第49回日本理学療法学術大会

講演情報

発表演題 ポスター » 生活環境支援理学療法 ポスター

その他3

2014年6月1日(日) 12:15 〜 13:05 ポスター会場 (生活環境支援)

座長:藤井智(横浜市総合リハビリテーションセンター理学作業療法課)

生活環境支援 ポスター

[1604] アフリカの保健システム強化へ向けた技術協力(第2報)

宇津木隆1, 古西勇1, 沢谷洋平2 (1.新潟医療福祉大学大学院医療福祉学研究科, 2.ムナジモジャ病院(青年海外協力隊))

キーワード:JOCV, 開発途上国, 国際保健医療

【はじめに,目的】
政府開発援助の一環である青年海外協力隊(JOCV)の活動を経験した理学療法士の数は増えているが,その報告はまだ少ない。研究代表者は,JOCVとして2011年からの2年間タンザニア連合共和国に派遣され,派遣中取り組んだ内容に関して2013年に他の学術集会において報告した。取り組みは,臨床での6項目の課題(A.診療スケジュールが決まっていないB.順番やルールなく診療を実施C.入院診療でのカルテ記載の習慣が少なくセラピスト間の情報共有・管理が困難D.外来診療にて待ち時間が長いケースありE.頻繁に来院できないケースへの対応F.小児の正常発達を知らず,親が生後2か月で「立てない」などと訴えるケースへの対応)の改善に向けて,日本のシステム導入を中心に実施したものである。本研究の目的は,その取り組みに関して現状を再評価し,システムの定着状況を確認することである。
【方法】
2011年3月からの2年間,研究代表者が配属先(ザンジバル島ムナジモジャ病院リハビリテーション科)で行なった取り組みに対し,2013年11月現在同配属先で活動中の後任隊員が現状に関して,定着度を「実施されている」「時々実施されている」「実施されていない」の3段階から評価した。評価項目は各課題に対して取り組んだ6項目で,A.診療スケジュール表の掲示B.順番に個別診療の実施C.入院診療録による情報共有・管理D.外来予約制度導入E.自主トレーニング用紙の活用F.小児正常発達に関する資料の活用である。また各項目の詳細に関しては,後任自身の所感および同僚への聞き取り調査から質的に分析を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
代表研究者は後任およびスタッフに対して本研究の趣旨と目的を説明し,協力は自由意志であり協力の有無によって不利益は受けないこと,個人のプライバシーは厳守することを説明し,承諾を得た上で評価を実施した。
【結果】
6項目中,「実施されている」はABの2項目,「時々実施されている」はCEFの3項目,「実施されていない」がDの1項目であった。「実施されている」項目のうち,A.診療スケジュール表の掲示は続き,初めての来院者を除き診療日や時間帯も概ね理解し浸透していた。また入口への掲示はスタッフ達が説明しやすく大変便利との声も上がっていた。B.順番での個別診療は原則実施され,時々患者不在などあるが現地の時計を持たない人もいる様な文化を鑑みた上では後任は許容範囲内との判断をしていた。「時々実施されている」項目のうち,C.入院患者の診療録による情報共有・管理は継続されているが,現状では後任以外は細かな管理をあまり行わず,また後任側から促さないと記入していないことも何度もあり,入院患者のスタッフ間の情報共有は現在も大きな課題の一つであった。E.自主トレーニングメニューの用紙は,後任は患者へ時々配布しているが他のスタッフが使用している場面はほぼ見たことがなく,後任も何かいい活用方法がないか模索中であった。F.小児の正常発達理解のための資料も,理解していない親へ配布するのは後任のみで,時々他のスタッフが両親に掲示したポスターを見るようにと指示するシーンを何度かみかける程度であった。「実施されていない」項目のD.外来予約制度導入に関しては,作成した「診察券」および「外来予約ノート」は後任赴任時すでに使われず,従来通り診療を記載するノートに各理学療法士の判断で次回受診の日付を記載するだけとなっている。
【考察】
タンザニアでの日本のシステム導入を中心とした課題解決への取り組みは,2年間の活動期間中には診療患者数の増加など一定の結果が得られたが,後任が活動中の現在,取り組んだシステムすべての定着は困難であった。定着が困難な背景には,保健システムの問題だけではなく,研究者側が歴史的・文化的背景の理解が不十分な点も関与していたと考える。鎖国時代の日本の様に外部からの「新しい風」に対して保守的,長期にわたる植民地化により依存的,また給与・待遇面の問題による仕事へのモチベーションの低さ,インフラ面や様々なシステム未整備な環境に対する慣れなども影響していると推察する。改善のためには,まずは自らが模範を示し,取り組みによるメリットを分かりやすくし,小さな変化の積み重ねが重要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
今後理学療法士として開発途上国での活動を目指す後進に対し,本研究が活動をスムーズかつ効率的に進める上での一助となると考える。