[1307] 発達に伴う乳幼児歩行の運動力学的特徴
キーワード:乳幼児歩行, 推進機能, 三次元動作解析
【はじめに,目的】一般的に,乳幼児は生後1年で歩行動作が可能となるが,成熟した歩行パターンの獲得には3年を要するといわれている。成熟した歩行パターンが獲得されるまでの発達的変化を詳細に分析することにより,安定した歩行に必要な因子とその獲得過程が明らかになると考えられる。今回,健常乳幼児1例を対象に,1歳1ヶ月から2歳5ヶ月までの歩行の運動力学的特徴を縦断的に調査し,特に推進機能の発達に着目して分析を行ったのでここに報告する。
【方法】対象は,健常女児1名とした。独歩での自由歩行を三次元動作解析装置(VICON MX13カメラ14台)と床反力計(AMTI社製)6枚を用いて計測した。調査期間は,数歩の独歩が可能となった1歳1ヶ月(以下A)から開始し,以後,1歳4ヶ月(以下B),1歳6ヶ月(以下C),1歳10ヶ月(以下D),2歳1ヶ月(以下E),2歳5ヶ月(以下F)の計6回の計測を行った。分析対象は1歩行周期における単脚支持時間,step length,上下方向の重心位置,床反力の前後方向成分(以下Fy),股・膝・足関節の関節角度とした。また,調査期間中に可能となった粗大運動を聴取した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院倫理委員会の承認を受け,対象者とその家族に紙面と口頭で研究内容の説明を行い,同意を得て実施した。
【結果】対象は,Aで数歩の歩行が可能となり,Bでは自宅内での移動方法が四つ這いから歩行に変化した。また,Dでは小走りが可能となり,Eでは手繋ぎで1足1段の階段昇降が,Fではジャンプが可能となった。1歩行周期における単脚支持時間の比率は,A:33.2%,B:31.1%,C:36.0%,D:36.9%,E:34.5%,F:38.9%であった。step length(身長比)は,A:5.7%,B:21.8%,C:29.2%,D:28.4%,E:35.3%,F:36.5%であった。立脚期の重心位置(身長比)の最高値は,A:46.4%,B:46.0%,C:46.0%,D:48.4%,E:48.3%,F:50.0%であった。Fyは,Aでは大きな前後方向成分の変化は認められなかった。B以降においては,立脚初期に後方成分,立脚後期には前方成分のピーク値を示し,その値はB(0.89N/kg,0.62N/kg),C(1.85 N/kg,0.45 N/kg),D(1.93 N/kg,1.10 N/kg),E(1.88 N/kg,1.16N/kg),F(1.40N/kg,1.49N/kg)であった。関節角度は,Aの立脚初期において股・膝関節の軽度屈曲と足関節の底屈を認め,立脚中期においては股・膝関節屈曲角度と足関節背屈角度の増大を認めた。Bでは,立脚初期において足関節底屈角度の減少を認め,立脚中期~後期においては股・膝関節屈曲の減少を認めた。Cでは,立脚初期においてさらなる足関節底屈角度の減少と膝関節屈曲角度の増大を認め,立脚中期~後期においては股関節の屈曲角度がさらに減少した。Dでは,立脚中期~後期において股関節屈曲角度の減少と足関節背屈角度の増大を認めた。Eでは,立脚初期において股・膝関節屈曲角度の減少を認め,立脚中期~後期においては股関節伸展角度の増大・膝関節屈曲角度の減少・足関節背屈角度の増大を認めた。Fでは,立脚初期において膝関節の伸展を認め,立脚中期においては膝関節屈曲角度の減少を認めた。
【考察】歩くことを学習するためには,最初の段階(歩行開始後3~6ヶ月後)でバランスの制御を学び,次の段階(歩行開始後5年間)で歩行パターンが漸進的に改良されると言われている。本研究では,独歩開始後3ヵ月となるBにおいて立脚中期~後期の股・膝関節の屈曲角度が減少し,Fyの前後方成分が出現したことから,前方推進機能が向上したと考えられ,結果としてstep lengthが拡大したと思われる。Cでは立脚初期における足関節底屈角度の減少とともに,膝関節屈曲角度とFyの後方成分の増大が認められたため,double knee actionによる衝撃吸収機能が獲得された時期であると考えられる。さらに,立脚中期~後期における股関節の伸展運動が増大したことから,単脚支持時間の比率とstep lengthが拡大したものと思われる。また,D以降は自立歩行開始後9ヶ月~1年4ヶ月経過した時期となるため,歩行パターンが改良される時期にあると思われる。本研究では,立脚初期における股・膝関節屈曲角度が減少し,立脚中期~後期における股関節伸展角度・足関節背屈角度の増大とともに,Fyの前方成分が増大したことから,推進機能がさらに発達し,重心位置の向上と単脚支持時間の比率,step lengthの更なる拡大に寄与したものと思われる。
