[1601] 終末期医療に求められる理学療法士
キーワード:在宅支援, 終末期, ターミナルケア
【はじめに,目的】
厚生労働省は,平成25年度からの5カ年の医療計画に,「新たに在宅医療について達成すべき目標,医療連携体制」等を明記している。この計画の中には人材育成プログラムも含まれており,当然我々理学療法士も,その一員である。このような在宅医療の中に,終末期医療,いわゆるターミナルケアも含まれており,理学療法士が在宅医療の一員であれば直面する場面も少なからず訪れる。そこで今回,当訪問看護ステーションより理学療法士として携わった終末期医療について,まとめたので,若干の考察を加えて報告する。
【方法】
対象者は,平成21年8月より平成25年7月までの間に,当訪問看護ステーションで訪問理学療法の依頼を受けた利用者193名のうち,次の2点のいずれかの条件に該当する終末期医療の中で死亡の直前まで定期的に理学療法を提供することができた34名とした。条件は,1)主治医より「終末期」と指示を受けた者,2)疾病が重度化していく過程の中で,ほかの積極的な治療や延命措置を行わず,在宅医療を継続していた者とし,最低1か月間は理学療法を提供することができた利用者とした。調査項目は,年齢,性別等の一般情報,診断名等の疾患基礎情報,訪問回数,提供した理学療法の内容等とし,カルテから抽出した。さらに,利用者の死亡により訪問看護が終了した後,四十九日頃にお悔やみを兼ねて自宅訪問し,聞き取り調査が可能であった15家族の思いをまとめた。
【倫理的配慮,説明と同意】
本調査は,訪問看護開始時に対象者,家族に文書により実施内容の記録と発表についての同意を,また聞き取り調査時にも再度口頭により趣旨説明を行い,同意を得た。
【結果】
年齢は,平均79.6歳(38.2~98.4歳),男女比は6対4であった。主な疾患は,末期がん28名,呼吸器疾患6名,老衰3名,その他3名であった。訪問期間は,7.8か月(1.2~13.8か月),訪問回数は36.2回(4~178回)であった。提供した理学療法プログラムの内容は,1)福祉用具の選定・環境整備,2)ADLトレーニング及び指導が各34件,3)筋力トレーニング30件,4)関節可動域トレーニング28件,5)家族への介護指導26件,6)歩行トレーニング23件,7)住宅改修へのアドバイス16件,8)痛み,浮腫等に対するマッサージ14件,9)呼吸リハビリテーション13件の順であった。
家族への聞き取り調査では,15件中全件が「自宅で療養させる」ことが出来た事に満足と回答し,理学療法士が関与したことに関しても全件「訪問リハを入れてよかった」との回答が得られた。その理由として,利用者本人が理学療法トレーニングをすることで「最後まで希望を持ってくれていた」,「アドバイスのお蔭で介護しやすい環境が作れた」,「リハビリをすると本人が気持ち良くなり,その後の介護が楽になる」等の利用者の負担軽減の他に,「介護の疲れや,これから来る看取りへの不安を聴いてくれた」,「一緒に運動が出来てリフレッシュできた」など,介護側の負担軽減の意見も聞かれた。
【考察】
当訪問看護ステーションでは,開所当初から質の高いサービスを提供するため看護師だけでなく理学療法士による専門性を活かした看取りケアの提供に取り組んできた。今回,理学療法を提供した全件で,福祉用具の選定や住環境の整備が行われたことは,従来の運動療法以外に在宅理学療法として求められている頻度が高いと考えられる。終末期はペインコントロールを行っている利用者も多いが,そのサポート手技として疼痛軽減を目的とした可動域トレーニングやマッサージ,ポジショニング指導などの理学療法士として基礎的な知識で対応できる場面も多かった。また,末期がんの患者は最終的に呼吸機能が低下するケースが多い為,呼吸理学療法を実施する機会も多く,研鑽を積む必要性を感じた。しかし,頻度の差異はあるが,終末期医療であっても提供した理学療法プログラムは,従来の急性期,回復期で行っている治療と何ら変わりないことが確認された。その中で,我々が留意すべきは,家族への精神的な支援であると考える。
終末期の利用者は「使える時間」が限られている。その時間をどの様に過ごし,最後の時を迎えるのか。日々の介護の中で,常に今後に対し不安を抱え,迷っている家族の気持ちにどう寄り添っていけるのか。理学療法士として,医療人として,一人の人間として,人生の終末に対峙している人々を専門職としても,精神的にも支援できる人間としての幅を身に着けている事が終末期医療に関わる人材には求められると考える。
【理学療法学研究としての意義】
