[1166] 人工膝関節全置換術後の膝屈曲関節可動域に影響する要因について
キーワード:人工膝関節全置換術, 関節可動域, 影響因子
【はじめに,目的】
人工膝関節全置換術(TKA)後の膝屈曲関節可動域(膝屈曲角)は,術前要因,手術要因,術後要因の影響を受ける。その中でも術前要因について報告したものが多い。術前要因とは,年齢,性別,BMI,JOA score,膝痛,大腿脛骨角(FTA),膝屈曲角,健康関連QOL(HRQOL),患者の精神面を挙げることができる。これらの要因は,複雑に絡み合い術後膝屈曲角という結果に現れる。しかし,これまでの報告はTKA後の膝屈曲角に対し単変量解析による検討が多く,要因間の関係については考慮されていなかった。そのため,これらの全ての要因を含めた上で,TKA後の膝屈曲角に関係する要因を再検討する必要があった。本研究の目的は,TKA後の膝屈曲角に影響すると思われる術前要因を後方視的に調査し,TKA後の膝屈曲角に影響する要因を明らかにすることである。
【方法】
対象は,2011年4月から13年3月までに内側型変形性膝関節症にて,当院で片側TKAを行い同一術者が執刀した279名のうち除外基準に該当しなかった139例(73.6±7.7歳,男性32例,女性107例,BMI28.4±4.3,術後入院期間20.9±2.7日)とした。術式は全例midvastus approachであった。使用機種は,Nexgen LPS Fixed型(stryker社製)とscorpio NRG型(zimmer社製)であった。除外基準は,当院のクリニカルパスから逸脱,または記録の不備があった者とした。評価項目は,先行研究を参考に術前の年齢,性別,BMI,JOA score,FTA,膝痛,膝屈曲角,HRQOL,患者の精神面とした。さらに膝屈曲角は,術後3日時,1週時,2週時,3週時にも調査した。測定は,日本整形外科学会の方法に準じ,ゴニオメーターを用いて5°単位で行った。疼痛評価は,数値的評価スケール(VAS)を使用した。HRQOLの評価は,SF-36v2を用いた。精神面の評価は,整形外科疾患における精神医学的問題の簡易問診票(BS-POP)を使用した。統計的解析は,正規性の検定にShapiro-Wilk検定,各時期の膝屈曲角の比較にはFreidman検定と多重比較法(Wilcoxonの符号付順位検定をShaffer法で補正)を用いた。Cohenの方法を用いて効果量の算出も行った。効果量は絶対値が0.3未満を効果量小,0.3~0.5未満を効果量中,0.5以上を効果量大とした。術後3週時の膝屈曲角を従属変数,その他の術前要因を独立変数としてステップワイズ法による重回帰分析を行った。多重共線性の有無の判断は,相関係数0.8以上とした。データーの収集と解析は,SPSS ver19.0 for Windows(SPSS Japan Inc)を用いた。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者にはヘルシンキ宣言に則り十分な配慮を行い,研究の趣旨および目的,研究への参加の任意性と同意撤回の自由およびプライバシー保護について十分な説明を行い同意を得た。
【結果】
膝屈曲角の平均は,術前120.3±16.5°,術後3日時81.1±15.0°,1週時96.0±13.4°,2週時112.2±11.0°,3週時120.9±11.1°と術前から術後3週時の間で有意に変化した(p<0.01)。術前から術後3日時は有意に低下したが(効果量r=-0.86,p<0.01),術後3日時から1週時(r=-0.79),術後1週時から2週時(r=-0.83),術後2週時から3週時(r=-0.75)と段階的に著明な改善を示した(p<0.01)。独立変数間の多重共線性を確認した結果,術側膝屈曲角と非術側膝屈曲角の相関係数(r)が0.61と最も高かった。術後3週時の術側膝屈曲角を従属変数とした重回帰分析の結果,術前要因の非術側膝屈曲角(β=0.28,p<0.05),術側膝屈曲角(β=0.21,p<0.05),SF-36v2の心の健康(MH)(β=0.17,p<0.05)の3項目が選択された(R2=0.23)。
【考察】
TKA後早期の膝屈曲角に影響する術前要因は,非術側膝屈曲角,術側膝屈曲角,SF-36v2のMHであった。これまでの単変量解析による検討でも,影響する要因として術前の膝屈曲角を挙げた報告は多く,本研究はこれらの報告を支持するものである。戸田らは術前の膝屈曲角が術後に影響する原因を術前からの軟部組織の短縮と述べている。今回の検討は術後3週時のため,特に術前の軟部組織の影響が反映されたと考える。また,ElizabethやVissersらは,術前のMHはTKA後の結果に影響すると述べている。本研究でも,術後の膝屈曲角とMHの関係が示されており,TKA患者に対する精神面への配慮が重要であることが再度認識された。さらに,術前の膝屈曲角は,術側に加えて非術側も選ばれた。これは,患者自身が持つ関節柔軟性や術側の膝痛を代償する動作パターンなどが関連していると推測するが,現状では不明な点が多い。今後は,術前の非術側膝関節機能にも注目した検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果は,TKA後の膝屈曲角拡大を目的とした理学療法を展開するための一助となる。
