第49回日本理学療法学術大会

講演情報

発表演題 ポスター » 神経理学療法 ポスター

その他3

2014年6月1日(日) 09:30 〜 10:20 ポスター会場 (神経)

座長:蔵品利江(総合南東北病院リハビリテーション科)

神経 ポスター

[1401] 機能障害が進行した筋萎縮性側索硬化症患者に対しては有酸素運動が有益である

菊地豊1,13, 上出直人2,13, 北野晃祐3,13, 浅川孝司4,13, 芝崎伸彦5,13, 笠原良雄6,13, 玉田良樹7,13, 渡邉宏樹8,13, 川上司9,13, 米田正樹10,13, 寄本恵輔11,13, 小林庸子11,13, 小森哲夫12,13 (1.脳血管研究所美原記念病院神経難病リハビリテーション科, 2.北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科, 3.東京都立神経病院リハビリテーション科, 4.吉野内科神経内科医院リハビリテーション科, 5.村上華林堂病院リハビリテーション科, 6.狭山神経内科病院リハビリテーション科, 7.国立国際医療センター国府台病院リハビリテーション科, 8.茅ヶ崎徳洲会総合病院リハビリテーション科, 9.国立病院機構新潟病院リハビリテーション科, 10.公立八鹿病院リハビリテーション科, 11.国立精神・神経医療研究センターリハビリテーション科)

キーワード:筋萎縮性側索硬化症, 運動療法, 多施設共同研究

【はじめに,目的】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者における運動療法について十分な根拠が少なく,軽症例に対する運動療法の有効性について報告が散見されるのみである(Bello-Hass, et al. 2008)。さらに,機能障害が中等度以上の進行例に対しては研究がなく,運動療法に関する情報は皆無といっても過言ではない。一方で,実際の臨床現場では,進行例に対しても運動療法が行われていることは多いと考えられるため,臨床データの分析を通して,何らかの貴重な知見を得ることができる可能性はあると考えられる。本研究の目的は,多施設共同研究によって多数の臨床データを蓄積し,臨床データの統計学的分析を通して,機能障害が中等度以上に進行したALS患者の機能障害に対する運動療法の意義について探索的に検討することとした。
【方法】
対象は,国内6つの医療機関において,2001~2011年の間に神経内科医によりALSと診断され,理学療法依頼が出された連続症例で,ALSの日常活動における機能評価尺度(ALSFRS-R)の得点が30点未満の機能障害が中等度以上の進行例とした。さらに,本研究における採用基準として,6ヶ月程度の追跡期間を有し,気管切開がなされていない対象者とした。調査方法は診療録からの後方視的調査とし,基本属性に関する調査項目として,年齢,性別,罹病期間,発症部位,球麻痺症状の有無,非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)の有無,機能障害の程度としてALSFRS-Rの得点を調査した。なお,ALSFRS-Rはベースライン時点と6ヶ月後の時点の得点を抽出した。さらに,各種運動療法(ストレッチ,筋力トレーニング,自転車エルゴメーター,起立・立位トレーニング,歩行トレーニング,ADLトレーニング)の実施状況の詳細,追跡期間中の理学療法実施回数を調査した。統計解析として,ALSFRS-Rの追跡6ヶ月後の得点からベースラインの得点を減じた得点変化量を算出し,次にALSFRS-Rの得点変化量を従属変数とし,各運動療法それぞれの実施の有無を独立変数,基本属性を調整変数とする重回帰分析を行い,実施された各運動療法とALSFRS-Rの得点変化量との関連を検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究に参加した全ての医療機関にて,本研究の内容および方法について,研究倫理委員会の承認を得た。
【結果】
本研究では採用基準を満たした44例を対象に解析を行った。症例の基本属性として,平均年齢60.5±12.4歳,男性52%,平均罹病期間3.2±2.2年,発症部位は球麻痺27.2%および四肢発症20.4%,90.9%は球麻痺症状があり,29.5%はNPPVによる呼吸管理を受けていた。また,追跡期間中の理学療法実施回数は平均44.2±30.1回であった。ベースラインのALSFRS-Rの得点は平均22.0±5.3点で,平均6.4±0.8ヶ月間の追跡期間中に平均5.9±5.0点の得点低下を認めた。実施された運動療法としては,ストレッチ97.7%,筋力トレーニング65.9%,自転車エルゴメーター22.7%,起立・立位トレーニング47.7%,歩行トレーニング50.0%,ADLトレーニング88.8%であり,何の運動療法も実施されていなかったのは1例(2.3%)のみであった。重回帰分析の結果,ALSFRS-Rの得点変化量と関連する運動療法の内容は,自転車エルゴメーターのみ有意な正の関連を示し(決定係数=0.23,p<0.05),自転車エルゴメーターの実施によりALSFRS-R得点変化が4.4点小さくなることが示された。
【考察】
本研究では,機能障害が中等度以上のALS患者に対し,有効な運動療法の内容を検討した。結果,自転車エルゴメーターの実施によりALSFRS-Rの得点変化量が約4点程度小さくなっていたことから,自転車エルゴメーターは機能障害の緩和に対して有効な運動療法である可能性が示唆された。ALSに対する有酸素運動については軽症例で報告されており(Pinto,et al. 1999),有酸素運動の神経保護作用が示唆されている(MaCrate,et al. 2008)。本研究の結果から,機能障害が中等度以上のALSに対しても,自転車エルゴメーターによる有酸素運動が有効に作用する可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
機能障害が中等度以上のALS患者に対する有効な運動療法を探索的に示した。本研究の結果は,機能障害が中等度以上のALS患者の運動療法に関して,臨床上有益な情報を提供しうると考える。