第49回日本理学療法学術大会

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未来への継続は生活を支える―意欲と行動変容―

2014年5月31日(土) 09:40 〜 11:10 第2会場 (1F メインホール)

座長:辻下守弘(甲南女子大学看護リハビリテーション学部理学療法科)

シンポジウムⅡ

[2016] 意欲を高める応用行動分析

山本淳一 (慶應義塾大学文学部心理学専攻)

応用行動分析をリハビリテーションの中で活用する
私が専門としているのは,応用行動分析(applied behavior analysis)という学問領域である。ハーバード大学の心理学者であるB.F.スキナー博士(1904-1990)が創設した行動分析学(behavior analysis)を,広く実践現場に応用できるよう体系化した学問である(ミルテンバーガー,2006参照)。応用行動分析は,人間の「行動」に及ぼすまわりの「環境」の影響を徹底的に,かつ系統的に分析し,データを蓄積することで,「行動と学習の法則性」を明らかにし,それにもとづいた行動変容の知識を積み上げてきた。その結果,心理学を基盤にしつつも,行動科学,学習科学をさらに発展させた新たな学問の体系となった。特に,発達臨床,教育臨床などの分野で先駆的な成果(エビデンス)をあげてきた。応用行動分析は,理論,方法論の系統性ゆえに,ヒューマンサービスにおける共通のパラダイムをもった学問分野として,スポーツ,組織行動マネージメントなど他の多くの領域においても,着実に成果を上げている。
近年,リハビリテーションの分野においても,応用行動分析を活用した多くの実証研究の成果が示されるようになってきた(山﨑・山本,2012)。そのような背景から,私たちは,新しい融合領域として「行動リハビリテーション(behavioral rehabilitation)」という分野を開拓し,研究会誌でその成果を発表してきた(行動リハビリテーション研究会,2014)。最近は,本人のリハビリテーションへの「意欲」を高める上で有効であるというデータが次々と発表されてきている。

意欲を高める「行動随伴性」:ABC介入
人間は,環境との相互作用の中で生きている。私たちの行動(「(B)」)は,行動のきっかけとなる環境の条件(「先行刺激(A)」),ならびにその行動を行った結果,環境や自らの身体に起こった変化(「後続刺激(C)」)によって強い影響を受ける。図式的に書くと以下のようになる。
「先行刺激(antecedent stimulus:A)」→「行動(behavior:B)」→「後続刺激(consequent stimulus:C)」
通常の見方であると,「本人はどのような行動をしたか」という点にのみ焦点が当たり,その範囲内で介入が完結してしまうことが多い。それに対して,応用行動分析では,3つの要素からなる「行動随伴性(behavior contingency)」の観点から,「どのような環境や刺激のもとで,どのような行動をした時,どのような応答がまわりの環境からもたらされるか,あるいは自分自身の身体から得られるか」という「本人と環境との相互作用」を分析と介入の中心に据える。

明瞭な,見通しのある「先行刺激」を活用する
例えば,車椅子をこぐ動作を,筋力の弱い高齢者に教えたいとしよう。車椅子のホイールの上部の最適なところを持つことがまず必要である。私たちは,つい音声で指示をする傾向がある。しかしながら,音声刺激は,発するとすぐに消えてしまう。また,音声指示の理解が難しい認知症の方には伝わらないことも多い。
したがって,まず,手を置くべき場所を,視覚的にわかるようにする。例えば,はっきりした赤い色のシールを貼っておき,そこに本人の腕を誘導する。
行動に時間的に先立つという意味で,手を置く位置や赤い色のシールは「先行刺激」となる。臨床場面では,先行刺激は,できるだけ行動を引き出しやすい明瞭なものを用い,リハビリテーションの進行にともない,その強さを徐々に減らしていく。このようにできるだけ誤りをさせないようにして,新しい学習を促進させていく手続きを「無誤学習(errorless learning)」という。そのほか,ベッドから自発的に起き上がるよう介入する場合でも,置くべき手や足の位置を,視覚的に明瞭に示すことで,自然な起き上がり動作を促すことができる。
リハビリテーションが痛みを伴う場合など,あらかじめ,「痛みの程度」,「これを乗り越えると治療がどのくらい進むかなどのルール」,「運動療法の効果が現在どのくらい上がっているかなどのフィードバック」,などを事前に本人に分かる形で示しておくことで,見通しができ,治療意欲を高めることにつながる。

レパートリーにある「行動」に焦点を当てる
ここで介入の対象となる行動は,ホイールを押す行動である。行動は,本人が少しがんばればできるくらいの水準(の強さ)に設定することが,意欲を高く保つための秘訣である。例えば,75%くらいは自分ででき,残りの25%を,支援を受けてできるようにしておくと,失敗経験を重ねなくてすみ,また同時に,達成感を味わうことができる。

行動の結果,相手から,そして自分自身が心地よい「後続刺激」を受けられるようにする
次に,適切な行動が出現したら,すぐに,本人が心地よいフィードバックが得られるようにしておくことが肝要である。うまくできて十分ほめられた経験,うまくいったと自分自身で感じられる経験は,その行動と意欲を高める上で最も有効に働く。
ただし,効果的なほめ方は人によって様々である。笑顔でほめる(視覚刺激),「うまくなりましたね」などことばでほめる(聴覚刺激),うまく動かせた手や腕をさする(触覚刺激),など繰り返して,自分自身でできたという成功経験を積み重ねていく。行動を増やす働きのある後続刺激を「強化刺激(reinforcer)」という。まわりが十分に心地よいフィードバックを与えることで,その行動自体が強化刺激になり,他者からほめられなくても,自分自身で活動に意欲的に取り組むようになる。このような行動内在型強化刺激によって,自発的な行動の割合と幅を着実に増やしていくことが,応用行動分析によって意欲を高める最も効果的な方法である。

文献
・ミルテンバーガー,L.G.園山繁樹・野呂文行・渡部匡隆・大石幸二(訳)(2006)「行動変容法入門」二瓶社
・山﨑裕司・山本淳一(編著)(2012)「リハビリテーション効果を最大限に引き出すコツ:応用行動分析で運動療法とADL訓練は変わる」三輪書店
・行動リハビリテーション研究会(2014)http://www.koudo-reha.com/index.html