[1410] 縁上回への反復4連発磁気刺激が皮質脊髄路の興奮性に及ぼす影響
キーワード:縁上回, 反復4連発磁気刺激, 運動誘発電位
【はじめに,目的】
反復4連発磁気刺激(QPS)は,ある刺激間隔(ISI)を用いた4連発単相性経頭蓋磁気刺激を5秒間隔で反復するものである。一次運動野(M1)に対して5msecのISIでQPSを実施すると,運動誘発電位(MEP)振幅が部位特異的に増大し,従来の反復経頭蓋磁気刺激よりも長時間の促通効果を誘導することができる(Hamada et al., J Physiol, 2008)。これに対して,50msecのISIではMEP振幅が長期的に抑制される。この現象は,QPSによって刺激部位のシナプス可塑性が両方向性に誘導されたことに起因するものである。我々は運動知覚に関する研究の一貫で,M1や体性感覚野(S1)などにQPSを行い,それらの興奮性変化と知覚との関係を検証している。昨年度の本学術大会では,M1へのQPSによってS1から記録した体性感覚誘発電位の振幅に変化が生じることを報告した。本研究では,縁上回に対するQPSが皮質脊髄路の興奮性に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は健康な成人7名(男性6名,女性1名)とし,測定肢位は安静座位とした。QPSは,左縁上回に対して30分間実施した。刺激部位は,事前に撮像したMRI画像をもとに決定した。刺激条件として,5msec(QPS-5),50msec(QPS-50)のISIでそれぞれQPSを行う条件,コントロールとして偽の刺激(Sham)を行う条件の合計3条件を設けた。QPSの刺激強度は,右第一背側骨間筋(FDI)の運動時閾値の90%とした。皮質脊髄路興奮性は,単発経頭蓋磁気刺激(TMS)により右FDIから記録されたMEP振幅を指標とした。TMSは,FDIから約1mVのMEP振幅が得られる強度とした。MEPの測定は,QPS前に2回(Pre1,Pre2),QPS直後,30分後,60分後(Post0,Post30,Post60)に実施した。得られたMEPから,Pre1を基準とした各測定時期の振幅比を算出した。統計学的解析として,刺激条件ごとに測定時期(Pre2,Post0,Post30,Post60)および刺激条件(QPS-5,QPS-50,Sham)を要因とした反復測定二元配置分散分析を実施し,さらに多重比較を行なった。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は本学の倫理委員会の承認を得た上で,ヘルシンキ宣言に沿って実施した。また,事前に研究内容等の説明を十分に行った上で,同意が得られた被験者を対象として実験を行なった。
【結果】
QPS-5とQPS-50ともに,刺激後にMEP振幅が減少した(QPS-5:Pre2=0.96±0.05,Post0=0.71±0.31,Post30=0.71±0.16,Post60=0.86±0.14,QPS-50:Pre2=0.99±0.09,Post0=0.55±0.25,Post30=0.52±0.33,Post60=0.71±0.31)。二元配置分散分析により,交互作用が有意であり,二つの要因について主効果があった。多重比較の結果から,QPS-5ではPost0からPost30まで,QPS-50ではPost0からPost60までの間でMEP振幅の低下が有意であった。Shamでは,刺激前後でMEP振幅が変化しなかった(Pre2=0.94±0.09,Post0=0.90±0.12,Post30=0.92±0.10,Post60=0.98±0.15)。
【考察】
QPSなどの連発TMSで標的とされた部位におけるニューロン群の興奮性がどのように変化するかは,これまでにM1とS1で確認されている。複数の報告で,M1に対する連発TMSはS1からの体性感覚誘発電位振幅(SEP振幅)に影響するが,S1に対する刺激では,SEP振幅が変化しないことが示された。このことから,今回のQPSで縁上回において局所的に何らかの変化があったかどうかは明らかでなく,この点は本研究の限界である。しかし今回の結果から,縁上回に対してQPSを実施した場合には,そのISIに関わらず皮質脊髄路の興奮性が持続的に低下することが明らかとなった。解剖学的に,縁上回を含む下頭頂小葉から運動関連領野へは神経線維連絡が存在している。そのため,今回実施した下頭頂小葉へのQPSでは,それらの神経線維連絡を介してM1の興奮性を低下させるような入力が生じたものと推察する。縁上回へのTMSが皮質脊髄路興奮性に影響するという結果はこれまでに示されておらず,新規的知見である。このような影響を踏まえた上で,今後,知覚との関連について探索していく。
【理学療法学研究としての意義】
縁上回の興奮性変化が他の脳領域へ及ぼす影響はこれまでに示されていない。運動や感覚に関与する脳神経回路網の中で,どの領域がその中核的役割を担っているのか,本研究のような積み重ねによりその機構が明らかになっていくと期待される。その機構を解明することが,理学療法で標的とする脳部位を探索することにつながり,本研究は意義深い。
