[1161] 慢性期脊髄損傷者に対する超音波検査による褥瘡評価と座圧測定に関する調査
Keywords:褥瘡, 超音波画像診断, 座圧測定
【はじめに,目的】
褥瘡は脊髄損傷者(脊損者)にとって致命的な合併症の一つである。ひとたび発生すると,莫大な経済的損失とQOL低下が懸念されるため,早期発見と予防が重要となる。褥瘡は深部組織が損傷された後に皮膚表面に現れるため,超音波検査による検出率が最も高いと報告されている。また外力による不可逆的な阻血性傷害であり,外力を減らすことは予防戦略の一つでもある。圧力分布測定装置は,外力に影響を受ける座面圧を視覚的に評価することが可能である。これまで超音波検査や座面圧を単独で評価した報告はあるが,双方の関連を検討した報告はない。慢性脊損者に対し,超音波検査での病変の有無と,車いす上の座面圧について調査し,個々の特性に応じた深部組織損傷の予防法を検討する。
【方法】
対象は,受傷後1年以上経過した脊損者38名(44.2±12.2歳)。損傷レベルはC6-L1で,ASIA分類A27名,B5名,C6名であった。経過年数や乗車時間,残存機能レベル,除圧頻度については問診を行った。除圧頻度は4段階に分類し「1時間未満に1回」,「1-2時間に1回」,「2-3時間以上に1回」,「全くしない」とした。褥瘡評価は,ベッド上腹臥位で視診と触診を行った後,汎用超音波画像診断装置(SonoSite MicroMaxxシリーズ;SonoSite社)を用いて両坐骨部の皮下を検査した。病変を認めたものを陽性群,認めなかったものを陰性群に分類した。座圧測定は普段使用している車いすとクッションに座り,圧力分布測定装置(The Force Sensitive Applications;Vista Medical社)を用いて測定した。姿勢は車いす上の安楽静止座位とし,部位は両坐骨部を中心に最も圧の高かった4つのセンサーの平均値を坐骨部座面圧とした。統計学的検討は,超音波検査の結果から陽性群と陰性群とに分類し,年齢,BMI,経過年数,乗車時間,坐骨部座面圧を平均値±標準偏差で表し,Student’s-t検定を用いて両群間で比較した。また,残存機能レベルはFisher’s直接法を用い両群間で比較した。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当大学の倫理審査委員会の承認を得ている。被験者には,書面と口頭で実験目的および方法,危険性,個人情報保護について十分説明し,文書で同意を得た。
【結果】
38名(76部位)のうち10名(17部位)を陽性群,28名(59部位)を陰性群に分類した。陽性群は陰性群と比較し,BMI(陽性群22.6±1.9,陰性群20.3±2.6)が高値で(p<0.05),経過年数(陽性群26.6±16.0年,陰性群17.0±10.4年)は長かった(p<0.05)。一方,年齢および乗車時間,残存機能レベルに差を認めなかった。坐骨部座面圧(陽性群156.8±27.0mmHg,陰性群128.1±37.1mmHg)は,陽性群で有意に高値であった(p<0.01)。また,陽性群の除圧頻度は「全くしていない」が8名,「1-2時間に1回」が2名であった。陰性群では,「全くしていない」が3名,「2-3時間以上に1回」が6名,「1-2時間」が8名,「1時間未満」が11名であった。
【考察】
本研究では,超音波検査で病変が確認された脊損者は,坐骨部座面圧も高値であることが双方の結果から明らかとなった。脊損者は,軟部組織の萎縮により骨突出部の座面圧が健常者と比較し高値であることが報告されている。そのため,個々の特性に合った車いすやクッションを使用することで,座面圧の分散を図っている。また成犬後肢の圧迫実験において,褥瘡形成では時間と圧力が反比例の関係であることが判明している。本研究では,乗車時間に差を認めなかったものの,病変が確認された脊損者の中には,除圧を全くしていない者が多かった。また,病変が確認されなかったにもかかわらず,坐骨部座面圧が高値な対象者も存在した。この結果から,病変のある脊損者は除圧が不可欠で,座面圧が高くても頻回に除圧を実施していれば,深部組織が阻血に陥る前に血流再還流ができる可能性が示唆された。今回は測定後,実際に圧力分布測定装置を用いて,除圧姿勢やクッションの適性について指導を行なった。今後は超音波検査での病変確認と座圧測定後の指導がどのような経過をたどるかを評価することが重要な課題と言える。
【理学療法学研究としての意義】