人工膝関節全置換術(TKA)後の膝屈曲関節可動域(膝屈曲角)は,術前要因,手術要因,術後要因の影響を受ける。その中でも術前要因について報告したものが多い。術前要因とは,年齢,性別,BMI,JOA score,膝痛,大腿脛骨角(FTA),膝屈曲角,健康関連QOL(HRQOL),患者の精神面を挙げることができる。これらの要因は,複雑に絡み合い術後膝屈曲角という結果に現れる。しかし,これまでの報告はTKA後の膝屈曲角に対し単変量解析による検討が多く,要因間の関係については考慮されていなかった。そのため,これらの全ての要因を含めた上で,TKA後の膝屈曲角に関係する要因を再検討する必要があった。本研究の目的は,TKA後の膝屈曲角に影響すると思われる術前要因を後方視的に調査し,TKA後の膝屈曲角に影響する要因を明らかにすることである。
【方法】
対象は,2011年4月から13年3月までに内側型変形性膝関節症にて,当院で片側TKAを行い同一術者が執刀した279名のうち除外基準に該当しなかった139例(73.6±7.7歳,男性32例,女性107例,BMI28.4±4.3,術後入院期間20.9±2.7日)とした。術式は全例midvastus approachであった。使用機種は,Nexgen LPS Fixed型(stryker社製)とscorpio NRG型(zimmer社製)であった。除外基準は,当院のクリニカルパスから逸脱,または記録の不備があった者とした。評価項目は,先行研究を参考に術前の年齢,性別,BMI,JOA score,FTA,膝痛,膝屈曲角,HRQOL,患者の精神面とした。さらに膝屈曲角は,術後3日時,1週時,2週時,3週時にも調査した。測定は,日本整形外科学会の方法に準じ,ゴニオメーターを用いて5°単位で行った。疼痛評価は,数値的評価スケール(VAS)を使用した。HRQOLの評価は,SF-36v2を用いた。精神面の評価は,整形外科疾患における精神医学的問題の簡易問診票(BS-POP)を使用した。統計的解析は,正規性の検定にShapiro-Wilk検定,各時期の膝屈曲角の比較にはFreidman検定と多重比較法(Wilcoxonの符号付順位検定をShaffer法で補正)を用いた。Cohenの方法を用いて効果量の算出も行った。効果量は絶対値が0.3未満を効果量小,0.3~0.5未満を効果量中,0.5以上を効果量大とした。術後3週時の膝屈曲角を従属変数,その他の術前要因を独立変数としてステップワイズ法による重回帰分析を行った。多重共線性の有無の判断は,相関係数0.8以上とした。データーの収集と解析は,SPSS ver19.0 for Windows(SPSS Japan Inc)を用いた。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者にはヘルシンキ宣言に則り十分な配慮を行い,研究の趣旨および目的,研究への参加の任意性と同意撤回の自由およびプライバシー保護について十分な説明を行い同意を得た。
【結果】
膝屈曲角の平均は,術前120.3±16.5°,術後3日時81.1±15.0°,1週時96.0±13.4°,2週時112.2±11.0°,3週時120.9±11.1°と術前から術後3週時の間で有意に変化した(p<0.01)。術前から術後3日時は有意に低下したが(効果量r=-0.86,p<0.01),術後3日時から1週時(r=-0.79),術後1週時から2週時(r=-0.83),術後2週時から3週時(r=-0.75)と段階的に著明な改善を示した(p<0.01)。独立変数間の多重共線性を確認した結果,術側膝屈曲角と非術側膝屈曲角の相関係数(r)が0.61と最も高かった。術後3週時の術側膝屈曲角を従属変数とした重回帰分析の結果,術前要因の非術側膝屈曲角(β=0.28,p<0.05),術側膝屈曲角(β=0.21,p<0.05),SF-36v2の心の健康(MH)(β=0.17,p<0.05)の3項目が選択された(R2=0.23)。
【考察】
TKA後早期の膝屈曲角に影響する術前要因は,非術側膝屈曲角,術側膝屈曲角,SF-36v2のMHであった。これまでの単変量解析による検討でも,影響する要因として術前の膝屈曲角を挙げた報告は多く,本研究はこれらの報告を支持するものである。戸田らは術前の膝屈曲角が術後に影響する原因を術前からの軟部組織の短縮と述べている。今回の検討は術後3週時のため,特に術前の軟部組織の影響が反映されたと考える。また,ElizabethやVissersらは,術前のMHはTKA後の結果に影響すると述べている。本研究でも,術後の膝屈曲角とMHの関係が示されており,TKA患者に対する精神面への配慮が重要であることが再度認識された。さらに,術前の膝屈曲角は,術側に加えて非術側も選ばれた。これは,患者自身が持つ関節柔軟性や術側の膝痛を代償する動作パターンなどが関連していると推測するが,現状では不明な点が多い。今後は,術前の非術側膝関節機能にも注目した検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果は,TKA後の膝屈曲角拡大を目的とした理学療法を展開するための一助となる。