反復4連発磁気刺激(QPS)は,ある刺激間隔(ISI)を用いた4連発単相性経頭蓋磁気刺激を5秒間隔で反復するものである。一次運動野(M1)に対して5msecのISIでQPSを実施すると,運動誘発電位(MEP)振幅が部位特異的に増大し,従来の反復経頭蓋磁気刺激よりも長時間の促通効果を誘導することができる(Hamada et al., J Physiol, 2008)。これに対して,50msecのISIではMEP振幅が長期的に抑制される。この現象は,QPSによって刺激部位のシナプス可塑性が両方向性に誘導されたことに起因するものである。我々は運動知覚に関する研究の一貫で,M1や体性感覚野(S1)などにQPSを行い,それらの興奮性変化と知覚との関係を検証している。昨年度の本学術大会では,M1へのQPSによってS1から記録した体性感覚誘発電位の振幅に変化が生じることを報告した。本研究では,縁上回に対するQPSが皮質脊髄路の興奮性に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は健康な成人7名(男性6名,女性1名)とし,測定肢位は安静座位とした。QPSは,左縁上回に対して30分間実施した。刺激部位は,事前に撮像したMRI画像をもとに決定した。刺激条件として,5msec(QPS-5),50msec(QPS-50)のISIでそれぞれQPSを行う条件,コントロールとして偽の刺激(Sham)を行う条件の合計3条件を設けた。QPSの刺激強度は,右第一背側骨間筋(FDI)の運動時閾値の90%とした。皮質脊髄路興奮性は,単発経頭蓋磁気刺激(TMS)により右FDIから記録されたMEP振幅を指標とした。TMSは,FDIから約1mVのMEP振幅が得られる強度とした。MEPの測定は,QPS前に2回(Pre1,Pre2),QPS直後,30分後,60分後(Post0,Post30,Post60)に実施した。得られたMEPから,Pre1を基準とした各測定時期の振幅比を算出した。統計学的解析として,刺激条件ごとに測定時期(Pre2,Post0,Post30,Post60)および刺激条件(QPS-5,QPS-50,Sham)を要因とした反復測定二元配置分散分析を実施し,さらに多重比較を行なった。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は本学の倫理委員会の承認を得た上で,ヘルシンキ宣言に沿って実施した。また,事前に研究内容等の説明を十分に行った上で,同意が得られた被験者を対象として実験を行なった。
【結果】
QPS-5とQPS-50ともに,刺激後にMEP振幅が減少した(QPS-5:Pre2=0.96±0.05,Post0=0.71±0.31,Post30=0.71±0.16,Post60=0.86±0.14,QPS-50:Pre2=0.99±0.09,Post0=0.55±0.25,Post30=0.52±0.33,Post60=0.71±0.31)。二元配置分散分析により,交互作用が有意であり,二つの要因について主効果があった。多重比較の結果から,QPS-5ではPost0からPost30まで,QPS-50ではPost0からPost60までの間でMEP振幅の低下が有意であった。Shamでは,刺激前後でMEP振幅が変化しなかった(Pre2=0.94±0.09,Post0=0.90±0.12,Post30=0.92±0.10,Post60=0.98±0.15)。
【考察】
QPSなどの連発TMSで標的とされた部位におけるニューロン群の興奮性がどのように変化するかは,これまでにM1とS1で確認されている。複数の報告で,M1に対する連発TMSはS1からの体性感覚誘発電位振幅(SEP振幅)に影響するが,S1に対する刺激では,SEP振幅が変化しないことが示された。このことから,今回のQPSで縁上回において局所的に何らかの変化があったかどうかは明らかでなく,この点は本研究の限界である。しかし今回の結果から,縁上回に対してQPSを実施した場合には,そのISIに関わらず皮質脊髄路の興奮性が持続的に低下することが明らかとなった。解剖学的に,縁上回を含む下頭頂小葉から運動関連領野へは神経線維連絡が存在している。そのため,今回実施した下頭頂小葉へのQPSでは,それらの神経線維連絡を介してM1の興奮性を低下させるような入力が生じたものと推察する。縁上回へのTMSが皮質脊髄路興奮性に影響するという結果はこれまでに示されておらず,新規的知見である。このような影響を踏まえた上で,今後,知覚との関連について探索していく。
【理学療法学研究としての意義】
縁上回の興奮性変化が他の脳領域へ及ぼす影響はこれまでに示されていない。運動や感覚に関与する脳神経回路網の中で,どの領域がその中核的役割を担っているのか,本研究のような積み重ねによりその機構が明らかになっていくと期待される。その機構を解明することが,理学療法で標的とする脳部位を探索することにつながり,本研究は意義深い。