第49回日本理学療法学術大会

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福祉用具・地域在宅2

2014年5月31日(土) 16:10 〜 17:10 第6会場 (3F 304)

座長:清宮清美(埼玉県総合リハビリテーションセンター地域支援担当)

生活環境支援 セレクション

[1162] 前進歩行と後進歩行の「歩行開始」における床反力の比較

伊藤千晶1, 丸山翔1, 武田甫行2, 若山佐一1 (1.弘前大学大学院保健学研究科, 2.農家)

キーワード:歩行開始, 前進歩行, 後進歩行

【はじめに,目的】
臨床現場で,後進歩行(Backward Walking,以下BW)は治療に用いられる事が多い副課題だが,前進歩行(Forward Walking,以下FW)と後進歩行の運動パターンは単純な逆再生であるという説や,異なる運動制御機構をもつなど不明確な事が多い。又,それらを比較した研究の多くは「定常歩行」に着目され,直立姿勢から定常歩行に至るまでの姿勢変換過程である「歩行開始」についての分析は少ない。
今回は,これまで「歩行開始」について基礎研究が行われてこなかったFWとBWとの違いを,床反力に着目して分析する。又,この研究を今後,歩行開始に特徴的な病態を持つ患者と比較検討する基礎研究とする。
【方法】
健常成人10名(女5名,男5名),平均年齢22±1.9歳,身長166.7±10.8cm,体重56.9±8.7cm。対象は神経疾患に起因する下肢への障害の無い者とする。8台のMXカメラと床反力計,三次元動作解析VICON Nexus,50dBのシグナルスイッチを同期し,サンプリング周波数は全て100Hzとした。フィルターはButterworth filterを用い,カットオフ値を8Hzとした。
前後2.5Mの歩行路の中心に床反力計を二枚接地し,対象は全身に35ポイントのマーカーをつける。その後,床反力計上で直立姿勢をとり,シグナルスイッチのブザー音が鳴ると同時に歩行を開始する。測定順はランダム化し前後10回ずつの計測とした。
歩行開始の定義は条件により諸説あるが,先行研究(RA.Mann,1979. M.Nissan,1990.)を参考に,「自己快適速度で直立姿勢から2歩目の初期接地までとし,振り出し側を遊脚肢,支持側を立脚肢」と定義する。時間軸はFWとBWを比較できるように一部名称を改変し,SS(start signal):開始シグナル,R(reaction):反応期,FO1(foot off):1歩目の足部離地,IC1(Initial Contact):一歩目の初期接地,FO2:二歩目の足部離地,IC2:二歩目の初期接地とした。
床反力は左右方向(Fx),前後方向(Fy),鉛直方向(Fz)の3軸方向のピーク値を抜き取る。床反力のFxとFyは,Max1:遊脚肢の最大ピーク値,Max2:FO1の立脚肢の最大ピーク値,Max3:FO2前の最大ピーク値とする。FzのみMin:立脚中期の間の最小値を求めた。
計測したデータの内一部は,BWをFWに対応するようにデータを反転させた。統計はFWとBWを比較し,ソフトはSPSS16.0Jを用いた。有意水準を5%未満とし,Shapiro-Wilk検定実施後,対応のあるt検定とWilcoxon符号順位和検定を実施した。表記は有意差と効果量(r)で表し,効果量の基準は0.1(小),0.3(中),0.5(大)とする。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は所属施設の倫理審査委員会の承認の元に十分な説明を行い,同意を得た。
【結果】
FWとBWのピーク値の比較した所,Fx-max2,Fz-max1,Fz-max2,Fz-max3にて有意差があり,効果量も大であった。ピーク値はFWの方がBWより大きい傾向があった。
Fy-max1,3とFz-minは有意差がないが,効果量は中であった。
Fx-max3とFy-max2においては,有意差がなく,かつ効果量も小であった。
【考察】
FWとBWのピーク値を比較し有意差と効果量を求めた結果,FWとBWでは前後の動きよりも,左右方向と鉛直方向の動きに差があると考えられ,FWとBWは異なる運動制御のパターンを示す可能性が示唆された。左右方向ではFx-Max2,すなわち遊脚肢のFOの時の立脚肢のピーク値に差があった。これは,Mickelborough(2004)らによる,歩行開始における足圧中心の軌跡の研究で,足圧中心が一度遊脚肢へ移動した後に立脚肢方向へ移動するという,左右の動きが多くなる時とタイミングが一致する。
鉛直方向ではFz-min以外に差があり,FWでは足部のロッカー機能を使って身体重心を移動するが,BWでは足部のロッカー機能が働きにくい為,FWとBWのピーク値に差がでたのではと推測する。
今回は床反力のみの分析としたが,「歩行開始」においては質量中心,足圧中心なども特徴的なパラメーターを示すため,引き続き分析を行っていく。
【理学療法学研究としての意義】
病態疾患毎の特性を比較する基礎研究となる。