[1487] 電気刺激を用いた筋収縮運動の収縮様式の違いがラットヒラメ筋の線維化ならびに拘縮におよぼす影響
Keywords:筋収縮運動, 収縮様式, 線維化
【はじめに,目的】
不動によって起こる拘縮の主な病態の一つに骨格筋の線維化があり,所属研究室ではその発生メカニズムに低酸素状態の惹起が関与することを明らかにしている。そして,演者らはこのメカニズムに基づく治療戦略として筋収縮運動による筋内の血流増加作用に着目し,足関節不動モデルラットを用いてその検証を試みてきた。具体的には,不動の過程で1Hzの刺激周波数による電気刺激によってヒラメ筋に周期的な単収縮を負荷すると,低酸素状態が緩和されるとともに,線維化促進に働くサイトカインのTGF-β1の発現も抑制され,結果,線維化ならびに拘縮の進行が抑制されることが明らかになっている。一方,電気刺激を用いた筋収縮運動はその刺激周波数を変化させるだけで,単収縮と強縮といった異なる収縮様式を誘発できる利点があり,特に後者の収縮様式は筋力増強効果があることから広く臨床でも用いられている。しかし,収縮様式の違いが骨格筋の線維化にどのような影響をおよぼすのかは明らかではなく,本研究ではこの点の検証を行い,拘縮の治療戦略に有用な収縮様式を明らかにすることを目的とした。
【方法】
実験動物には8週齢のWistar系雄性ラット35匹を用い,1)無処置の対照群(n=10),2)ギプスを用いて両側足関節を最大底屈位で4週間不動化する不動群(n=8),3)不動の過程で10Hzの刺激周波数による電気刺激によってヒラメ筋に単収縮を負荷する単収縮群(n=8),4)同様に50Hzの刺激周波数によってヒラメ筋に強縮を負荷する強縮群(n=9)に振り分けた。なお,単収縮群と強縮群においてはリード線付きの表面電極を貼付した状態でギプスを巻き,足関節の不動化を行った。そして,電気刺激を行う際はこのリード線にtrio-300(伊藤超短波(株)製)を接続し,刺激強度4 mA,パルス幅250μsの条件で,30分/日(6回/週),延べ4週間,それぞれの収縮様式で筋収縮運動を負荷した。実験期間終了後は麻酔下で各ラットの足関節背屈可動域(ROM)を測定し,その後,両側ヒラメ筋を採取した。そして,右側試料はその凍結横断切片に対してH&E染色を施し,病理組織学的検索に供するとともに筋線維直径を計測した。一方,左側試料についてはreal time PCR法を用い,以下にあげる線維化関連分子のmRNA発現量を定量化した。すなわち,低酸素特異的転写因子であるHIF-1α,TGF-β1,筋線維芽細胞のマーカーであるα-SMAならびにタイプI・IIIコラーゲンである。
【倫理的配慮,説明と同意】
本実験は所属大学の動物実験委員会で承認を受け,同委員会が定める動物実験指針に基づき実施した。
【結果】
ROMは不動群,単収縮群,強縮群とも対照群より有意に低値であったが,この3群間にはそれぞれ有意差を認め,単収縮群,強縮群,不動群の順に高値を示した。病理組織学的検索では各群とも筋線維壊死などの炎症所見は認められず,平均筋線維直径を比較すると不動群,単収縮群,強縮群とも対照群より有意に低値であったが,この3群間では強縮群が有意に高値を示した。次に,HIF-1α,TGF-β1,α-SMA,タイプIコラーゲンそれぞれのmRNA発現量は不動群,強縮群ともに対照群に比べて有意に高値であったが,単収縮群と対照群の間には有意差を認めなかった。一方,タイプIIIコラーゲンのmRNA発現量は対照群,単収縮群,強縮群の間に有意差を認めず,不動群はこれら3群より有意に高値を示した。
【考察】
単収縮群の結果から,不動の過程で骨格筋に単収縮を負荷すると低酸素状態が緩和されるとともに,TGF-β1の発現抑制や線維芽細胞から筋線維芽細胞への分化ならびにコラーゲン産生が軽減することが示唆され,これは,骨格筋の線維化の進行抑制を意味している。そして,単収縮群のROMが不動群や強縮群のそれよりも有意に高値であった結果は,この線維化の進行抑制効果が影響していると推察される。一方,強縮群の結果から,不動の過程で骨格筋に強縮を負荷しても線維化の進行を抑制する効果は認められないといえる。通常,筋収縮運動の際の筋内の血流増加は弛緩期に生じるとされ,このことを考慮すると強縮よりも単収縮の方が血流増加の影響は大きいと推測される。つまり,このことが今回の結果にも影響していると思われ,拘縮の治療戦略に電気刺激を用いる際は,単収縮を誘発する刺激周波数が有用であると推察される。
【理学療法学研究としての意義】
一般に,電気刺激を用いた筋収縮運動の負荷は筋力増強効果をねらって強縮を誘発するが,今回の結果から,その治療対象が拘縮である場合は効果的とはいえず,単収縮の誘発が推奨されることが明らかとなった。つまり,この成果は治療対象によって電気刺激の至適条件が異なる可能性を示唆しており,これを明らかにしていく基礎研究は意義のあるものと考える。
