第49回日本理学療法学術大会

講演情報

発表演題 ポスター » 神経理学療法 ポスター

脳損傷理学療法20

2014年6月1日(日) 11:20 〜 12:10 ポスター会場 (神経)

座長:高芝潤(社会医療法人近森会近森病院)

神経 ポスター

[1550] 歩行神経筋電気刺激装置ウォークエイド®を用いた介入により即時的な歩行能力改善を認めた一症例

堀恵輔, 飯尾晋太郎, 辻昌伸, 鵜野令子, 花井聡, 佐野知康, 三城美孔, 疋田勇樹, 森下一幸 (浜松市リハビリテーション病院リハビリテーション部)

キーワード:歩行神経電気刺激装置ウォークエイド®, 脳卒中回復期, 歩行

【はじめに,目的】
機能的電気刺激を用いた治療は,脳卒中治療ガイドライン2009で推奨グレードB,理学療法診療ガイドライン(第1版)でも推奨グレードBであり,片麻痺患者の歩行障害に対する治療法として効果が示されている。歩行神経筋電気刺激装置ウォークエイド®;帝人ファーマ社(以下ウォークエイド)は,装着者の歩行パターンに合わせた電気刺激が可能な装置であり,腓骨神経への電気刺激によって歩行中足関節背屈を補助し,下垂足・尖足患者の歩行改善効果が期待されている。米国ではウォークエイドによる公的保険償還が一部認められており,前脛骨筋の筋厚・筋力増加や下腿三頭筋の痙縮抑制・軽減,皮質脊髄路の活性化,歩行能力改善等の効果が報告されている。しかし,多くは症状が固定された慢性期患者の報告であり,急性期・回復期からの運用報告は少ない。今回,回復期病棟へ入院された患者の裸足歩行獲得の希望に応え,右遊脚期の右足関節内反尖足改善・筋緊張コントロール目的にウォークエイドを用いた継続的歩行練習を実施し,即時的に歩行速度及び歩容改善を認めた為,考察と今後の課題を加えて報告する。
【方法】
対象は40代女性,左被殻出血による右片麻痺・失語症を呈し,発症より5ヶ月経過。Br.Stage右上肢III手指II下肢III,Foot-Pat Test0,modified Ashworth Scale(以下MAS)右下腿三頭筋・後脛骨筋3,足関節背屈可動域(右/左)膝屈曲位20°/25°膝伸展位0°/5°,感覚障害・足クローヌスは認めなかった。FIMは119/126点(運動項目86点),歩行はT字杖とSHBにて屋外自立,10m歩行は(SHB)21.79秒・27歩(裸足)189.4秒・76歩であった。裸足では,右遊脚期に分回し及び足関節内反尖足・足趾crow-toeを著明に認め,Heel contactは消失。足関節内反・小趾側優位な接地となり,足部の接地位置を意識的に調整する為,右遊脚期の延長を認めた。ウォークエイドを用いた歩行練習は,通常理学療法(40~60分/日)に加え15分間実施した。ウォークエイドを麻痺側下腿に装着後,対象者の歩行パターンに合わせてToe OffからHeel Contactにかけてセラピストが装置を操作し電気刺激を加えた。介入前電気刺激に伴う不快感が無い事を確認し,練習中疼痛・疲労等の訴えやパフォーマンス低下を認めた場合は最大5分間の休憩を設けた。以上のウォークエイド装着下の歩行練習を4日間連続で実施した。評価項目は,Br.Stage,Foot-Pat Test,MAS,10m裸足歩行,足関節背屈可動域,動画撮影にて歩容の変化をそれぞれ評価した。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき,対象者に本研究の趣旨を説明し,書面にて同意を得て実施した。
【結果】
4日間の治療介入前後でBr.Stage,Foot-Pat Testは変化無く,MASは数値的な変化が無い範囲で筋緊張軽減を認めた。足関節背屈可動域は,初回介入後(右/左)膝屈曲位25°/30°膝伸展位5°/10°と改善した。10m裸足歩行は初回介入後98.11秒・57歩となり,右遊脚期足関節内反尖足・足趾crow-toe軽減を認めた。2回目・3回目・4回目の介入前後は,それぞれ109.27秒・66歩から94.48秒・60歩,127.07秒・71歩から99.3秒・63歩,124.58秒・69歩から104.78秒・62歩であった。歩行率(歩/秒)も4回の介入前後全てで増加した。
【考察】
今回の報告は介入期間が4日間のみと短期間であったが,ウォークエイド装着下での歩行練習直後,足関節背屈可動域や裸足歩行の速度・歩容改善を認めた。これは,腓骨神経を電気刺激し前脛骨筋や長・短腓骨筋を収縮させた事で,拮抗筋の下腿三頭筋・後脛骨筋の相反抑制効果が得られ,右遊脚期足関節内反尖足軽減から右立脚期小趾側優位な接地改善に繋がった事によるものと考えられた。翌日介入前の各10m裸足歩行も初回介入前より時間短縮を認め,carry overと右遊脚期の効率的な姿勢戦略学習に繋がる可能性も示唆された。しかし介入後2日間外泊した後再び評価すると,右遊脚期足関節内反尖足増強により初回介入前の歩容に戻り,10m裸足歩行の所要時間も遅延した。その事から相反抑制の長期持続と運動学習による歩容改善の継続的な獲得の困難さも示唆された。Stein RB(2006)等は,下垂足を認める慢性期の中枢神経疾患患者にウォークエイドを長期間使用し,『使用頻度(step/day)と歩行速度改善には容量-反応関係がある』と報告している。その為,今後ウォークエイド装着下の歩行練習を急性期・回復期よりどの程度の時間・頻度・期間で実施すれば,即時的に認めた効果が長期間持続及び獲得出来るかを検証していく事が重要と考える。
【理学療法学研究としての意義】
歩行神経筋電気刺激装置ウォークエイドを回復期の脳卒中片麻痺患者に用いる事で即時的な効果を認め,長期的に機能・歩行能力改善に繋がる可能性を示唆出来た事に意義がある。