第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 基礎理学療法 口述

運動制御・運動学習5

2014年6月1日(日) 09:30 〜 10:20 第3会場 (3F 301)

座長:谷浩明(国際医療福祉大学小田原保健医療学部理学療法学科)

基礎 口述

[1339] 歩行からの降段動作への動作戦略の分析

齋藤涼平1,2, 石井慎一郎3 (1.IMS(イムス)グループ高島平中央総合病院, 2.神奈川県立保健福祉大学大学院保健福祉学研究科リハビリテーション領域, 3.神奈川県立保健福祉大学リハビリテーション学科)

キーワード:降段動作, 動作推移, 動作戦略

【はじめに,目的】
日常生活の中で階段昇降動作は日常生活の範囲を拡大するために重要な動作といえる。一方で,階段昇降動作は,生体力学的負担が大きく高齢者や障害者にとっては難易度が高い動作である,とりわけ,降段動作は昇段動作に比べて,恐怖感や関節の疼痛を訴える患者の割合が多い。公共の場での転倒事故は,降段動作時に多く発生する傾向ある。階段の前で一度立ち止まってからでないと降段できないと訴える患者が多く,人の往来の流れに乗って,歩行から降段動作へスムーズに移行することができないことが,公共の場で降段中に転倒しやすいことの理由の一つではないかと考えられる。先行研究では,年齢や疾患別の比較や,動作条件の段の高さや動作速度を変えての報告があるが,どれも降段最中の報告となり,降段の始めや,歩行から降段の動作推移についての報告は見当たらない。本研究の目的は,歩行から降段動作の際にどのように動作戦略を行い動作の推移を行っているかを明らかにし,なぜ歩行からの降段動作の際に止まってしまうのか,止まらないと困難な理由を力学的に検討することである。そこで,歩行から連続した降段動作と,静止立位からの降段動作を,身体の制御を反映する床反力と,下肢の各関節の関節モーメント,関節パワーについて検討した。
【方法】
対象は,健常成人12名(男性7名,女性5名,平均年齢25.3歳),運動課題は歩行路の高さ40cm長さ4.0mと,蹴上げ20cm踏面28cmの段差を使用し,歩行路から歩行しての降段動作(以下Dynamic),段差の一歩手前からの降段動作(以下Static)とした。計測は,三次元動作解析装置VICON-612(VICON PEAK社製)と床反力計(AMTI社製)6枚を使用した。被験者の体表面上に貼付した計11個の赤外線反射標点の位置を計測し,解析ソフトDIFFgait,WaveEyesを用いて,課題動作中の床反力2成分(前後,鉛直方向),股・膝・足関節の各伸展・屈曲モーメントと各関節パワーを算出した,解析区間は,段差を降りる歩行路での支持側(1歩目と定義)の初期接地(I.C)から,対側の降段した1段目(2歩目と定義)のつま先離地(T.O)とした。データの抽出は立脚時間と,床反力鉛直方向では各ピーク値を,床反力前後方向では前方・後方成分での積分値とピーク値を,関節モーメント・関節パワーはピーク値を抽出し,1歩目と2歩目のDynamicとStaticで比較した。統計は対応のあるt検定(IBM SPSS ver.20)を用い,有意水準は危険率5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に従い,対象者には本研究の趣旨やリスク,撤回の自由などを口頭と文書にて十分に説明し,同意が得られた者を対象とした。本研究は,神奈川県立保健福祉大学研究倫理審査委員会にて承認済みである(承認番号24-14-006)。
【結果】
1歩目鉛直床反力で,Dynamicの1次ピーク値(667.7N,604.4N)で増大(p<0.05),2次ピーク値(367.4N,396.7N)と3次ピーク値(566.2N,592.4N)で減少(p<0.01)。前後床反力で,Dynamicの後方成分のピーク値(124.7N,55.2N)増大・積分値(30.0,14.3)増大がみられた(p<0.01)。2歩目では,各ピーク値,積分値は有意な差は認められなかった。関節モーメント・関節パワーでは,1歩目初期にDynamicの股関節伸展の正の関節パワー(0.6W,2.9W)の減少(p<0.01),膝関節伸展モーメント(47.8Nm,37.2Nm)と負の関節パワー(-74.6W,-18.9W)の増大(p<0.01)。中期にDynamicの股関節屈曲モーメント(18.3Nm,13.6Nm)と負の関節パワー(-4.6W,-0.7W)の増大(p<0.01),足関節底屈の負の関節パワー(-47.9W,-41.2W)の増大(p<0.05)。後期にDynamicの股関節屈曲モーメント(26.1Nm,23.2Nm)と負の関節パワー(-13.4W,-9.5W)の増大(p<0.05)。
【考察】
歩行からの降段動作は,歩行中の前方への推進力と重心の上下動のリズムを,降段動作で必要な前下方へと推移する必要がある。DynamicとStatic比較すると歩行中の前方への推進力をDynamicでは立脚初期に膝関節伸展の遠心性活動を用い身体の前方へのブレーキ行うと同時に股関節伸展の求心性活動を減少させ重心上昇を抑制していることが考えられる,中期以降でも前方の推進力を前下方へ制御するため,股関節伸展,足関節底屈の遠心性活動を増加させている。歩行から円滑に降段するためには,歩行中の前方への推進力に対して,立脚初期だけでなく中期以降での前方へのブレーキと同時に下方への制御が重要と考えられる。立ち止まらないと降段することができない一つの理由としては立脚期を通しての前方と下方への遠心性活動での制御が困難と考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果から歩行からの降段動作は,1歩目での立脚期を通しての各関節の遠心性活動が重要であることが考えられた,これらの知見は臨床での降段動作の際に立ち止まってしまう患者の治療の一助となると考える。