[1256] 体幹エクササイズの収縮様式の違いが腰部多裂筋に与える影響
キーワード:多裂筋, エクササイズ, 超音波画像診断
【はじめに,目的】
腰痛患者では腹横筋や腰部多裂筋などの体幹深部筋の活動性・持久性の低下が報告されている。腰部安定性を図るエクササイズにはHollowingとBracingの2種類の方法が提唱されている。Hollowingは,腰椎・骨盤を動かすことなく腹部をへこませる方法であり,表在筋群から独立して体幹深部筋の収縮を促すことで腰部の安定性を図る。それに対して,Bracingは,腹部をへこませることなく腹壁の3層である外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋を活動させることで腹部を硬くする方法であり,腹斜筋群を用いることにより安定性を向上させる。以上のエクササイズを用いた研究は,腹横筋を中心とした側腹部筋に着目した報告が多いが,体幹深部筋である腰部多裂筋の働きを見た研究は少ない。
そこで本研究の目的は,体幹エクササイズの収縮様式が腰部多裂筋に与える影響を超音波画像および表面筋電図を用いて定量的に比較,検討することである。
【方法】
対象は整形外科疾患のない健常男性8名(年齢22.6±1.1歳)である。使用機器は超音波画像診断装置,筋電図計測装置一式とした。測定肢位は腹臥位とし,超音波診画像断装置を用いて画像表示モードはBモード,3.5MHzのコンベックスプローブで撮影を行なった。プローブは,第5腰椎棘突起より外側2cmで脊柱と平行に縦に設置した。超音波画像にて第4腰椎-第5腰椎の椎間関節を確認し,皮下組織と椎間関節までの距離を腰部多裂筋の筋厚として計測した。測定中の運動課題は,安静,Hollowing,Bracingの3つとして,各動作時の筋厚を3回ずつ測定し平均値を代表値とした。表面筋電図は第5腰椎および第1仙椎棘突起の外側にて腰部多裂筋に電極を貼付した。解析はサンプリング周波数1000Hz,バンドパスフィルターは20~500Hzで処理し,全波整流した。MVC計測の後,各動作時の%IEMGを算出した。筋厚,筋活動ともに得られたデータを統計学的に検討した。なお,有意水準は5%とした。
超音波画像診断装置における多裂筋の筋厚測定の検者内信頼性は,同一測定を3回実施した。得られた結果に対し級内相関係数(以下,ICC)を用いて検者内信頼性を確認した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究に先立ち,対象者には研究内容に関する充分な説明を行い同意を得た。
【結果】
超音波におけるICC(1,1)は,安静時0.90~0.99,Hollowing時0.91~0.99,Bracing時0.91~0.99であり,それぞれLandisらの分類にてalmost perfect以上の相関を認めた。
各運動課題での筋厚は,安静時28.8±1.7mm,Hollowing時29.3±1.6mm,Bracing時31.5±1.6mmとなり,Bracing時は安静時およびHollowing時よりも有意に増加していた(安静時p<0.01,Hollowing時p<0.05)。なお,安静時とHollowing時では有意な差は認められなかった。筋活動では,Hollowing時5.44±0.87%,Bracing時8.17±3.08%となり,Bracing時はHollowing時に比べて,有意に高い値となった(p<0.05)。
【考察】
腰部多裂筋厚はBracing時において安静時およびHollowing時より有意に増加した。Bracingの収縮様式は等尺性収縮であり,体幹屈曲筋と伸展筋の協調した働きが必要である。腰部多裂筋は腰部背筋群の中で最も強力で最大であると報告されていることから,Bracingによる腰部多裂筋の働きが考えられる。しかし,腰部多裂筋は腰椎伸展に必要な筋出力よりも,腰部の安定性に寄与していると報告されている。つまり,等尺性収縮による関節運動の代償を抑えるための姿勢制御として腰部の安定性に作用したとも考えられる。今回,表面筋電図を用いて腰部多裂筋を計測したところ,Bracing時の筋活動は8.17±3.08%であった。Bracingは十文字に交差している腹斜筋の補強により十分な腰部安定性を提供する。このため強い同時収縮が必要とされることはなく,MVCの5~10%程度の収縮であると報告されている。この報告より,Bracingにおける腰部多裂筋厚の増加は腰部の安定性に働いたと示唆された。また,安静時とHollowing時では筋厚に有意な差を認めなかった。Hollowingの収縮様式は腹横筋を求心性に収縮させる作用があり,腰部多裂筋への直接的な影響はほとんどない。このために腰部多裂筋への筋厚は変化しなかったと考える。しかし,本研究の限界として健常者を対象にしたデータであり実際に腰痛患者に同様の効果が生じるかは明らかではない。今後は腰痛患者を対象にしたデータ計測より詳細な効果を検討していく必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,Bracingは腰部多裂筋厚を有意に増加させる効果があり,腰部安定性への関与が示唆された。腰痛患者をはじめ体幹深部筋の活動性低下に対するエクササイズの一つとなる可能性が示唆されたことから,理学療法学において意義のある研究であると考える。
