第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

運動生理学3

2014年5月31日(土) 16:40 〜 17:30 ポスター会場 (基礎)

座長:西原賢(埼玉県立大学理学療法学科)

基礎 ポスター

[1270] 頸部屈曲角度の違いが呼吸補助筋の筋活動に与える影響

金井一暁, 長谷川治, 弓永久哲 (関西医療学園専門学校理学療法学科)

キーワード:呼吸補助筋, 頸部角度, 表面筋電図

【はじめに,目的】臨床において,呼吸器疾患の有無に関わらず,座位やベッド臥床時の不良姿勢,殊に頭頸部,体幹の不良肢位により,頸部や腰背部の筋緊張異常をきたし,呼吸状態の悪化,誤嚥やこれによる重篤な肺疾患をきたす症例を経験する。また,呼吸補助筋は呼吸筋の機能不全や気道抵抗の増大など,呼吸器疾患患者や,加齢に伴う脊柱変形を有する高齢者にとって,呼吸筋仕事量の増大に対する代償機能として重要な役割を担うことになる。このような状況において,呼吸機能や呼吸筋力を指標として,姿勢と呼吸の関連性に言及した報告は多いが,頭頸部の肢位と呼吸補助筋の筋活動という視点から報告したものは少ない。そこで本研究では,背臥位で頸部角度を変化させ,安静呼吸および最大努力吸気・呼気時の呼吸補助筋の筋活動を表面筋電図を用いて計測し,頸部角度と呼吸補助筋の筋活動の関連性について検討を行った。
【方法】対象は頸部,呼吸器に疾患のない健康成人男性11名(年齢20.4±1.9歳,身長172.5±4.2cm,体重63.0±8.4kg)とした。測定肢位は,体幹の運動を排除し頸部の角度変化による筋活動への影響を抽出するため背臥位とした。また,頭頸部の位置を規定するため自作の固定器具を被験者の背部から当て,頭部,体幹部の固定を図った。この固定器具は頭頸部屈伸中間位を基本0度とし,そこから頸部屈曲角度を30度,45度,60度で固定できるものである。測定筋は呼吸補助筋である胸鎖乳突筋(ST),斜角筋群(SC),僧帽筋(TR),大胸筋(PM)とした。次いで,各頸部角度において安静呼吸,最大努力吸気・呼気を行わせ,各筋の筋電波形を表面筋電図(ノラクソン社製Myosystem1200)を用いて取得した。なお,最大努力吸気・呼気の計測時にはスパイロメーター(ミナト医科学社製AS507)を用いて最大吸気圧(PImax)・最大呼気圧(PEmax)も同時に計測した。頸部角度の設定はランダムに行い,測定間隔は前の施行の影響が残らないよう十分休息を取りながら行った。各頸部角度ごとに得られた各筋の筋電波形および筋積分値の比較検討を行った。統計にはBonferroniの多重比較法を用い,いずれも有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は倫理委員会の承認を受け,全ての被検者に対し研究目的,方法,結果の公表のほか,協力は自由意志であること,また協力が得られなくても不利益を受けないことについて説明し,口頭と書面による承諾を得た。また,個人情報の取扱いについては個人情報保護法に準じ厳守した。
【結果】安静呼吸では,各筋の筋積分値における各頸部屈曲角度間での統計学的有意差はなかった。最大努力吸気では,PImaxは屈曲0°より45°で有意に増大し,筋積分値においては,STが0°と比較して45°,SCが0°と比較して30°,TRが0°と比較して30°および45°で有意に増大した。また,SCでは30°および45°と比較して60°で有意に減少し,PMにおいては各角度間で有意差はなかった。また,最大努力呼気においては,STおよびSCで筋電波形の明らかな振幅増大を認めるケースが2例あった。
【考察】安静呼吸では,頸部角度の変化に対し,呼吸主動作筋に問題のない健常者であれば呼吸補助筋への依存度は低いことが分かった。最大努力吸気では,PImaxと各筋の筋積分値比較の結果を併せて考えると,頸部30°~45°屈曲位付近にて呼吸筋が総合的に最も活動しやすく吸気を確保しやすい肢位であると考えられ,呼吸器疾患患者においては呼吸補助筋への依存量が増大することを考えると,吸気に対してはこの角度範囲が良肢位となることが示唆された。この角度範囲ではST,SCの走行が胸郭上口に対して垂直位に近づくと考えられ,胸郭の上方引上げに優位な位置となることが,PImaxおよびこれら筋活動が増大した一要因と推察される。また,補助吸気筋であるST,SCの最大努力呼気での筋電波形の振幅増大については,このときの被検者の動作的特徴として頸部の床面からの挙上(頭頸部屈曲)傾向があり,このことは一般的に補助吸気筋として認識されているこれらの筋が,頭頸部を屈曲させて呼気を補助するという間接的な補助呼気筋として活動しうることを示唆する。最後に,本研究結果は頸部角度のみを規定した計測結果であり,今後は頭部,体幹の肢位を総合した評価が必要となる。
【理学療法学研究としての意義】本研究では,頸部屈曲角度の変化により呼吸補助筋の活動に有意な変化を認めた。このことは呼吸管理を含む呼吸リハビリテーションを行う上での,頸部良肢位確保の重要性を示唆するものである。