[1349] 前方進入法人工股関節全置換術術後3日目における靴下着脱動作の関連因子
Keywords:人工股関節全置換術, 靴下着脱動作, 関節可動域
【はじめに,目的】
我々は前方進入法による人工股関節全置換術(THA)患者に対して入院期間6日(術後4日)のクリニカルパスを運用し(達成率88.3%),全症例において自宅退院が可能であった事を昨年の本学会で報告した。術後4日間で加速的にADLの獲得が必要とされるため,脱臼に対するリスク管理は極めて重要である。特に靴下着脱動作の自立は日常生活動作や生活の質の向上の観点からも重要であり,当院では前方から安全に靴下を着脱するために膝伸展位や股関節屈曲,外転,外旋位での方法を推奨している。しかし,術後早期における靴下着脱動作の獲得因子について明確に示した報告は少ない。本研究の目的は,THA術後3日目における前方からの靴下着脱動作の達成率を調査し,更に具体的な関節可動域の目標値を算出することである。
【方法】
2013年3月から6月に進行期,末期変形性股関節症と診断され,片側THAを施行した120例(男性16例,女性104例,平均年齢64.2(42-83)歳,平均身長156.3±8.1cm,平均体重57.7±10.1kg)を対象とした。調査項目は,靴下着脱動作の実施率(靴下着脱動作前方型を前方群,靴下着脱動作後方型と自助具使用が非前方群の2群に分類),術側における股関節屈曲,外転,外旋可動域,長座位体前屈(示指~母趾の距離:母趾より近位をマイナス表記,母趾より遠位をプラス表記),開排値(背臥位にて術側膝関節90°屈曲位で開排し,腓骨頭から床への垂線の距離を棘果長で正規化)とし,術後3日目に測定した。除外基準は,両側同時症例,再置換症例とした。統計学的処理はロジスティック回帰分析を用いた。目的変数は術後3日目における靴下着脱の前方群と非前方群とし,説明変数は術後3日目における股関節屈曲,外転,外旋可動域,長座位体前屈,開排値とした。有意水準は5%とし,有意性が認められた因子に関してROC曲線分析を用いてカットオフ値を算出した。統計ソフトはR2.8.1を使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は船橋整形外科病院倫理委員会の承認を受け(承認番号;2013012),対象者へ十分説明し,同意を得て実施した。個人情報保護のため得られたデータは匿名化し,個人情報が特定できないように配慮した。
【結果】
術後3日目における靴下着脱実施率は前方群が82.5%(99例),非前方群が17.5%(21例:後方型7.5%,自助具10%)であった。術後3日目における前方からの靴下着脱の可否に関与する因子として,股関節屈曲と開排値が抽出された。各オッズ比(95%信頼区間)は,股関節屈曲1.199(1.085-1.325),開排値0.9170(0.844-0.997)であった(p<0.000)。それぞれのカットオフ値,感度,特異度は,股関節屈曲では95°,53%,90%で,開排値では0.28,62%,82%であった。
【考察】
靴下動作着脱因子を検討した先行研究は散見されるが,術後3日目における靴下動作獲得因子を検討し,カットオフ値を示したものはなかった。本研究より,術後3日目における前方からの靴下着脱動作自立因子として股関節屈曲と開排値が抽出された。それらの項目に対してカットオフ値を検討したところ,術後3日目までの理学療法において,股関節屈曲95°以上を獲得し,更に開排値0.28以下を目指すことで前方からの靴下着脱動作の獲得が期待出来ると考えられる。また,今回の結果より複合動作である開排値が前方からの靴下着脱因子に抽出されている事から,単一の可動域方向だけではなく,骨盤の影響も考慮していく必要があると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
近年医療経済的な背景から,THAにおけるクリニカルパスも短縮する傾向となっている。加速的にADLの獲得が必要とされる反面,脱臼に対するリスク管理は極めて重要である。今回得られた知見より,理学療法士が早期退院に対してリスクを把握し,具体的な目標を持ってTHA術後の理学療法を実施することで,日常生活動作の獲得や生活の質の向上につながるのではないかと考えられる。
