[2039] 生活期から
全国で介護保険制度における認定を受けた人は,平成21年度末で約485万人となり,制度開始からの8年で,40%(186万人)増加したことになる。また,介護が必要になった原因についてみてみると「脳血管疾患」が約21.5%と最も多い。すなわち,生活期理学療法の対象は,障害の程度に幅はあるにせよ,脳卒中後遺症者が多数を占める。
生活期の理学療法は,生活を遂行するための「機能」そのものにアプローチするもので,たとえ急性期,回復期と同じ内容であっても,結果として生活自体に何らかの影響を与えるものでなければならないとされている。その方針は予防的な支援やQOLの向上につながるものであると思われるが,理学療法を実施する上で注意したいことは,単なるADL練習や環境整備に終始するのではなく,トップダウン的に身体機能・構造にまで目を向け,幅広い視点で係る必要性があるということである。これを片麻痺者の歩行という活動に当てはめて考えてみる。生活に必要な歩行能力を維持,改善させるために,何となく歩行練習を繰り返すことは,単なる「歩く」という行為にすぎず,「機能」を維持もしくは改善させるといった目的が達成されないどころか,かえって「廃用」という悪化や,本来は回避可能であった「異常」をもたらす恐れがある。これでは本末転倒である。
急性期,回復期で十分に標準的な理学療法が実施された対象者であれば,活動の定着と社会への参加といった,よりQOLに則した支援が可能となる。しかし,片麻痺者は感覚障害や高次脳機能障害などにより,汎化能力に劣り,様々な環境への適応が難しくなることも多い。このような場合は,身体機能・構造の変化にも鋭敏となり,修正や方針の転換などの作業を推し進める観点も求められる。また,医学的な理由などで,急性期,回復期に標準的な理学療法を十分に受けることができなかった場合は,生活期の理学療法で対応する必要性も高くなる。加えて,近年,生活期の脳卒中片麻痺者への理学療法が,機能的成果に効果があるという報告もあり,プラトーという概念は絶対ではないことが明らかになりつつある。このような観点からも,生活期の理学療法は,「機能」そのものにアプローチする必要性が高く,かつ,変化をもたらす可能性が高いものであるといえる。発症からの経過が長いからといって,消極的な係りとなることは避けたい。したがって,生活期の理学療法でも,急性期,回復期と同様に,画像所見や神経機構,バイオメカニクス的な観点や装具の知識などを持つことが大切になる。
生活期は在宅が基本であり,理学療法の機会は,医療保険のそれよりも大幅に減少する。このような状況下で問題を解決させるためには,もちろん課題志向的なアプローチが必要となるが,問題と課題の焦点化や,適切な難易度の設定,様々なデバイスの使用により,反復性の高い,よりアクティブな理学療法を展開することが肝心になる。そして,在宅であることを考えると,変化をもたらすことを目的に理学療法を行うことで,パフォーマンスが極端に低下することは避け,あくまで在宅生活自体を維持しつつ,改善を求めるということを大前提に係らなければならない。つまり,対象者の個人背景や環境,生活歴などを把握し,課題解決のためのプロセスが,現実的なものであるかどうか,しっかりと吟味しなければならない。「機能」をみることは大切だが,身体的,社会心理的思考を持ち,対象者中心の理学療法アプローチを展開することが肝心である。また,対象者の理学療法は一連の流れを持って展開されている。したがって,生活期の理学療法を考える際,急性期,回復期と連携し,理学療法の方針や内容,アウトカムに関して理解することや,複数の事業所で行われることが多い医療・介護サービスにおいても,方針やプログラムの統一をはかり,より効率的なリハビリを展開することが望ましい。その試みとして,当院が位置する,宮城県南部地域では,平成22年から,脳卒中片麻痺者への積極的な装具歩行練習を進めていくために,研修会や症例報告会を開催し,顔の見える連携を目的に交流を深めている。その甲斐もあり,当院通所リハビリテーションでは,片麻痺者の歩行練習に,積極的に下肢装具を活用している。その目的は,難易度の調整や,側方安定性の獲得,関節運動の制動など様々であるが,備品やレンタルの装具を利用し,義肢装具士と相談を重ね,再作成や修正などを行っている。利用開始時や経過の中で,おそらく,トークリアランスを得る目的で,底屈制限のプラスチック短下肢装具を使用していた対象者でも,練習の過程で底屈制動式の短下肢装具に変更し,裸足でも歩行が可能となるなど,「機能」が改善し,生活に変化をもたらした例や,環境や身体機能の変化から動作時筋緊張が亢進し,歩行時の足趾の疼痛や変形,転倒を繰り返した対象者に対して,急性期,回復期病院での様子から,機能的な上積みが可能であると判断し,理学療法を行った結果,実際に改善が可能であった例も経験している。
