[1600] 寝たきり高齢者へのポジショニング効果の考察
キーワード:ポジショニング, バイタルサイン, 筋緊張
【はじめに,目的】
当院は,療養型病床を有した96床の病院である。入院患者の平均年齢は84.0歳で入院患者の83.5%が寝たきりであり,姿勢活動ケアの重要性は極めて高い。ポジショニングの目的には①褥瘡予防②摂食・嚥下機能の維持・促進③呼吸・循環機能の維持・促進④筋緊張の緩和と関節拘縮の防止⑤安楽でリラックスした姿勢の提供とある。ポジショニングと褥瘡に関連する先行研究は散在するが,バイタルサインや筋緊張についての検証は少ない。そこで今回,ポジショニングの客観的効果検証のためバイタルサイン,筋緊張の変化について検証した。
【方法】
対象は2013年9月30日~10月30日の期間中,当院に入院していた自力で体位変換(以下,寝返り)が困難な患者で本研究に同意が得られた29名(男性13名,女性16名,年齢85.8±7.5歳,身長149.8±9.1cm,体重39.6±6.2kg)とした。研究方法は,仰臥位でのポジショニング前後でバイタルサインと筋緊張を調べ,変化を比較検討した。ポジショニングの方法は,接触面積の拡大,身体中枢部を中心としたアライメントの修正・保持をクッションやタオル等を使用して行った。評価の指標は,バイタルサインを血圧・脈拍・呼吸数・SpO2,筋緊張は,触診や他動運動による状態変化を考慮し,視診での評価に客観性を持たせるため両股・膝・足関節の関節角度を測定した。血圧・脈拍の計測はテルモ社製自動血圧計,SpO2の計測には村中医療機器製パルスオキシメーター(フィンガーSB100)を使用した。関節角度は関節可動域表示ならびに測定法に基づいて,角度計を用いて測定した。評価間の自発的な運動は特に制限しなかった。
【倫理的配慮,説明と同意】
患者および患者の家族には,当研究の主旨を口頭と書面で説明し同意を得た。また,データは研究者が収集を行い,個人に関する情報が特定されないよう十分に配慮した。
【結果】
ポジショニング前の各項目の平均値(標準偏差)は,収縮期血圧が112.0(14.7)mmHg,拡張期血圧が61.8(11.4)mmHg,脈拍が69.8(10.8)回/分,SpO2が95.5(3.2)%であった。関節角度は右股関節屈曲26.0(22.9)度,左股関節屈曲24.5(20.2)度,左足関節底屈43.4(15.4)度であった。ポジショニング後は収縮期血圧が107.6(15.8)mmHg,拡張期血圧が59.0(11.0)mmHg,脈拍が66.3(10.1)回/分,SpO2が96.7(1.5)%であった。関節角度は,右股関節屈曲33.3(22.8)度,左股関節屈曲30.3(12.9)度,左足関節底屈39.3(15.0)度であった。各項目の検定を行った結果,バイタルサインでは血圧(収縮期・拡張期),脈拍が有意に低下し,SpO2は有意に上昇した。また両股関節の屈曲角度は有意に拡大し,左足関節底屈角度は有意に減少した。呼吸数とその他の関節角度に有意差は認められなかった。統計学的解析には,t検定またはWilcoxon符号順位和検定を用い,危険率は5%未満をもって有意とした。
【考察】
患者の身体状況に合わせたポジショニングを実施した結果,血圧・脈拍は低下し,SpO2は上昇した。これは,ポジショニング前では,身体各部を支えるものがなく不良姿勢となり,捻じれや過剰な圧迫による痛み,不快感といった機械的侵害刺激が加わっていたものが,ポジショニング後ではそれらが除去または緩和され,体性―循環促進反射の安定が得られた為と考える。同時に,胸郭の運動効率が改善された事で換気の改善につながったと思われる。寝たきり高齢者に対するポジショニングが,不良姿勢によっておこされる基礎代謝エネルギー消費改善に有効である事が示唆された。当院に入院している患者の多くは,ポジショニング前の姿勢が股関節屈曲・回旋している者が多かった。そこで股関節を内外旋中間にし,股関節周囲筋を緩めることと,背筋・腹筋の緊張を緩和するために下肢とマットレスの間にクッションを入れるポジショニングを実施した。この事が両股関節の屈曲角度が有意に拡大した原因と考える。また足底サポートをした事により,下腿三頭筋の筋緊張が低下し,左足関節角度も改善した。これらの結果から,ポジショニングが関節の変形拘縮の防止に有効であることが示唆された。今後は,用具と心身・生理機能の関連性の検討を行っていく必要性があると共に,知識に裏付けられた正確な技術の実践が必要だと考える。
【理学療法学研究としての意義】
寝たきり高齢者の寝姿勢を改善することで,呼吸・循環機能や筋緊張に関する影響を実証できた。そして,患者の身体的特徴に精通している職種だからこそポジショニングを通じた姿勢活動ケアが重要である。