今後,理学療法士が終末期医療の現場に関わる際に必要とされる理学療法士としての専門性を具体的に提示できた。
厚生労働省は,平成25年度からの5カ年の医療計画に,「新たに在宅医療について達成すべき目標,医療連携体制」等を明記している。この計画の中には人材育成プログラムも含まれており,当然我々理学療法士も,その一員である。このような在宅医療の中に,終末期医療,いわゆるターミナルケアも含まれており,理学療法士が在宅医療の一員であれば直面する場面も少なからず訪れる。そこで今回,当訪問看護ステーションより理学療法士として携わった終末期医療について,まとめたので,若干の考察を加えて報告する。
【方法】
対象者は,平成21年8月より平成25年7月までの間に,当訪問看護ステーションで訪問理学療法の依頼を受けた利用者193名のうち,次の2点のいずれかの条件に該当する終末期医療の中で死亡の直前まで定期的に理学療法を提供することができた34名とした。条件は,1)主治医より「終末期」と指示を受けた者,2)疾病が重度化していく過程の中で,ほかの積極的な治療や延命措置を行わず,在宅医療を継続していた者とし,最低1か月間は理学療法を提供することができた利用者とした。調査項目は,年齢,性別等の一般情報,診断名等の疾患基礎情報,訪問回数,提供した理学療法の内容等とし,カルテから抽出した。さらに,利用者の死亡により訪問看護が終了した後,四十九日頃にお悔やみを兼ねて自宅訪問し,聞き取り調査が可能であった15家族の思いをまとめた。
【倫理的配慮,説明と同意】
本調査は,訪問看護開始時に対象者,家族に文書により実施内容の記録と発表についての同意を,また聞き取り調査時にも再度口頭により趣旨説明を行い,同意を得た。
【結果】
年齢は,平均79.6歳(38.2~98.4歳),男女比は6対4であった。主な疾患は,末期がん28名,呼吸器疾患6名,老衰3名,その他3名であった。訪問期間は,7.8か月(1.2~13.8か月),訪問回数は36.2回(4~178回)であった。提供した理学療法プログラムの内容は,1)福祉用具の選定・環境整備,2)ADLトレーニング及び指導が各34件,3)筋力トレーニング30件,4)関節可動域トレーニング28件,5)家族への介護指導26件,6)歩行トレーニング23件,7)住宅改修へのアドバイス16件,8)痛み,浮腫等に対するマッサージ14件,9)呼吸リハビリテーション13件の順であった。
家族への聞き取り調査では,15件中全件が「自宅で療養させる」ことが出来た事に満足と回答し,理学療法士が関与したことに関しても全件「訪問リハを入れてよかった」との回答が得られた。その理由として,利用者本人が理学療法トレーニングをすることで「最後まで希望を持ってくれていた」,「アドバイスのお蔭で介護しやすい環境が作れた」,「リハビリをすると本人が気持ち良くなり,その後の介護が楽になる」等の利用者の負担軽減の他に,「介護の疲れや,これから来る看取りへの不安を聴いてくれた」,「一緒に運動が出来てリフレッシュできた」など,介護側の負担軽減の意見も聞かれた。
【考察】
当訪問看護ステーションでは,開所当初から質の高いサービスを提供するため看護師だけでなく理学療法士による専門性を活かした看取りケアの提供に取り組んできた。今回,理学療法を提供した全件で,福祉用具の選定や住環境の整備が行われたことは,従来の運動療法以外に在宅理学療法として求められている頻度が高いと考えられる。終末期はペインコントロールを行っている利用者も多いが,そのサポート手技として疼痛軽減を目的とした可動域トレーニングやマッサージ,ポジショニング指導などの理学療法士として基礎的な知識で対応できる場面も多かった。また,末期がんの患者は最終的に呼吸機能が低下するケースが多い為,呼吸理学療法を実施する機会も多く,研鑽を積む必要性を感じた。しかし,頻度の差異はあるが,終末期医療であっても提供した理学療法プログラムは,従来の急性期,回復期で行っている治療と何ら変わりないことが確認された。その中で,我々が留意すべきは,家族への精神的な支援であると考える。
終末期の利用者は「使える時間」が限られている。その時間をどの様に過ごし,最後の時を迎えるのか。日々の介護の中で,常に今後に対し不安を抱え,迷っている家族の気持ちにどう寄り添っていけるのか。理学療法士として,医療人として,一人の人間として,人生の終末に対峙している人々を専門職としても,精神的にも支援できる人間としての幅を身に着けている事が終末期医療に関わる人材には求められると考える。
【理学療法学研究としての意義】
今後,理学療法士が終末期医療の現場に関わる際に必要とされる理学療法士としての専門性を具体的に提示できた。