[1383] 障害者支援施設における理学療法の検討
キーワード:障害者支援施設, 機能訓練, 就労
【はじめに,目的】
平成24年度厚生労働省老人保健健康増進等国家補助金事業として,日本理学療法士協会が行った「長期的な医療介入が必要なリハビリテーション患者・利用者に対するリハビリテーションのあり方に関する調査研究事業」では,標準的算定日数を超える長期的なリハビリテーションの介入を要する患者の特徴として,就労・復職支援を必要とする者が含まれている。標準的なリハビリテーションが遂行困難であった者や回復の遷延など,身体状況に基づく長期的な介入の必要性だけでなく,復職などの社会的な自立を促すリハビリテーションの手薄さが指摘されている。障害者の就労支援は障害者総合支援法にて実施されている。障害者総合支援法における「機能訓練」と「就労移行支援」による復職および就労への取り組みを,症例を通して報告する。
【方法,経緯】
症例は脳出血による左片麻痺者,40歳代,男性である。発症後,開頭血腫除去術を施行し,回復期リハビリテーション病院にて理学療法,作業療法,言語聴覚療法を実施後,自宅へ退院となった。通信関連の会社員であったが,休職となった。また発症を機に,単身生活から後期高齢者である母親との2人暮らしとなった。維持期のリハビリテーションを医療機関で実施しながら,在宅生活を送っていた。身辺動作は自立していたものの,入浴はシャワー浴のみであった。家事はすべて母親が担い,医療機関でのリハビリテーション実施以外,外出の機会はなく,屋外歩行は短距離であっても見守りが必要であった。約1年間の自宅生活後,当センター障害者支援施設入所となった。入所時の身体機能は上肢・下肢ともに分離運動が困難で,重度の感覚障害を有していた。短下肢装具とT字杖を使用して歩行し,階段昇降は手すりが必要であった。理学療法では,復職を念頭において,屋外歩行の自立をゴールとして練習を開始した。歩行能力の向上に伴って,屋外歩行練習と公共交通機関利用を目的とした市街地練習を実施した。作業療法では,洗体・洗髪を中心とした入浴動作練習と身だしなみを整えるための更衣・整容動作練習を実施した。さらに,高齢の母との2人暮らしという背景から,調理・掃除・洗濯練習を実施し,施設内および外泊時に経験を重ねるように指導を継続した。この他,基礎体力作りのための体育練習,片手作業の習熟・作業耐久性の向上を目的とした作業系基礎練習,パソコン練習を実施した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本報告の目的を説明し,書面にて同意を得た。
【結果】
「機能訓練」から「就労移行支援」への移行まで要した期間は約1年であった。入所当初,見守りレベルであった屋外歩行が自立し,公共交通機関利用も可能となった。日常生活活動はすべて自立し,自宅の浴室を使用した入浴動作も可能となった。発症前に行っていなかった調理は上達に時間を要した。難易度を設定した段階的な練習が繰り返し必要であったが,主菜・副菜・炊飯を同時に行うまでに上達した。
【考察】
生活基盤の確立を目指す「機能訓練」では,理学療法評価に基づいたゴールの設定とプログラムの立案が必要である。本症例は40歳代であり,基礎体力があると見込まれること,就業世代であること,入所前の生活スタイルから廃用症候群が疑われ,回復の可能性があると考えられることから,屋外歩行の自立と復職をゴールとした。「機能訓練」から「就労移行支援」へ移行し,復職か就労を目指すためには,身辺動作だけでなく,生活関連動作の獲得が必要である。さらに獲得した動作を維持し,継続する手段も身につけなければならない。そのため,自宅で実践ができるような評価と練習課題の抽出を,繰り返し行う必要がある。本症例では約1年間という期間を要した。時間の制約がある回復期リハビリテーションや,個別の関わりが困難な維持期のリハビリテーションでは,就業を念頭においた理学療法は困難であると思われる。これらは,「長期的な医療介入が必要なリハビリテーション患者・利用者に対するリハビリテーションのあり方に関する調査研究事業」においても明らかにされている。つまり,標準的算定日数を超える長期的なリハビリテーションが行われている理由の一つが,就労・復職支援であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
障害者支援施設における「機能訓練」の認知度は低く,全国的に利用率の低下が問題化している。就労支援を念頭においた理学療法の実際と効果を示すことで,障害者の就労支援分野の理学療法を発展させる。