当院は,療養型病床を有した96床の病院である。入院患者の平均年齢は84.0歳で入院患者の83.5%が寝たきりであり,姿勢活動ケアの重要性は極めて高い。ポジショニングの目的には①褥瘡予防②摂食・嚥下機能の維持・促進③呼吸・循環機能の維持・促進④筋緊張の緩和と関節拘縮の防止⑤安楽でリラックスした姿勢の提供とある。ポジショニングと褥瘡に関連する先行研究は散在するが,バイタルサインや筋緊張についての検証は少ない。そこで今回,ポジショニングの客観的効果検証のためバイタルサイン,筋緊張の変化について検証した。
【方法】
対象は2013年9月30日~10月30日の期間中,当院に入院していた自力で体位変換(以下,寝返り)が困難な患者で本研究に同意が得られた29名(男性13名,女性16名,年齢85.8±7.5歳,身長149.8±9.1cm,体重39.6±6.2kg)とした。研究方法は,仰臥位でのポジショニング前後でバイタルサインと筋緊張を調べ,変化を比較検討した。ポジショニングの方法は,接触面積の拡大,身体中枢部を中心としたアライメントの修正・保持をクッションやタオル等を使用して行った。評価の指標は,バイタルサインを血圧・脈拍・呼吸数・SpO2,筋緊張は,触診や他動運動による状態変化を考慮し,視診での評価に客観性を持たせるため両股・膝・足関節の関節角度を測定した。血圧・脈拍の計測はテルモ社製自動血圧計,SpO2の計測には村中医療機器製パルスオキシメーター(フィンガーSB100)を使用した。関節角度は関節可動域表示ならびに測定法に基づいて,角度計を用いて測定した。評価間の自発的な運動は特に制限しなかった。
【倫理的配慮,説明と同意】
患者および患者の家族には,当研究の主旨を口頭と書面で説明し同意を得た。また,データは研究者が収集を行い,個人に関する情報が特定されないよう十分に配慮した。
【結果】
ポジショニング前の各項目の平均値(標準偏差)は,収縮期血圧が112.0(14.7)mmHg,拡張期血圧が61.8(11.4)mmHg,脈拍が69.8(10.8)回/分,SpO2が95.5(3.2)%であった。関節角度は右股関節屈曲26.0(22.9)度,左股関節屈曲24.5(20.2)度,左足関節底屈43.4(15.4)度であった。ポジショニング後は収縮期血圧が107.6(15.8)mmHg,拡張期血圧が59.0(11.0)mmHg,脈拍が66.3(10.1)回/分,SpO2が96.7(1.5)%であった。関節角度は,右股関節屈曲33.3(22.8)度,左股関節屈曲30.3(12.9)度,左足関節底屈39.3(15.0)度であった。各項目の検定を行った結果,バイタルサインでは血圧(収縮期・拡張期),脈拍が有意に低下し,SpO2は有意に上昇した。また両股関節の屈曲角度は有意に拡大し,左足関節底屈角度は有意に減少した。呼吸数とその他の関節角度に有意差は認められなかった。統計学的解析には,t検定またはWilcoxon符号順位和検定を用い,危険率は5%未満をもって有意とした。
【考察】
患者の身体状況に合わせたポジショニングを実施した結果,血圧・脈拍は低下し,SpO2は上昇した。これは,ポジショニング前では,身体各部を支えるものがなく不良姿勢となり,捻じれや過剰な圧迫による痛み,不快感といった機械的侵害刺激が加わっていたものが,ポジショニング後ではそれらが除去または緩和され,体性―循環促進反射の安定が得られた為と考える。同時に,胸郭の運動効率が改善された事で換気の改善につながったと思われる。寝たきり高齢者に対するポジショニングが,不良姿勢によっておこされる基礎代謝エネルギー消費改善に有効である事が示唆された。当院に入院している患者の多くは,ポジショニング前の姿勢が股関節屈曲・回旋している者が多かった。そこで股関節を内外旋中間にし,股関節周囲筋を緩めることと,背筋・腹筋の緊張を緩和するために下肢とマットレスの間にクッションを入れるポジショニングを実施した。この事が両股関節の屈曲角度が有意に拡大した原因と考える。また足底サポートをした事により,下腿三頭筋の筋緊張が低下し,左足関節角度も改善した。これらの結果から,ポジショニングが関節の変形拘縮の防止に有効であることが示唆された。今後は,用具と心身・生理機能の関連性の検討を行っていく必要性があると共に,知識に裏付けられた正確な技術の実践が必要だと考える。
【理学療法学研究としての意義】
寝たきり高齢者の寝姿勢を改善することで,呼吸・循環機能や筋緊張に関する影響を実証できた。そして,患者の身体的特徴に精通している職種だからこそポジショニングを通じた姿勢活動ケアが重要である。