腰痛患者では腹横筋や腰部多裂筋などの体幹深部筋の活動性・持久性の低下が報告されている。腰部安定性を図るエクササイズにはHollowingとBracingの2種類の方法が提唱されている。Hollowingは,腰椎・骨盤を動かすことなく腹部をへこませる方法であり,表在筋群から独立して体幹深部筋の収縮を促すことで腰部の安定性を図る。それに対して,Bracingは,腹部をへこませることなく腹壁の3層である外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋を活動させることで腹部を硬くする方法であり,腹斜筋群を用いることにより安定性を向上させる。以上のエクササイズを用いた研究は,腹横筋を中心とした側腹部筋に着目した報告が多いが,体幹深部筋である腰部多裂筋の働きを見た研究は少ない。
そこで本研究の目的は,体幹エクササイズの収縮様式が腰部多裂筋に与える影響を超音波画像および表面筋電図を用いて定量的に比較,検討することである。
【方法】
対象は整形外科疾患のない健常男性8名(年齢22.6±1.1歳)である。使用機器は超音波画像診断装置,筋電図計測装置一式とした。測定肢位は腹臥位とし,超音波診画像断装置を用いて画像表示モードはBモード,3.5MHzのコンベックスプローブで撮影を行なった。プローブは,第5腰椎棘突起より外側2cmで脊柱と平行に縦に設置した。超音波画像にて第4腰椎-第5腰椎の椎間関節を確認し,皮下組織と椎間関節までの距離を腰部多裂筋の筋厚として計測した。測定中の運動課題は,安静,Hollowing,Bracingの3つとして,各動作時の筋厚を3回ずつ測定し平均値を代表値とした。表面筋電図は第5腰椎および第1仙椎棘突起の外側にて腰部多裂筋に電極を貼付した。解析はサンプリング周波数1000Hz,バンドパスフィルターは20~500Hzで処理し,全波整流した。MVC計測の後,各動作時の%IEMGを算出した。筋厚,筋活動ともに得られたデータを統計学的に検討した。なお,有意水準は5%とした。
超音波画像診断装置における多裂筋の筋厚測定の検者内信頼性は,同一測定を3回実施した。得られた結果に対し級内相関係数(以下,ICC)を用いて検者内信頼性を確認した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究に先立ち,対象者には研究内容に関する充分な説明を行い同意を得た。
【結果】
超音波におけるICC(1,1)は,安静時0.90~0.99,Hollowing時0.91~0.99,Bracing時0.91~0.99であり,それぞれLandisらの分類にてalmost perfect以上の相関を認めた。
各運動課題での筋厚は,安静時28.8±1.7mm,Hollowing時29.3±1.6mm,Bracing時31.5±1.6mmとなり,Bracing時は安静時およびHollowing時よりも有意に増加していた(安静時p<0.01,Hollowing時p<0.05)。なお,安静時とHollowing時では有意な差は認められなかった。筋活動では,Hollowing時5.44±0.87%,Bracing時8.17±3.08%となり,Bracing時はHollowing時に比べて,有意に高い値となった(p<0.05)。
【考察】
腰部多裂筋厚はBracing時において安静時およびHollowing時より有意に増加した。Bracingの収縮様式は等尺性収縮であり,体幹屈曲筋と伸展筋の協調した働きが必要である。腰部多裂筋は腰部背筋群の中で最も強力で最大であると報告されていることから,Bracingによる腰部多裂筋の働きが考えられる。しかし,腰部多裂筋は腰椎伸展に必要な筋出力よりも,腰部の安定性に寄与していると報告されている。つまり,等尺性収縮による関節運動の代償を抑えるための姿勢制御として腰部の安定性に作用したとも考えられる。今回,表面筋電図を用いて腰部多裂筋を計測したところ,Bracing時の筋活動は8.17±3.08%であった。Bracingは十文字に交差している腹斜筋の補強により十分な腰部安定性を提供する。このため強い同時収縮が必要とされることはなく,MVCの5~10%程度の収縮であると報告されている。この報告より,Bracingにおける腰部多裂筋厚の増加は腰部の安定性に働いたと示唆された。また,安静時とHollowing時では筋厚に有意な差を認めなかった。Hollowingの収縮様式は腹横筋を求心性に収縮させる作用があり,腰部多裂筋への直接的な影響はほとんどない。このために腰部多裂筋への筋厚は変化しなかったと考える。しかし,本研究の限界として健常者を対象にしたデータであり実際に腰痛患者に同様の効果が生じるかは明らかではない。今後は腰痛患者を対象にしたデータ計測より詳細な効果を検討していく必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,Bracingは腰部多裂筋厚を有意に増加させる効果があり,腰部安定性への関与が示唆された。腰痛患者をはじめ体幹深部筋の活動性低下に対するエクササイズの一つとなる可能性が示唆されたことから,理学療法学において意義のある研究であると考える。