[1321] 重力負荷と陽圧換気負荷の併用による循環動態への影響
キーワード:陽圧換気負荷, 静脈還流量, 心機能
【はじめに,目的】
長期安静臥床に伴う静脈還流量の増加は,心機能の著明な低下を引き起こす。一方,陽圧換気は,静脈還流量を減少させることが分かっている。我々はこれまでに仰臥位での人工呼吸器の呼気終末陽圧(positive end-expiratory pressure:PEEP)換気負荷により,僅かに静脈還流量減少を惹起させ起立性低血圧を予防・改善させる可能性を報告した。しかし,座位や立位などの抗重力姿勢において,すでに静脈還流量が減少した状況下での陽圧換気負荷が循環動態へ及ぼす影響は不明である。座位・立位において陽圧換気負荷を併用する事により,循環動態に更なる負荷をかける事が可能であれば,陽圧換気負荷をトレーニングに応用して,心機能の低下を予防・改善させる可能性がある。
本研究の目的は重力負荷と陽圧換気負荷を併用した際の血圧(blood pressure:BP),心拍数(heart rate:HR),一回心拍出量(stroke volume:SV),心拍出量(cardiac output:CO)を測定し,循環動態への影響を明らかにすることである。
【方法】
対象は若年健常男性7名(年齢26.5±3.6歳,身長173.2±5.9cm,体重68±8.6kg)とした。重力負荷は座位,立位とし,陽圧換気負荷は,非侵襲的人工呼吸器(V60ベンチレータ フェイスマスク:フィリップス・レスピロニクス社製)を使用し,持続的なPEEP 12cmH2Oとした。重力負荷のみ(重力負荷群)と重力・PEEPを併用した負荷(陽圧換気負荷群)の2群で測定を行った。プロトコールは仰臥位で十分な安静をとり,BP,HRの安定を確認した後,安静データを測定し(仰臥位5分),その後,2群ともに座位7分,立位7分と連続的に姿勢変換を行った。2群の測定は同一被験者とし,異なる日にそれぞれ行った。測定項目は,CO,SV,HR,BPとし,CO,SV,HRはCO計(メディセンス社製MCO-101)を用い,1秒毎に測定した。BPは1分毎に自動血圧計(TERMO製エレマーノ)で測定し,そこから平均血圧(mean blood pressure:MBP)を算出した。
結果の解析は,安静,座位,立位のデータは,それぞれデータが安定化した最終1分間の平均を使用した。CO,SV,HR,MBPを安静データからの変化量(⊿)としてそれぞれ算出し,負荷条件の違いによる同一姿勢間で比較した。統計処理は,同一姿勢での群間比較を対応のあるt検定で行い,統計学的有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
和歌山県立医科大学倫理委員会の承認を得た上で,口頭および書面で被験者に実験の目的,方法および危険性を十分説明し,同意を得て行った。
【結果】
⊿SVは,座位時では重力負荷群-29.2±19.3ml,陽圧換気負荷群-40.2±18.4ml(p<0.05),立位時では重力負荷群-39.8±18.9ml,陽圧換気負荷群-50.1±15.9ml(p<0.01)となり,座位・立位時ともに重力負荷群と比較し陽圧換気負荷群で有意な減少を認めた。
⊿HRは,座位時では重力負荷群9.0±4.5bpm,陽圧換気負荷群12.6±4.4bpm(p<0.01),立位時では重力負荷群20.7±2.9bpm,陽圧換気負荷群27.2±4.3bpm(p<0.01)となり,座位・立位時ともに重力負荷群と比較し陽圧換気負荷群で有意な上昇を認めた。⊿MBPおよび⊿COには有意差は認められなかった。
【考察】
今回の結果,⊿SVはより減少し,⊿HRはより上昇することが分かった。⊿SVが座位・立位時の陽圧換気負荷群で有意な減少を認めたことに関して,SVの増減には静脈還流量の変化が関与すると言われている。今回,陽圧換気負荷により胸腔内圧が陽圧となったと考えられ,本来の陰圧呼吸の圧較差による静脈血を引き上げる呼吸ポンプ作用の減弱や肺血管抵抗上昇がSVを減少させた要因と考えられた。⊿HRが座位・立位時の陽圧換気負荷群で有意に高値であったのは,SVがより減少したことで圧受容器反射が惹起され代償的にHRが上昇したと考えられた。その結果,COを維持し,BPが保たれたと推察される。
重力負荷と陽圧換気負荷(PEEP 12cmH2O)を併用することにより循環動態に更なる負荷をかける事ができた。すなわち,静脈還流量減少をHR上昇で補うために心仕事量が増大し,同様の運動負荷量であっても心機能の向上が期待できる。一方,BPへの影響がなかったことから重力負荷と陽圧換気負荷の併用は安全面においても問題はないと考えられた。これらの結果より,運動効果を向上させる目的で陽圧換気負荷を利用できる可能性が明らかとなった。
【理学療法学研究としての意義】
陽圧換気負荷は,循環動態に負荷をかける方法として効率的でかつ安全な方法であり,運動時に陽圧換気負荷を併用することにより心機能の向上を促進させる可能性が示唆された。