褥瘡予防には,視診と触診に加え定期的な超音波検査と座圧測定が有効で,これらの結果をもとにフィードバックすることは,脊損者の自己管理につながる。
褥瘡は脊髄損傷者(脊損者)にとって致命的な合併症の一つである。ひとたび発生すると,莫大な経済的損失とQOL低下が懸念されるため,早期発見と予防が重要となる。褥瘡は深部組織が損傷された後に皮膚表面に現れるため,超音波検査による検出率が最も高いと報告されている。また外力による不可逆的な阻血性傷害であり,外力を減らすことは予防戦略の一つでもある。圧力分布測定装置は,外力に影響を受ける座面圧を視覚的に評価することが可能である。これまで超音波検査や座面圧を単独で評価した報告はあるが,双方の関連を検討した報告はない。慢性脊損者に対し,超音波検査での病変の有無と,車いす上の座面圧について調査し,個々の特性に応じた深部組織損傷の予防法を検討する。
【方法】
対象は,受傷後1年以上経過した脊損者38名(44.2±12.2歳)。損傷レベルはC6-L1で,ASIA分類A27名,B5名,C6名であった。経過年数や乗車時間,残存機能レベル,除圧頻度については問診を行った。除圧頻度は4段階に分類し「1時間未満に1回」,「1-2時間に1回」,「2-3時間以上に1回」,「全くしない」とした。褥瘡評価は,ベッド上腹臥位で視診と触診を行った後,汎用超音波画像診断装置(SonoSite MicroMaxxシリーズ;SonoSite社)を用いて両坐骨部の皮下を検査した。病変を認めたものを陽性群,認めなかったものを陰性群に分類した。座圧測定は普段使用している車いすとクッションに座り,圧力分布測定装置(The Force Sensitive Applications;Vista Medical社)を用いて測定した。姿勢は車いす上の安楽静止座位とし,部位は両坐骨部を中心に最も圧の高かった4つのセンサーの平均値を坐骨部座面圧とした。統計学的検討は,超音波検査の結果から陽性群と陰性群とに分類し,年齢,BMI,経過年数,乗車時間,坐骨部座面圧を平均値±標準偏差で表し,Student’s-t検定を用いて両群間で比較した。また,残存機能レベルはFisher’s直接法を用い両群間で比較した。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当大学の倫理審査委員会の承認を得ている。被験者には,書面と口頭で実験目的および方法,危険性,個人情報保護について十分説明し,文書で同意を得た。
【結果】
38名(76部位)のうち10名(17部位)を陽性群,28名(59部位)を陰性群に分類した。陽性群は陰性群と比較し,BMI(陽性群22.6±1.9,陰性群20.3±2.6)が高値で(p<0.05),経過年数(陽性群26.6±16.0年,陰性群17.0±10.4年)は長かった(p<0.05)。一方,年齢および乗車時間,残存機能レベルに差を認めなかった。坐骨部座面圧(陽性群156.8±27.0mmHg,陰性群128.1±37.1mmHg)は,陽性群で有意に高値であった(p<0.01)。また,陽性群の除圧頻度は「全くしていない」が8名,「1-2時間に1回」が2名であった。陰性群では,「全くしていない」が3名,「2-3時間以上に1回」が6名,「1-2時間」が8名,「1時間未満」が11名であった。
【考察】
本研究では,超音波検査で病変が確認された脊損者は,坐骨部座面圧も高値であることが双方の結果から明らかとなった。脊損者は,軟部組織の萎縮により骨突出部の座面圧が健常者と比較し高値であることが報告されている。そのため,個々の特性に合った車いすやクッションを使用することで,座面圧の分散を図っている。また成犬後肢の圧迫実験において,褥瘡形成では時間と圧力が反比例の関係であることが判明している。本研究では,乗車時間に差を認めなかったものの,病変が確認された脊損者の中には,除圧を全くしていない者が多かった。また,病変が確認されなかったにもかかわらず,坐骨部座面圧が高値な対象者も存在した。この結果から,病変のある脊損者は除圧が不可欠で,座面圧が高くても頻回に除圧を実施していれば,深部組織が阻血に陥る前に血流再還流ができる可能性が示唆された。今回は測定後,実際に圧力分布測定装置を用いて,除圧姿勢やクッションの適性について指導を行なった。今後は超音波検査での病変確認と座圧測定後の指導がどのような経過をたどるかを評価することが重要な課題と言える。
【理学療法学研究としての意義】
褥瘡予防には,視診と触診に加え定期的な超音波検査と座圧測定が有効で,これらの結果をもとにフィードバックすることは,脊損者の自己管理につながる。