[1554] 異なる歩行速度において非対称歩行が酸素費用に及ぼす影響
キーワード:歩行分析, 呼気ガス分析, 歩行効率
【はじめに,目的】
非対称歩行は,身体機能やバランス能力の低下を反映する歩行特性の一つであり,歩行効率を低下させる一因になると考えられる。非対称歩行が歩行効率に及ぼす影響を明らかにすることは,非対称を有する患者の歩行を理解する上で重要である。健常成人の快適速度(75m/min)の歩行では,非対称の増加に伴い体重あたりの酸素消費量が増加することが報告されている(Richard et al.,2013)。一方,非対称を有する患者では,一般に歩行速度が低下していることが考えられる。しかし,非対称歩行においては歩行速度の違いが歩行効率に与える影響については十分に検討されていない。本研究の目的は,異なる歩行速度における歩行の非対称性が酸素費用に及ぼす影響を検討することである。
【方法】
対象は,健常成人12名(男性7名,女性5名),年齢は24±2歳(平均値±標準偏差),身長は1.66±0.06m,体重は54.8±7.2kgであった。除外基準は,呼吸循環器系疾患,代謝疾患,神経疾患,整形外科的疾患などの既往がある者とした。
課題は,トレッドミル上での歩行とし,5分間の安静立位後,歩行速度を5分ごとに20m/min,40m/min,60m/minと連続して増加させ歩行した。歩行条件は対称歩行と非対称歩行の2条件とした。非対称歩行は,右側ステップ動作に続いて左足部を右足部に揃える歩行とした。対称歩行と非対称歩行の順は対象者ごとにランダムとした。歩行効率は歩行率の影響も受けることを考慮し,事前に各歩行速度における非対称歩行の歩行率を測定した。対称歩行の測定ではこの歩行率を再現したメトロノーム音に合わせて歩行した。歩行率(steps/min)は,20,40,60m/minの順で,81.8±10.8,112.4±8.5,133.4±12.9であった。運動中止基準は,歩行中の心拍数が予測最大心拍数(220-年齢)の85%以上,呼吸商1.0以上とした。また各歩行条件の測定の間は,酸素消費量が安静状態に回復するまで座位で休憩した。
歩行効率の指標には,酸素費用を用いた。計測には,呼気ガス分析計(ANIMA社)を用いた。まず酸素消費量を算出するため,安静立位から歩行終了までbreath-by-breath法で測定し,安静立位および各歩行速度において終了前2分間の平均値を算出した。さらに安静立位との差を体重と歩行速度で除して酸素費用(ml・kg-1・m-1)を算出した。酸素費用が高いほど歩行効率が低いことを示す。
統計解析において,酸素費用については各歩行条件における歩行速度による違い,各歩行速度における歩行条件による違いを明らかにするため,多重比較検定としてBonferroni補正による対応のあるt検定を用いた。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に従い対象者全員に研究内容を十分に説明した後,同意を得て実施した。
【結果】
対称歩行における酸素費用(ml・kg-1・m-1)は20,40,60m/minの順で,0.11±0.04,0.09±0.02,0.08±0.02であった。非対称歩行では,0.14±0.04,0.13±0.04,0.13±0.03であった。各速度における歩行条件間の比較では,いずれの歩行速度においても歩行条件間に有意な差を認めた(p=0.00~0.03)。また,対称歩行における速度間の比較では,20m/minと40m/min(p=0.01),20m/minと60m/min(p=0.02)において有意な差を認めた。一方で,40m/minと60m/minにおいては,有意差を認めなかった(p=0.31)。非対称歩行においては,速度変化による有意差を認めなかった(p=0.70~1.00)。
【考察】
非対称歩行では,対称歩行と比べ,すべての歩行速度において歩行効率が有意に低下していた。本研究では,歩行率を両条件において統制しており,1ストライド長は条件間で同様となる。従って,非対称歩行でみられた歩行効率の低下は,重力を効率よく利用した振り子様の歩容からの逸脱が原因であると考える。また,対称歩行では歩行速度の増加により酸素費用が低下したが,非対称歩行では,速度による有意差を認めなかった。これは,対称歩行では低速から速度が増加するにつれ歩行効率が良くなるが,非対称歩行では速度が増加しても歩行効率が変わらないことを示唆しており,今後はこの原因について明らかにする必要がある。本研究は,対象が健常者であり,身体機能やバランス能力の低下から非対称歩行となっている脳卒中患者などにおいても,本研究と同様の結果が得られるとは限らない。今後の研究では,非対称性を有する患者において,非対称歩行が歩行効率に与える影響を検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
