第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 セレクション » 生活環境支援理学療法 セレクション

健康増進・予防

Sat. May 31, 2014 5:15 PM - 6:30 PM 第6会場 (3F 304)

座長:浅川康吉(群馬大学大学院保健学研究科)

生活環境支援 セレクション

[1246] 高齢者における歩行効率と生活空間との関連

伊藤忠1,2,3, 島田裕之1, 吉田大輔1, 朴眩泰1, 阿南祐也1, 牧迫飛雄馬1, 久保晃3, 鈴木隆雄1 (1.国立長寿医療研究センター, 2.西尾病院リハビリテーション室, 3.国際医療福祉大学大学院保健医療学専攻理学療法学分野)

Keywords:歩行効率, 生活空間, 高齢者

【はじめに,目的】
我が国では,増加し続ける高齢者に対する健康増進対策・支援が重要課題のひとつとなっている。高齢期における移動能力の低下は,外出頻度の低下を招き,障害の発生頻度を高くすると報告されている。加齢に伴う歩行の変化は,歩行速度の低下,歩幅の短縮,両足支持期の延長,腕振りの減少,足部の拳上減少,方向転換の不安定性などが挙げられる。これらとともに高齢期における不効率な歩行は,身体活動の低下の原因となり,筋量減少,筋力,有酸素能力の低下を招いて,さらに活動を制限させると考えられる。近年,生活空間(Life-space assessment;以下LSA)は,歩行能力などの運動機能に関連していると報告がされている。しかしながら,これまでの研究で,高齢者の歩行効率が生活空間とどのような関連があるのか十分に明らかとなっていない。この関連性を明らかにすれば,歩行効率の向上が生活空間を拡大させる要因のひとつになるかもしれない。本研究では,地域在住高齢者を対象に歩行効率が生活空間と関連しているかを検討した。
【方法】
65歳以上の地域在住高齢者(男性144名,女性108名;平均年齢73.6±5.7歳)を対象として,LSAと呼気ガス分析装置(Cosmed社;K4b2)を用いて6分間歩行距離(以下6MD)の歩行効率を計測した。また,運動機能(通常歩行速度,握力,片脚立位時間)測定を行った。歩行効率は呼気ガス分析装置で計測した6MD(残り3分間)と10分間の安静時座位のVO2 /mlから算出した。歩行効率の算出は,歩行効率=(6MD VO2 /ml-安静時VO2 /ml)÷6MD歩行速度(m/s)とした。前期高齢者と後期高齢者に分類し,歩行効率とLSAおよび各運動機能との関連を調べた。また,LSAの合計点と各変数との関連について,LSAの合計点を従属変数,歩行効率と各運動機能を独立変数としたステップワイズ法による重回帰分析を行った。また,調整変数は転倒恐怖感と2ヶ月以上続く痛みの有無とした。危険率5%未満を有意とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に沿って計画され,国立長寿医療研究センターの倫理・利益相反委員会の承認を得た上で実施した。対象者には本研究の主旨・目的を説明し,書面にて同意を得た。
【結果】
前期高齢者(147名,平均年齢69.5±2.6歳)におけるLSA(84.5±14.0点)は,通常歩行速度(1.21±0.2 m/s:r=0.28,p<0.01),握力(28.2±7.9kg:r=0.29,p<0.01)と転倒恐怖感(はい43.6%,いいえ56.4%:r=-0.32,p<0.01)と有意に相関していた。また,後期高齢者(105名,平均年齢79.2±3.5歳)におけるLSA(81.9±14.8点)は,歩行効率(11.7±2.8ml:r=-0.31,p<0.01)通常歩行速度(1.13±0.2m/s:r=0.21,p<0.05),握力(25.0±7.2kg:r=0.29,p<0.01)と有意に相関していた。前期高齢者の回帰係数は,転倒恐怖感(β=-0.26,p=0.002)と握力(β=0.21,p<0.01)で有意だった。後期高齢者の回帰係数は,歩行効率(β=-0.24,p=0.019)と握力(β=0.20,p=0.044)で有意だった。
【考察】
本研究の結果,後期高齢者は前期高齢者よりも,歩行効率がLSAと関連していた。転倒恐怖感や2ヶ月以上続く痛みの有無を調整しても歩行効率はLSAとの関連性を保持していた。前期高齢者は転倒恐怖感がLSAと特に関連性が高いことが認められた。このことから,後期高齢者においては握力などの運動機能だけでなく,歩行効率の評価はLSAと関連する有益な指標のひとつであると考えられた。高齢者は,不効率な歩行が持久力低下を招き,VO2が増加すると報告されている。今回の結果から,前期高齢者よりも後期高齢者は加齢に伴う生理的変化の影響がVO2増加を招き,歩行効率を悪化させ,生活空間が狭小化していく可能性があるのかもしれない。しかしながら,今回の結果から詳細なことまでは分からない。本研究は横断調査による結果であるため,LSAと歩行効率との因果関係を言及することはできない。今後は,歩行効率が運動介入などによって改善し生活空間が拡大するか否かについての検証が必要であろう。
【理学療法学研究としての意義】
これまで,高齢者の運動機能が生活空間と関連していると報告がある。また,生活空間と歩行機能との関連性が報告されており,歩行機能低下が不効率な歩行を招き,生活空間を狭小化させている原因となるかもしれない。このことから,高齢者の健康増進において,理学療法士が歩行効率と生活空間との関連性に着目することは,歩行機能の向上に伴う生活空間の拡大を目指す上で必要な資料として寄与できる。