長期安静臥床に伴う静脈還流量の増加は,心機能の著明な低下を引き起こす。一方,陽圧換気は,静脈還流量を減少させることが分かっている。我々はこれまでに仰臥位での人工呼吸器の呼気終末陽圧(positive end-expiratory pressure:PEEP)換気負荷により,僅かに静脈還流量減少を惹起させ起立性低血圧を予防・改善させる可能性を報告した。しかし,座位や立位などの抗重力姿勢において,すでに静脈還流量が減少した状況下での陽圧換気負荷が循環動態へ及ぼす影響は不明である。座位・立位において陽圧換気負荷を併用する事により,循環動態に更なる負荷をかける事が可能であれば,陽圧換気負荷をトレーニングに応用して,心機能の低下を予防・改善させる可能性がある。
本研究の目的は重力負荷と陽圧換気負荷を併用した際の血圧(blood pressure:BP),心拍数(heart rate:HR),一回心拍出量(stroke volume:SV),心拍出量(cardiac output:CO)を測定し,循環動態への影響を明らかにすることである。
【方法】
対象は若年健常男性7名(年齢26.5±3.6歳,身長173.2±5.9cm,体重68±8.6kg)とした。重力負荷は座位,立位とし,陽圧換気負荷は,非侵襲的人工呼吸器(V60ベンチレータ フェイスマスク:フィリップス・レスピロニクス社製)を使用し,持続的なPEEP 12cmH2Oとした。重力負荷のみ(重力負荷群)と重力・PEEPを併用した負荷(陽圧換気負荷群)の2群で測定を行った。プロトコールは仰臥位で十分な安静をとり,BP,HRの安定を確認した後,安静データを測定し(仰臥位5分),その後,2群ともに座位7分,立位7分と連続的に姿勢変換を行った。2群の測定は同一被験者とし,異なる日にそれぞれ行った。測定項目は,CO,SV,HR,BPとし,CO,SV,HRはCO計(メディセンス社製MCO-101)を用い,1秒毎に測定した。BPは1分毎に自動血圧計(TERMO製エレマーノ)で測定し,そこから平均血圧(mean blood pressure:MBP)を算出した。
結果の解析は,安静,座位,立位のデータは,それぞれデータが安定化した最終1分間の平均を使用した。CO,SV,HR,MBPを安静データからの変化量(⊿)としてそれぞれ算出し,負荷条件の違いによる同一姿勢間で比較した。統計処理は,同一姿勢での群間比較を対応のあるt検定で行い,統計学的有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
和歌山県立医科大学倫理委員会の承認を得た上で,口頭および書面で被験者に実験の目的,方法および危険性を十分説明し,同意を得て行った。
【結果】
⊿SVは,座位時では重力負荷群-29.2±19.3ml,陽圧換気負荷群-40.2±18.4ml(p<0.05),立位時では重力負荷群-39.8±18.9ml,陽圧換気負荷群-50.1±15.9ml(p<0.01)となり,座位・立位時ともに重力負荷群と比較し陽圧換気負荷群で有意な減少を認めた。
⊿HRは,座位時では重力負荷群9.0±4.5bpm,陽圧換気負荷群12.6±4.4bpm(p<0.01),立位時では重力負荷群20.7±2.9bpm,陽圧換気負荷群27.2±4.3bpm(p<0.01)となり,座位・立位時ともに重力負荷群と比較し陽圧換気負荷群で有意な上昇を認めた。⊿MBPおよび⊿COには有意差は認められなかった。
【考察】
今回の結果,⊿SVはより減少し,⊿HRはより上昇することが分かった。⊿SVが座位・立位時の陽圧換気負荷群で有意な減少を認めたことに関して,SVの増減には静脈還流量の変化が関与すると言われている。今回,陽圧換気負荷により胸腔内圧が陽圧となったと考えられ,本来の陰圧呼吸の圧較差による静脈血を引き上げる呼吸ポンプ作用の減弱や肺血管抵抗上昇がSVを減少させた要因と考えられた。⊿HRが座位・立位時の陽圧換気負荷群で有意に高値であったのは,SVがより減少したことで圧受容器反射が惹起され代償的にHRが上昇したと考えられた。その結果,COを維持し,BPが保たれたと推察される。
重力負荷と陽圧換気負荷(PEEP 12cmH2O)を併用することにより循環動態に更なる負荷をかける事ができた。すなわち,静脈還流量減少をHR上昇で補うために心仕事量が増大し,同様の運動負荷量であっても心機能の向上が期待できる。一方,BPへの影響がなかったことから重力負荷と陽圧換気負荷の併用は安全面においても問題はないと考えられた。これらの結果より,運動効果を向上させる目的で陽圧換気負荷を利用できる可能性が明らかとなった。
【理学療法学研究としての意義】
陽圧換気負荷は,循環動態に負荷をかける方法として効率的でかつ安全な方法であり,運動時に陽圧換気負荷を併用することにより心機能の向上を促進させる可能性が示唆された。