不動によって起こる拘縮の主な病態の一つに骨格筋の線維化があり,所属研究室ではその発生メカニズムに低酸素状態の惹起が関与することを明らかにしている。そして,演者らはこのメカニズムに基づく治療戦略として筋収縮運動による筋内の血流増加作用に着目し,足関節不動モデルラットを用いてその検証を試みてきた。具体的には,不動の過程で1Hzの刺激周波数による電気刺激によってヒラメ筋に周期的な単収縮を負荷すると,低酸素状態が緩和されるとともに,線維化促進に働くサイトカインのTGF-β1の発現も抑制され,結果,線維化ならびに拘縮の進行が抑制されることが明らかになっている。一方,電気刺激を用いた筋収縮運動はその刺激周波数を変化させるだけで,単収縮と強縮といった異なる収縮様式を誘発できる利点があり,特に後者の収縮様式は筋力増強効果があることから広く臨床でも用いられている。しかし,収縮様式の違いが骨格筋の線維化にどのような影響をおよぼすのかは明らかではなく,本研究ではこの点の検証を行い,拘縮の治療戦略に有用な収縮様式を明らかにすることを目的とした。
【方法】
実験動物には8週齢のWistar系雄性ラット35匹を用い,1)無処置の対照群(n=10),2)ギプスを用いて両側足関節を最大底屈位で4週間不動化する不動群(n=8),3)不動の過程で10Hzの刺激周波数による電気刺激によってヒラメ筋に単収縮を負荷する単収縮群(n=8),4)同様に50Hzの刺激周波数によってヒラメ筋に強縮を負荷する強縮群(n=9)に振り分けた。なお,単収縮群と強縮群においてはリード線付きの表面電極を貼付した状態でギプスを巻き,足関節の不動化を行った。そして,電気刺激を行う際はこのリード線にtrio-300(伊藤超短波(株)製)を接続し,刺激強度4 mA,パルス幅250μsの条件で,30分/日(6回/週),延べ4週間,それぞれの収縮様式で筋収縮運動を負荷した。実験期間終了後は麻酔下で各ラットの足関節背屈可動域(ROM)を測定し,その後,両側ヒラメ筋を採取した。そして,右側試料はその凍結横断切片に対してH&E染色を施し,病理組織学的検索に供するとともに筋線維直径を計測した。一方,左側試料についてはreal time PCR法を用い,以下にあげる線維化関連分子のmRNA発現量を定量化した。すなわち,低酸素特異的転写因子であるHIF-1α,TGF-β1,筋線維芽細胞のマーカーであるα-SMAならびにタイプI・IIIコラーゲンである。
【倫理的配慮,説明と同意】
本実験は所属大学の動物実験委員会で承認を受け,同委員会が定める動物実験指針に基づき実施した。
【結果】
ROMは不動群,単収縮群,強縮群とも対照群より有意に低値であったが,この3群間にはそれぞれ有意差を認め,単収縮群,強縮群,不動群の順に高値を示した。病理組織学的検索では各群とも筋線維壊死などの炎症所見は認められず,平均筋線維直径を比較すると不動群,単収縮群,強縮群とも対照群より有意に低値であったが,この3群間では強縮群が有意に高値を示した。次に,HIF-1α,TGF-β1,α-SMA,タイプIコラーゲンそれぞれのmRNA発現量は不動群,強縮群ともに対照群に比べて有意に高値であったが,単収縮群と対照群の間には有意差を認めなかった。一方,タイプIIIコラーゲンのmRNA発現量は対照群,単収縮群,強縮群の間に有意差を認めず,不動群はこれら3群より有意に高値を示した。
【考察】
単収縮群の結果から,不動の過程で骨格筋に単収縮を負荷すると低酸素状態が緩和されるとともに,TGF-β1の発現抑制や線維芽細胞から筋線維芽細胞への分化ならびにコラーゲン産生が軽減することが示唆され,これは,骨格筋の線維化の進行抑制を意味している。そして,単収縮群のROMが不動群や強縮群のそれよりも有意に高値であった結果は,この線維化の進行抑制効果が影響していると推察される。一方,強縮群の結果から,不動の過程で骨格筋に強縮を負荷しても線維化の進行を抑制する効果は認められないといえる。通常,筋収縮運動の際の筋内の血流増加は弛緩期に生じるとされ,このことを考慮すると強縮よりも単収縮の方が血流増加の影響は大きいと推測される。つまり,このことが今回の結果にも影響していると思われ,拘縮の治療戦略に電気刺激を用いる際は,単収縮を誘発する刺激周波数が有用であると推察される。
【理学療法学研究としての意義】
一般に,電気刺激を用いた筋収縮運動の負荷は筋力増強効果をねらって強縮を誘発するが,今回の結果から,その治療対象が拘縮である場合は効果的とはいえず,単収縮の誘発が推奨されることが明らかとなった。つまり,この成果は治療対象によって電気刺激の至適条件が異なる可能性を示唆しており,これを明らかにしていく基礎研究は意義のあるものと考える。