我々は前方進入法による人工股関節全置換術(THA)患者に対して入院期間6日(術後4日)のクリニカルパスを運用し(達成率88.3%),全症例において自宅退院が可能であった事を昨年の本学会で報告した。術後4日間で加速的にADLの獲得が必要とされるため,脱臼に対するリスク管理は極めて重要である。特に靴下着脱動作の自立は日常生活動作や生活の質の向上の観点からも重要であり,当院では前方から安全に靴下を着脱するために膝伸展位や股関節屈曲,外転,外旋位での方法を推奨している。しかし,術後早期における靴下着脱動作の獲得因子について明確に示した報告は少ない。本研究の目的は,THA術後3日目における前方からの靴下着脱動作の達成率を調査し,更に具体的な関節可動域の目標値を算出することである。
【方法】
2013年3月から6月に進行期,末期変形性股関節症と診断され,片側THAを施行した120例(男性16例,女性104例,平均年齢64.2(42-83)歳,平均身長156.3±8.1cm,平均体重57.7±10.1kg)を対象とした。調査項目は,靴下着脱動作の実施率(靴下着脱動作前方型を前方群,靴下着脱動作後方型と自助具使用が非前方群の2群に分類),術側における股関節屈曲,外転,外旋可動域,長座位体前屈(示指~母趾の距離:母趾より近位をマイナス表記,母趾より遠位をプラス表記),開排値(背臥位にて術側膝関節90°屈曲位で開排し,腓骨頭から床への垂線の距離を棘果長で正規化)とし,術後3日目に測定した。除外基準は,両側同時症例,再置換症例とした。統計学的処理はロジスティック回帰分析を用いた。目的変数は術後3日目における靴下着脱の前方群と非前方群とし,説明変数は術後3日目における股関節屈曲,外転,外旋可動域,長座位体前屈,開排値とした。有意水準は5%とし,有意性が認められた因子に関してROC曲線分析を用いてカットオフ値を算出した。統計ソフトはR2.8.1を使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は船橋整形外科病院倫理委員会の承認を受け(承認番号;2013012),対象者へ十分説明し,同意を得て実施した。個人情報保護のため得られたデータは匿名化し,個人情報が特定できないように配慮した。
【結果】
術後3日目における靴下着脱実施率は前方群が82.5%(99例),非前方群が17.5%(21例:後方型7.5%,自助具10%)であった。術後3日目における前方からの靴下着脱の可否に関与する因子として,股関節屈曲と開排値が抽出された。各オッズ比(95%信頼区間)は,股関節屈曲1.199(1.085-1.325),開排値0.9170(0.844-0.997)であった(p<0.000)。それぞれのカットオフ値,感度,特異度は,股関節屈曲では95°,53%,90%で,開排値では0.28,62%,82%であった。
【考察】
靴下動作着脱因子を検討した先行研究は散見されるが,術後3日目における靴下動作獲得因子を検討し,カットオフ値を示したものはなかった。本研究より,術後3日目における前方からの靴下着脱動作自立因子として股関節屈曲と開排値が抽出された。それらの項目に対してカットオフ値を検討したところ,術後3日目までの理学療法において,股関節屈曲95°以上を獲得し,更に開排値0.28以下を目指すことで前方からの靴下着脱動作の獲得が期待出来ると考えられる。また,今回の結果より複合動作である開排値が前方からの靴下着脱因子に抽出されている事から,単一の可動域方向だけではなく,骨盤の影響も考慮していく必要があると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
近年医療経済的な背景から,THAにおけるクリニカルパスも短縮する傾向となっている。加速的にADLの獲得が必要とされる反面,脱臼に対するリスク管理は極めて重要である。今回得られた知見より,理学療法士が早期退院に対してリスクを把握し,具体的な目標を持ってTHA術後の理学療法を実施することで,日常生活動作の獲得や生活の質の向上につながるのではないかと考えられる。