【理学療法学研究としての意義】今回,三次元動作解析装置を用いて,乳幼児の歩行獲得過程を縦断的に調査し,特に推進機能の発達について考察した。今後も継続して調査を行い,詳細な運動力学的特徴を分析することで,成熟した歩行の獲得に必要な因子が明らかとなり,理学療法プログラムの立案に寄与するものと考える。
【方法】対象は,健常女児1名とした。独歩での自由歩行を三次元動作解析装置(VICON MX13カメラ14台)と床反力計(AMTI社製)6枚を用いて計測した。調査期間は,数歩の独歩が可能となった1歳1ヶ月(以下A)から開始し,以後,1歳4ヶ月(以下B),1歳6ヶ月(以下C),1歳10ヶ月(以下D),2歳1ヶ月(以下E),2歳5ヶ月(以下F)の計6回の計測を行った。分析対象は1歩行周期における単脚支持時間,step length,上下方向の重心位置,床反力の前後方向成分(以下Fy),股・膝・足関節の関節角度とした。また,調査期間中に可能となった粗大運動を聴取した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院倫理委員会の承認を受け,対象者とその家族に紙面と口頭で研究内容の説明を行い,同意を得て実施した。
【結果】対象は,Aで数歩の歩行が可能となり,Bでは自宅内での移動方法が四つ這いから歩行に変化した。また,Dでは小走りが可能となり,Eでは手繋ぎで1足1段の階段昇降が,Fではジャンプが可能となった。1歩行周期における単脚支持時間の比率は,A:33.2%,B:31.1%,C:36.0%,D:36.9%,E:34.5%,F:38.9%であった。step length(身長比)は,A:5.7%,B:21.8%,C:29.2%,D:28.4%,E:35.3%,F:36.5%であった。立脚期の重心位置(身長比)の最高値は,A:46.4%,B:46.0%,C:46.0%,D:48.4%,E:48.3%,F:50.0%であった。Fyは,Aでは大きな前後方向成分の変化は認められなかった。B以降においては,立脚初期に後方成分,立脚後期には前方成分のピーク値を示し,その値はB(0.89N/kg,0.62N/kg),C(1.85 N/kg,0.45 N/kg),D(1.93 N/kg,1.10 N/kg),E(1.88 N/kg,1.16N/kg),F(1.40N/kg,1.49N/kg)であった。関節角度は,Aの立脚初期において股・膝関節の軽度屈曲と足関節の底屈を認め,立脚中期においては股・膝関節屈曲角度と足関節背屈角度の増大を認めた。Bでは,立脚初期において足関節底屈角度の減少を認め,立脚中期~後期においては股・膝関節屈曲の減少を認めた。Cでは,立脚初期においてさらなる足関節底屈角度の減少と膝関節屈曲角度の増大を認め,立脚中期~後期においては股関節の屈曲角度がさらに減少した。Dでは,立脚中期~後期において股関節屈曲角度の減少と足関節背屈角度の増大を認めた。Eでは,立脚初期において股・膝関節屈曲角度の減少を認め,立脚中期~後期においては股関節伸展角度の増大・膝関節屈曲角度の減少・足関節背屈角度の増大を認めた。Fでは,立脚初期において膝関節の伸展を認め,立脚中期においては膝関節屈曲角度の減少を認めた。
【考察】歩くことを学習するためには,最初の段階(歩行開始後3~6ヶ月後)でバランスの制御を学び,次の段階(歩行開始後5年間)で歩行パターンが漸進的に改良されると言われている。本研究では,独歩開始後3ヵ月となるBにおいて立脚中期~後期の股・膝関節の屈曲角度が減少し,Fyの前後方成分が出現したことから,前方推進機能が向上したと考えられ,結果としてstep lengthが拡大したと思われる。Cでは立脚初期における足関節底屈角度の減少とともに,膝関節屈曲角度とFyの後方成分の増大が認められたため,double knee actionによる衝撃吸収機能が獲得された時期であると考えられる。さらに,立脚中期~後期における股関節の伸展運動が増大したことから,単脚支持時間の比率とstep lengthが拡大したものと思われる。また,D以降は自立歩行開始後9ヶ月~1年4ヶ月経過した時期となるため,歩行パターンが改良される時期にあると思われる。本研究では,立脚初期における股・膝関節屈曲角度が減少し,立脚中期~後期における股関節伸展角度・足関節背屈角度の増大とともに,Fyの前方成分が増大したことから,推進機能がさらに発達し,重心位置の向上と単脚支持時間の比率,step lengthの更なる拡大に寄与したものと思われる。
【理学療法学研究としての意義】今回,三次元動作解析装置を用いて,乳幼児の歩行獲得過程を縦断的に調査し,特に推進機能の発達について考察した。今後も継続して調査を行い,詳細な運動力学的特徴を分析することで,成熟した歩行の獲得に必要な因子が明らかとなり,理学療法プログラムの立案に寄与するものと考える。