 2007)などが報告されている。さらに,筆者らは高齢者においては極端に立位時間の短い施行(失敗)が観察され,片脚立位時におけるCOMの位置および速度の再現性が若年者と比べて有意に低下することを報告した(第12回日本行動科学会)。しかしながら,片脚立位動作をCOMとCOPの位置関係に着目して,加齢による不安定性の要因について調べた研究は筆者らが知る限り見あたらない。COMとCOPは離れるほど身体に大きなモーメントが発生し,不安定性の要因となる。従って,本研究の目的は片脚立位動作の加齢による影響についてと高齢者の失敗要因について,各相別にCOMとCOPの位置関係に着目して明らかにすることだった。
【方法】
対象は,健常若年者10名(22.4±1.2歳)と健常高齢者10名(68.1±2.4歳)だった。前額面のCOMとCOPを算出するために,三次元動作解析システムと床反力計を用いた。被験者は2枚の床反力計上にそれぞれ足を乗せて安静立位となり,任意のタイミングで片足を拳上し,目標点を注視してできるだけ長く保持するように指示された。保持時間は最大30秒間とし,一人計20回施行した。反射マーカーから求められた下肢挙上時点(T0)直前のCOPが遊脚方向へ偏位する相を加速相,COPがCOMを追い越した時点(T1)からCOMの速度が0になった時点(T2)までを減速相,T2以降を保持相とした。加速相におけるCOP偏位の最大値(COPpeak),減速相におけるCOMとCOP間の最大距離(減速相Dpeak)および二乗平均平方根(減速相DRMS),保持相におけるCOMとCOP間の二乗平均平方根(保持相DRMS)を算出した。全ての変数を各被験者の両上前腸骨棘間の距離で正規化した。さらに,高齢者毎に片脚立位時間から失敗施行(全施行の平均値から標準偏差値を引いた秒数以下)とそれ以外の成功施行とに区別した。両群(高齢者,若年者)の比較には対応のないt検定を,各高齢者内の施行間(失敗施行,成功施行)の比較には対応のあるt検定を用いた。高齢者の片脚立位時間と各変数との相関はPearsonの相関係数を用いた。危険率は5%とした。
【説明と同意】
被験者には研究目的および手順について十分に説明し書面にて同意を得た。本研究は所属機関の倫理委員会の承認を得ている。
【結果】
安静立位時におけるCOMとCOPの初期位置は両群および施行間で有意差はなかった。若年者は全施行で30秒以上保持可能だった。一方,高齢者は全施行の平均時間が16.4±8.5秒,成功施行の平均時間が20.3±9.5秒,および失敗施行の平均時間が6.8±4.0秒だった。両群を比較した結果,加速相のCOPpeak,および減速相Dpeakには有意差がなかった。高齢者は若年者よりも減速相DRMSおよび保持相DRMSがともに有意に大きかった(P<0.05)。高齢者は,片脚立位時間と保持相DRMS間に負の相関の傾向があり(r=-0.57,P=0.088),減速相DRMSと保持相DRMS間に有意な相関(r=0.71,P<0.05)が認められた。さらに,施行間の比較では,加速相のCOPpeakに有意差は認められなかったが,減速相Dpeak,減速相DRMSおよび保持相DRMSは失敗施行の方が有意に大きかった(P<0.05)。
【考察】
高齢者は若年者よりも減速相DRMSおよび保持相DRMSが有意に大きく,尚且つ,高齢者では両変数間に有意な相関がみられたことから,高齢者はCOMを減速させるために身体に大きなモーメントが発生し,そのことがその後の身体の動揺にも影響を与えていると考えられる。さらに,高齢者の失敗施行ではこれらの変数に加えて減速相Dpeakが有意に大きかったことから,COPによる過剰なブレーキングによってCOMが立脚肢内から早期に遊脚側へ逸脱してしまうと考えられる。加齢によって減速相に要求されるフィードフォワード制御とフィードバック制御の合目的な統合能力の低下が示唆される(Rachel, 2012)。
【理学療法学研究としての意義】
片脚立位動作では,加齢に伴い減速相における姿勢制御が重要であることが初めて明らかとなった。本研究の成果は,片脚立位動作の有効な指導方法および運動療法を提案するための科学的根拠となる。
