第49回日本理学療法学術大会

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生体評価学4

2014年6月1日(日) 10:25 〜 11:15 ポスター会場 (基礎)

座長:富田浩(人間総合科学大学リハビリテーション学科)

基礎 ポスター

[1440] 軟部組織硬度計を用いた生体軟部組織模擬モデル硬度測定時の信頼性の検討

髙梨晃1, 橋口広太朗1, 向伸也1, 國本拓馬1, 小沼亮2, 加藤宗規3 (1.榎本整形外科医院リハビリテーション科, 2.八千代リハビリテーション学院理学療法学科, 3.了德寺大学健康科学部理学療法学科)

キーワード:軟部組織硬度, 軟部組織硬度計, 信頼性

【はじめに,目的】
物体には粘性と弾性とが存在する。粘性とは,物理学的に流体の液体要素間に摩擦力が働く性質であり,弾性は外力により変形した物体がその外力が除かれた時,元に戻ろうとする性質をいう。これらの性質が絡み合い,物の硬さが形成されている。
人体における硬さの一つの指標である軟部組織硬度(soft tissue stiffness;STS)は,四肢,体幹の骨,関節,胸腹部内臓を除く皮膚,皮下組織,筋肉,腱,靭帯,神経,血管を含む全ての組織の硬さのことである。そのSTSを測定する方法とし,近年様々な軟部組織硬度計(soft tissue stiffness meter;STSM)が開発され測定が試みられている。
我々は,一定の荷重を体表から加えた際に生じる反力を採用する測定や,荷重を規定した際の組織の変位を計測し,その変位を採用する測定方法の信頼性の検討及び基礎研究について報告した。その測定方法は,主に弾性計測であり,問題点として荷重速度を一定に保つことが困難で,組織の純粋な弾性応答を反映しているとは言い難い。そこで,本研究は,荷重をコントロールした状態で,測定子の貫入速度を一定にすることが可能なSTSMを使用し,生体模擬モデル測定時の信頼性を検討をすることを目的とした。また,生体応用に際し,適切な貫入速度が組織により異なると考えられ,貫入速度を変化させた際の測定の信頼性についても検討を行った。
【方法】
対象は,十分に測定の練習を行った理学療法士4名とした。方法は,4種類の硬度の異なる生体模擬モデル(EPDMスポンジ:アスカ-硬度C8,クロロプレンゴムスポンジ:アスカ-硬度C25,低弾性ゴムシート:ショアA32,シリコンゴム:ショア硬度A50)に対し,軟部組織硬度計(テック技販製,EED-5010-D)を使用し,押付力をコンピューター上で確認し25Nを維持した。押付力を維持した状態で,測定子の貫入速度2mm/sec,5mm/sec,8mm/secとし,全ての速度において測定子に5Nの荷重がかかるまでを計測した。測定回数は,各々の生体模擬モデルに対し,3回ずつ測定し,測定した結果より弾性の指標として弾性係数(N/mm),粘弾性の指標として吸収エネルギー(Nmm)及びヒステリシス(%)を算出した。
統計学的検討としては,算出された結果より検査者内信頼性及び検査者間信頼性について,級内相関係数((Intraclass correlation coefficients;ICC)を用いて検討した。検査者間信頼性は,3回の測定値の平均値を代表値として検討を行った。なお,統計処理には統計ソフトSPSS(Ver15)を用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象には,実験内容を書面及び口頭にて十分に説明し,書面にて同意を得て行った。
【結果】
結果より,測定子の各貫入速度においての検査者内信頼性については,検査者4名の弾性係数,吸収エネルギー及びヒステリシスの測定において,ICC(1,1)=0.961以上の信頼性を認めた(p<0.01)。また検査者間信頼性についても,弾性係数,吸収エネルギー及びヒステリシスすべての測定項目,すべての貫入速度において,ICC(2,1)=0.985以上の信頼性を認めた(p<0.01)。
【考察】
結果より,測定子の貫入速度を変化させた状況において,弾性係数,吸収エネルギー,ヒステリシスの測定結果における検査者内信頼性及び検査者間信頼性はICCで0.9以上の高い信頼性示した。このことより,測定にあたり,押付力を一定にすること,測定部位に対し機器を垂直に接触させることを十分に練習し実施することで,信頼性の高い測定が可能であることが示唆され,生体測定に十分応用可能であることが示唆された。しかし,今回の測定に用いた生体模擬モデルは,生体測定時とは異なる測定環境であり,生体応用する場合には,押付方向による誤差は十分に考えられるため,異なった押付方向による生体測定時の信頼性を確認する必要があると考えられた。
本研究で使用した機器は,従来のSTSMで測定した弾性に主眼をおいた測定に加え,粘弾性の要素についても測定が可能であり,よりSTSの生体反応及び治療介入効果を検出することが可能であると考えられる。そこで,本研究において貫入速度を変化させ高い信頼性を示したことは,骨格筋における粘弾性の違いや,変化を検出する生体測定において非常に意味のある結果であると考えられる。
今後は,生体におけるSTS測定の信頼性の検討,STS測定にあたり,骨格筋ごとの最適な貫入速度について検討していく。さらに,理学療法の効果判定として有用であるか検討していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,生体測定に必要な基礎的研究である。今回の結果は,現在まで主観的に捉えていた触診などSTS評価を客観的に検出することが可能な測定であり,物理療法及び運動療法の治療効果判定に有用な評価方法であると考えられ,新たな評価法の確立するための一助となると考えられる。