今回のシンポジウムでは,このような症例や連携の実際を紹介させていただく。各病期を通した,脳卒中片麻痺者の歩行改善に関して,活発な意見交換が行える,その一端を担うことができれば幸いである。
生活期の理学療法は,生活を遂行するための「機能」そのものにアプローチするもので,たとえ急性期,回復期と同じ内容であっても,結果として生活自体に何らかの影響を与えるものでなければならないとされている。その方針は予防的な支援やQOLの向上につながるものであると思われるが,理学療法を実施する上で注意したいことは,単なるADL練習や環境整備に終始するのではなく,トップダウン的に身体機能・構造にまで目を向け,幅広い視点で係る必要性があるということである。これを片麻痺者の歩行という活動に当てはめて考えてみる。生活に必要な歩行能力を維持,改善させるために,何となく歩行練習を繰り返すことは,単なる「歩く」という行為にすぎず,「機能」を維持もしくは改善させるといった目的が達成されないどころか,かえって「廃用」という悪化や,本来は回避可能であった「異常」をもたらす恐れがある。これでは本末転倒である。
急性期,回復期で十分に標準的な理学療法が実施された対象者であれば,活動の定着と社会への参加といった,よりQOLに則した支援が可能となる。しかし,片麻痺者は感覚障害や高次脳機能障害などにより,汎化能力に劣り,様々な環境への適応が難しくなることも多い。このような場合は,身体機能・構造の変化にも鋭敏となり,修正や方針の転換などの作業を推し進める観点も求められる。また,医学的な理由などで,急性期,回復期に標準的な理学療法を十分に受けることができなかった場合は,生活期の理学療法で対応する必要性も高くなる。加えて,近年,生活期の脳卒中片麻痺者への理学療法が,機能的成果に効果があるという報告もあり,プラトーという概念は絶対ではないことが明らかになりつつある。このような観点からも,生活期の理学療法は,「機能」そのものにアプローチする必要性が高く,かつ,変化をもたらす可能性が高いものであるといえる。発症からの経過が長いからといって,消極的な係りとなることは避けたい。したがって,生活期の理学療法でも,急性期,回復期と同様に,画像所見や神経機構,バイオメカニクス的な観点や装具の知識などを持つことが大切になる。
生活期は在宅が基本であり,理学療法の機会は,医療保険のそれよりも大幅に減少する。このような状況下で問題を解決させるためには,もちろん課題志向的なアプローチが必要となるが,問題と課題の焦点化や,適切な難易度の設定,様々なデバイスの使用により,反復性の高い,よりアクティブな理学療法を展開することが肝心になる。そして,在宅であることを考えると,変化をもたらすことを目的に理学療法を行うことで,パフォーマンスが極端に低下することは避け,あくまで在宅生活自体を維持しつつ,改善を求めるということを大前提に係らなければならない。つまり,対象者の個人背景や環境,生活歴などを把握し,課題解決のためのプロセスが,現実的なものであるかどうか,しっかりと吟味しなければならない。「機能」をみることは大切だが,身体的,社会心理的思考を持ち,対象者中心の理学療法アプローチを展開することが肝心である。また,対象者の理学療法は一連の流れを持って展開されている。したがって,生活期の理学療法を考える際,急性期,回復期と連携し,理学療法の方針や内容,アウトカムに関して理解することや,複数の事業所で行われることが多い医療・介護サービスにおいても,方針やプログラムの統一をはかり,より効率的なリハビリを展開することが望ましい。その試みとして,当院が位置する,宮城県南部地域では,平成22年から,脳卒中片麻痺者への積極的な装具歩行練習を進めていくために,研修会や症例報告会を開催し,顔の見える連携を目的に交流を深めている。その甲斐もあり,当院通所リハビリテーションでは,片麻痺者の歩行練習に,積極的に下肢装具を活用している。その目的は,難易度の調整や,側方安定性の獲得,関節運動の制動など様々であるが,備品やレンタルの装具を利用し,義肢装具士と相談を重ね,再作成や修正などを行っている。利用開始時や経過の中で,おそらく,トークリアランスを得る目的で,底屈制限のプラスチック短下肢装具を使用していた対象者でも,練習の過程で底屈制動式の短下肢装具に変更し,裸足でも歩行が可能となるなど,「機能」が改善し,生活に変化をもたらした例や,環境や身体機能の変化から動作時筋緊張が亢進し,歩行時の足趾の疼痛や変形,転倒を繰り返した対象者に対して,急性期,回復期病院での様子から,機能的な上積みが可能であると判断し,理学療法を行った結果,実際に改善が可能であった例も経験している。
今回のシンポジウムでは,このような症例や連携の実際を紹介させていただく。各病期を通した,脳卒中片麻痺者の歩行改善に関して,活発な意見交換が行える,その一端を担うことができれば幸いである。