身体機能やバランス能力低下により非対称歩行となっている患者の歩行を理解するための基礎的知見として意義がある。
非対称歩行は,身体機能やバランス能力の低下を反映する歩行特性の一つであり,歩行効率を低下させる一因になると考えられる。非対称歩行が歩行効率に及ぼす影響を明らかにすることは,非対称を有する患者の歩行を理解する上で重要である。健常成人の快適速度(75m/min)の歩行では,非対称の増加に伴い体重あたりの酸素消費量が増加することが報告されている(Richard et al.,2013)。一方,非対称を有する患者では,一般に歩行速度が低下していることが考えられる。しかし,非対称歩行においては歩行速度の違いが歩行効率に与える影響については十分に検討されていない。本研究の目的は,異なる歩行速度における歩行の非対称性が酸素費用に及ぼす影響を検討することである。
【方法】
対象は,健常成人12名(男性7名,女性5名),年齢は24±2歳(平均値±標準偏差),身長は1.66±0.06m,体重は54.8±7.2kgであった。除外基準は,呼吸循環器系疾患,代謝疾患,神経疾患,整形外科的疾患などの既往がある者とした。
課題は,トレッドミル上での歩行とし,5分間の安静立位後,歩行速度を5分ごとに20m/min,40m/min,60m/minと連続して増加させ歩行した。歩行条件は対称歩行と非対称歩行の2条件とした。非対称歩行は,右側ステップ動作に続いて左足部を右足部に揃える歩行とした。対称歩行と非対称歩行の順は対象者ごとにランダムとした。歩行効率は歩行率の影響も受けることを考慮し,事前に各歩行速度における非対称歩行の歩行率を測定した。対称歩行の測定ではこの歩行率を再現したメトロノーム音に合わせて歩行した。歩行率(steps/min)は,20,40,60m/minの順で,81.8±10.8,112.4±8.5,133.4±12.9であった。運動中止基準は,歩行中の心拍数が予測最大心拍数(220-年齢)の85%以上,呼吸商1.0以上とした。また各歩行条件の測定の間は,酸素消費量が安静状態に回復するまで座位で休憩した。
歩行効率の指標には,酸素費用を用いた。計測には,呼気ガス分析計(ANIMA社)を用いた。まず酸素消費量を算出するため,安静立位から歩行終了までbreath-by-breath法で測定し,安静立位および各歩行速度において終了前2分間の平均値を算出した。さらに安静立位との差を体重と歩行速度で除して酸素費用(ml・kg-1・m-1)を算出した。酸素費用が高いほど歩行効率が低いことを示す。
統計解析において,酸素費用については各歩行条件における歩行速度による違い,各歩行速度における歩行条件による違いを明らかにするため,多重比較検定としてBonferroni補正による対応のあるt検定を用いた。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に従い対象者全員に研究内容を十分に説明した後,同意を得て実施した。
【結果】
対称歩行における酸素費用(ml・kg-1・m-1)は20,40,60m/minの順で,0.11±0.04,0.09±0.02,0.08±0.02であった。非対称歩行では,0.14±0.04,0.13±0.04,0.13±0.03であった。各速度における歩行条件間の比較では,いずれの歩行速度においても歩行条件間に有意な差を認めた(p=0.00~0.03)。また,対称歩行における速度間の比較では,20m/minと40m/min(p=0.01),20m/minと60m/min(p=0.02)において有意な差を認めた。一方で,40m/minと60m/minにおいては,有意差を認めなかった(p=0.31)。非対称歩行においては,速度変化による有意差を認めなかった(p=0.70~1.00)。
【考察】
非対称歩行では,対称歩行と比べ,すべての歩行速度において歩行効率が有意に低下していた。本研究では,歩行率を両条件において統制しており,1ストライド長は条件間で同様となる。従って,非対称歩行でみられた歩行効率の低下は,重力を効率よく利用した振り子様の歩容からの逸脱が原因であると考える。また,対称歩行では歩行速度の増加により酸素費用が低下したが,非対称歩行では,速度による有意差を認めなかった。これは,対称歩行では低速から速度が増加するにつれ歩行効率が良くなるが,非対称歩行では速度が増加しても歩行効率が変わらないことを示唆しており,今後はこの原因について明らかにする必要がある。本研究は,対象が健常者であり,身体機能やバランス能力の低下から非対称歩行となっている脳卒中患者などにおいても,本研究と同様の結果が得られるとは限らない。今後の研究では,非対称性を有する患者において,非対称歩行が歩行効率に与える影響を検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
身体機能やバランス能力低下により非対称歩行となっている患者の歩行を理解するための基礎的知見として意義がある。