[1617] 脳卒中者における歩行中の方向転換動作に関するプローブ反応時間を用いた検討
キーワード:脳卒中, 方向転換, 反応時間
【はじめに,目的】
歩行中の方向転換動作は外部刺激に応答して開始することが多いが,脳卒中者にとってはバランスを崩しやすい課題である。今回,注意容量の観点から,歩行を一次課題,外部刺激への応答を二次課題とするプローブ反応時間を計測することで,歩行中の外部刺激が脳卒中者の方向転換開始動作にどのような影響を与えるかを明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は回復期リハビリテーション病院入院中の脳卒中者6名(年齢62.7±9.2歳,右片麻痺3名,左片麻痺3名,最大歩行速度:1.2±0.4m/sec,Berg Balance Scale:51.0±4.1点)と地域在住の健常高齢者8名(年齢69.9±2.8歳)とした。脳卒中者の取り込み基準は発症後2か月以上経過し,杖なし歩行が自立している者とし,除外基準は高次脳機能障害または認知機能低下により課題遂行困難な者や視覚障害を有する者とした。
課題は座位・立位・歩行中(方向転換時)の頭部回旋動作とした。座位・立位課題では前方に方向指示器(自作:イリスコ社支援)を置き,ライトが点灯した方向(左右)にできるだけ早く頭部を回旋するよう指示した。歩行課題は4~5m程度の定常歩行後,非麻痺側立脚期(高齢者:右立脚期)にライトが点灯するように操作し,その方向(左右)にできるだけ早く90度方向転換する際の頭部回旋動作を分析対象とした。座位・立位課題では左右を統合して分析し,歩行課題では立脚期の影響を考慮し左右を分けて分析した。
計測は慣性センサ(ATR-Promotions社製:TSND121)を頭頂部に固定し,垂直軸角速度データを測定した。光刺激のタイミングも慣性センサを用いて測定し,記録・再生ソフト(ATR-Promotions社製:SyncRecord T)にて同期した。座位・立位課題は垂直軸角速度データが静止時から逸脱した時点を,歩行課題は垂直軸角速度データが定常歩行時から逸脱した時点を動作開始時と規定し,光刺激から動作開始時までの反応時間を算出した。サンプリング周波数は100Hzとし,歩行課題のデータは移動平均法(10区間)を用いて処理した。統計学的解析は座位・立位・歩行課題における反応時間の差について一元配置分散分析を行い,その後多重比較検定を行った。また,脳卒中者・高齢者間における課題毎の反応時間の差についてt検定を行った。SPSS ver.21を使用し,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
各被験者には研究の詳細を書面及び口頭で説明し,書面にて同意を得た。本研究は学内倫理委員会の承認の下,実施した。
【結果】
座位・立位課題では脳卒中者,高齢者ともに有意差はみられず,脳卒中者・高齢者間においても差はみられなかった(脳卒中者座位:280.0±40.3ms,立位:296.7±40.4ms,高齢者座位:267.8±21.3ms,立位:260.9±41.6ms)。歩行課題は脳卒中者,高齢者ともにそれぞれの座位・立位課題に対して有意に反応時間が遅延した(脳卒中者-非麻痺側方向:431.1±57.3ms,麻痺側方向:418.9±84.1ms,高齢者-右方向387.5±59.0ms,左方向:325.6±53.1ms)。また,脳卒中者・高齢者間では脳卒中者-麻痺側方向が高齢者-左方向に比べて有意に遅延した。
【考察】
今回の結果から,歩行課題は座位・立位課題と比較し注意要求を必要とすることが示唆された。また,脳卒中者の歩行課題では麻痺側方向の反応時間が高齢者-左方向に対して遅延したことから,注意要求に加えて運動麻痺による進行方向への影響も考慮して検討していく必要があると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は脳卒中者及び高齢者における歩行中の外部刺激後の動作応答に関する基礎的資料を提供すると考える。
歩行中の方向転換動作は外部刺激に応答して開始することが多いが,脳卒中者にとってはバランスを崩しやすい課題である。今回,注意容量の観点から,歩行を一次課題,外部刺激への応答を二次課題とするプローブ反応時間を計測することで,歩行中の外部刺激が脳卒中者の方向転換開始動作にどのような影響を与えるかを明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は回復期リハビリテーション病院入院中の脳卒中者6名(年齢62.7±9.2歳,右片麻痺3名,左片麻痺3名,最大歩行速度:1.2±0.4m/sec,Berg Balance Scale:51.0±4.1点)と地域在住の健常高齢者8名(年齢69.9±2.8歳)とした。脳卒中者の取り込み基準は発症後2か月以上経過し,杖なし歩行が自立している者とし,除外基準は高次脳機能障害または認知機能低下により課題遂行困難な者や視覚障害を有する者とした。
課題は座位・立位・歩行中(方向転換時)の頭部回旋動作とした。座位・立位課題では前方に方向指示器(自作:イリスコ社支援)を置き,ライトが点灯した方向(左右)にできるだけ早く頭部を回旋するよう指示した。歩行課題は4~5m程度の定常歩行後,非麻痺側立脚期(高齢者:右立脚期)にライトが点灯するように操作し,その方向(左右)にできるだけ早く90度方向転換する際の頭部回旋動作を分析対象とした。座位・立位課題では左右を統合して分析し,歩行課題では立脚期の影響を考慮し左右を分けて分析した。
計測は慣性センサ(ATR-Promotions社製:TSND121)を頭頂部に固定し,垂直軸角速度データを測定した。光刺激のタイミングも慣性センサを用いて測定し,記録・再生ソフト(ATR-Promotions社製:SyncRecord T)にて同期した。座位・立位課題は垂直軸角速度データが静止時から逸脱した時点を,歩行課題は垂直軸角速度データが定常歩行時から逸脱した時点を動作開始時と規定し,光刺激から動作開始時までの反応時間を算出した。サンプリング周波数は100Hzとし,歩行課題のデータは移動平均法(10区間)を用いて処理した。統計学的解析は座位・立位・歩行課題における反応時間の差について一元配置分散分析を行い,その後多重比較検定を行った。また,脳卒中者・高齢者間における課題毎の反応時間の差についてt検定を行った。SPSS ver.21を使用し,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
各被験者には研究の詳細を書面及び口頭で説明し,書面にて同意を得た。本研究は学内倫理委員会の承認の下,実施した。
【結果】
座位・立位課題では脳卒中者,高齢者ともに有意差はみられず,脳卒中者・高齢者間においても差はみられなかった(脳卒中者座位:280.0±40.3ms,立位:296.7±40.4ms,高齢者座位:267.8±21.3ms,立位:260.9±41.6ms)。歩行課題は脳卒中者,高齢者ともにそれぞれの座位・立位課題に対して有意に反応時間が遅延した(脳卒中者-非麻痺側方向:431.1±57.3ms,麻痺側方向:418.9±84.1ms,高齢者-右方向387.5±59.0ms,左方向:325.6±53.1ms)。また,脳卒中者・高齢者間では脳卒中者-麻痺側方向が高齢者-左方向に比べて有意に遅延した。
【考察】
今回の結果から,歩行課題は座位・立位課題と比較し注意要求を必要とすることが示唆された。また,脳卒中者の歩行課題では麻痺側方向の反応時間が高齢者-左方向に対して遅延したことから,注意要求に加えて運動麻痺による進行方向への影響も考慮して検討していく必要があると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は脳卒中者及び高齢者における歩行中の外部刺激後の動作応答に関する基礎的資料を提供すると考える。