片脚立位は,高齢者の転倒予防プログラムの一つとして全国的に普及している(阪本,2013)。この動作は,下肢挙上直前に足圧中心(COP)が遊脚側へ偏位することによって体重心(COM)を支持脚側へ加速させる相(加速相),COPが支持脚側へCOMよりも先行することによってCOMを減速させる相(減速相)およびCOMを支持脚内で保持する相(保持相)の3相に区分できる。既往研究では,加齢に伴い片脚立位時間の減少(Bohannon, 1984)やCOPの動揺の増加(Gilagys, 2007)などが報告されている。さらに,筆者らは高齢者においては極端に立位時間の短い施行(失敗)が観察され,片脚立位時におけるCOMの位置および速度の再現性が若年者と比べて有意に低下することを報告した(第12回日本行動科学会)。しかしながら,片脚立位動作をCOMとCOPの位置関係に着目して,加齢による不安定性の要因について調べた研究は筆者らが知る限り見あたらない。COMとCOPは離れるほど身体に大きなモーメントが発生し,不安定性の要因となる。従って,本研究の目的は片脚立位動作の加齢による影響についてと高齢者の失敗要因について,各相別にCOMとCOPの位置関係に着目して明らかにすることだった。
【方法】
対象は,健常若年者10名(22.4±1.2歳)と健常高齢者10名(68.1±2.4歳)だった。前額面のCOMとCOPを算出するために,三次元動作解析システムと床反力計を用いた。被験者は2枚の床反力計上にそれぞれ足を乗せて安静立位となり,任意のタイミングで片足を拳上し,目標点を注視してできるだけ長く保持するように指示された。保持時間は最大30秒間とし,一人計20回施行した。反射マーカーから求められた下肢挙上時点(T0)直前のCOPが遊脚方向へ偏位する相を加速相,COPがCOMを追い越した時点(T1)からCOMの速度が0になった時点(T2)までを減速相,T2以降を保持相とした。加速相におけるCOP偏位の最大値(COPpeak),減速相におけるCOMとCOP間の最大距離(減速相Dpeak)および二乗平均平方根(減速相DRMS),保持相におけるCOMとCOP間の二乗平均平方根(保持相DRMS)を算出した。全ての変数を各被験者の両上前腸骨棘間の距離で正規化した。さらに,高齢者毎に片脚立位時間から失敗施行(全施行の平均値から標準偏差値を引いた秒数以下)とそれ以外の成功施行とに区別した。両群(高齢者,若年者)の比較には対応のないt検定を,各高齢者内の施行間(失敗施行,成功施行)の比較には対応のあるt検定を用いた。高齢者の片脚立位時間と各変数との相関はPearsonの相関係数を用いた。危険率は5%とした。
【説明と同意】
被験者には研究目的および手順について十分に説明し書面にて同意を得た。本研究は所属機関の倫理委員会の承認を得ている。
【結果】
安静立位時におけるCOMとCOPの初期位置は両群および施行間で有意差はなかった。若年者は全施行で30秒以上保持可能だった。一方,高齢者は全施行の平均時間が16.4±8.5秒,成功施行の平均時間が20.3±9.5秒,および失敗施行の平均時間が6.8±4.0秒だった。両群を比較した結果,加速相のCOPpeak,および減速相Dpeakには有意差がなかった。高齢者は若年者よりも減速相DRMSおよび保持相DRMSがともに有意に大きかった(P<0.05)。高齢者は,片脚立位時間と保持相DRMS間に負の相関の傾向があり(r=-0.57,P=0.088),減速相DRMSと保持相DRMS間に有意な相関(r=0.71,P<0.05)が認められた。さらに,施行間の比較では,加速相のCOPpeakに有意差は認められなかったが,減速相Dpeak,減速相DRMSおよび保持相DRMSは失敗施行の方が有意に大きかった(P<0.05)。
【考察】
高齢者は若年者よりも減速相DRMSおよび保持相DRMSが有意に大きく,尚且つ,高齢者では両変数間に有意な相関がみられたことから,高齢者はCOMを減速させるために身体に大きなモーメントが発生し,そのことがその後の身体の動揺にも影響を与えていると考えられる。さらに,高齢者の失敗施行ではこれらの変数に加えて減速相Dpeakが有意に大きかったことから,COPによる過剰なブレーキングによってCOMが立脚肢内から早期に遊脚側へ逸脱してしまうと考えられる。加齢によって減速相に要求されるフィードフォワード制御とフィードバック制御の合目的な統合能力の低下が示唆される(Rachel, 2012)。
【理学療法学研究としての意義】
片脚立位動作では,加齢に伴い減速相における姿勢制御が重要であることが初めて明らかとなった。本研究の成果は,片脚立位動作の有効な指導方法および運動療法を提案するための科学的根拠となる。