平成24年度厚生労働省老人保健健康増進等国家補助金事業として,日本理学療法士協会が行った「長期的な医療介入が必要なリハビリテーション患者・利用者に対するリハビリテーションのあり方に関する調査研究事業」では,標準的算定日数を超える長期的なリハビリテーションの介入を要する患者の特徴として,就労・復職支援を必要とする者が含まれている。標準的なリハビリテーションが遂行困難であった者や回復の遷延など,身体状況に基づく長期的な介入の必要性だけでなく,復職などの社会的な自立を促すリハビリテーションの手薄さが指摘されている。障害者の就労支援は障害者総合支援法にて実施されている。障害者総合支援法における「機能訓練」と「就労移行支援」による復職および就労への取り組みを,症例を通して報告する。
【方法,経緯】
症例は脳出血による左片麻痺者,40歳代,男性である。発症後,開頭血腫除去術を施行し,回復期リハビリテーション病院にて理学療法,作業療法,言語聴覚療法を実施後,自宅へ退院となった。通信関連の会社員であったが,休職となった。また発症を機に,単身生活から後期高齢者である母親との2人暮らしとなった。維持期のリハビリテーションを医療機関で実施しながら,在宅生活を送っていた。身辺動作は自立していたものの,入浴はシャワー浴のみであった。家事はすべて母親が担い,医療機関でのリハビリテーション実施以外,外出の機会はなく,屋外歩行は短距離であっても見守りが必要であった。約1年間の自宅生活後,当センター障害者支援施設入所となった。入所時の身体機能は上肢・下肢ともに分離運動が困難で,重度の感覚障害を有していた。短下肢装具とT字杖を使用して歩行し,階段昇降は手すりが必要であった。理学療法では,復職を念頭において,屋外歩行の自立をゴールとして練習を開始した。歩行能力の向上に伴って,屋外歩行練習と公共交通機関利用を目的とした市街地練習を実施した。作業療法では,洗体・洗髪を中心とした入浴動作練習と身だしなみを整えるための更衣・整容動作練習を実施した。さらに,高齢の母との2人暮らしという背景から,調理・掃除・洗濯練習を実施し,施設内および外泊時に経験を重ねるように指導を継続した。この他,基礎体力作りのための体育練習,片手作業の習熟・作業耐久性の向上を目的とした作業系基礎練習,パソコン練習を実施した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本報告の目的を説明し,書面にて同意を得た。
【結果】
「機能訓練」から「就労移行支援」への移行まで要した期間は約1年であった。入所当初,見守りレベルであった屋外歩行が自立し,公共交通機関利用も可能となった。日常生活活動はすべて自立し,自宅の浴室を使用した入浴動作も可能となった。発症前に行っていなかった調理は上達に時間を要した。難易度を設定した段階的な練習が繰り返し必要であったが,主菜・副菜・炊飯を同時に行うまでに上達した。
【考察】
生活基盤の確立を目指す「機能訓練」では,理学療法評価に基づいたゴールの設定とプログラムの立案が必要である。本症例は40歳代であり,基礎体力があると見込まれること,就業世代であること,入所前の生活スタイルから廃用症候群が疑われ,回復の可能性があると考えられることから,屋外歩行の自立と復職をゴールとした。「機能訓練」から「就労移行支援」へ移行し,復職か就労を目指すためには,身辺動作だけでなく,生活関連動作の獲得が必要である。さらに獲得した動作を維持し,継続する手段も身につけなければならない。そのため,自宅で実践ができるような評価と練習課題の抽出を,繰り返し行う必要がある。本症例では約1年間という期間を要した。時間の制約がある回復期リハビリテーションや,個別の関わりが困難な維持期のリハビリテーションでは,就業を念頭においた理学療法は困難であると思われる。これらは,「長期的な医療介入が必要なリハビリテーション患者・利用者に対するリハビリテーションのあり方に関する調査研究事業」においても明らかにされている。つまり,標準的算定日数を超える長期的なリハビリテーションが行われている理由の一つが,就労・復職支援であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
障害者支援施設における「機能訓練」の認知度は低く,全国的に利用率の低下が問題化している。就労支援を念頭においた理学療法の実際と効果を示すことで,障害者の就労支援分野の理学療法を発展させる。