[2042] 理学療法診断に基づく臨床推論の可能性―多施設共同研究による基準値設定の取り組み―
理学療法診断とは
理学療法士は対象者の運動機能障害に対して,その原因を体系的に分析するための臨床推論能力を有する専門家である。具体的には,運動機能障害に対して理学療法評価を行い,年齢や重症度などの影響を踏まえたうえで,解剖学・生理学・運動学などの知識と臨床経験を基に理学療法プログラムの立案や変更を判断している。しかしながら,理学療法介入にもかかわらず,運動機能障害が低下したままの症例も少なからず存在しているのも事実である。対象者の特性を考慮した効果的な介入を選択するためには,ある介入において効果が期待できない症例を事前に判別することによって,異なる介入手段を検討する必要がある。
理学療法診断とは,様々な要因によって生じた運動機能障害の有無と程度を同定し,その関連因子や予後を予測し,理学療法による効果を判断するプロセスである。これまでの大部分の理学療法評価には評価尺度の基準値がなく,対象者の測定値の持つ意味が不透明であったため,理学療法プログラムは担当理学療法士の知識と経験に基づく臨床推論に依存していた。一方,理学療法診断では担当理学療法士の知識と経験に加えて,理学療法検査の基準値と対象者の測定値との比較による定量的な予後予測に基づき理学療法プログラムの立案や変更を判断するため,臨床推論の妥当性を可視化することが可能になる。したがって,経験の浅い理学療法士にとっては,形式知化された知識を手掛かりに技術を効率的に習得していくことができ,対象者にとっては明快な情報の1つになり得ると考える。
理学療法診断に基づく臨床推論の可能性
これまで暗黙知であった理学療法士の臨床推論に形式知を加味するためには,臨床で用いられている理学療法評価を数量化し,理学療法の適用判断を透明化する必要がある。近年,一定の判別能力を持つ検査を複数組み合わせて臨床予測モデル(Clinical Prediction Rule:以下,CPR)を抽出することによって,具体的な数値を用いた理学療法の適用判断を可能にしている。米国では,変形性膝関節症患者を対象に5つの検査を組み合わせたCPRを抽出し,そのうち2つの検査が陽性であった場合,股関節のモビライゼーションによって膝関節痛の改善が得られる確率が,68%から97%に上昇したと報告されている。また本邦では,地域高齢者を対象に3つの検査を組み合わせたCPRを抽出し,そのうち3つの検査が陽性であった場合,理学療法の介入にもかかわらず生活空間が低活動域から1年間脱却できない確率が,約50%から約90%に上昇したとの報告がある。これらの先行研究では,陽性検査数が増えれば検査後確率が高まるということを簡便に示すため,対象者毎の測定値を重回帰式に代入して検査後確率を算出する必要がなく,臨床現場において簡便に利用できるという利点がある。さらに,抽出されたCPRの交差妥当性の検証とCPRの使用の有無による治療成績の比較や医療費削減へ与える影響を検証することによって,CPRの臨床的有効性を確認することができれば,対象者や社会への説明責任を果たせるため,理学療法の透明性の改善に繋がると考える。
多施設共同研究による取り組み
検査の基準値設定を行うためには,大規模調査により多くの症例数を集積し,様々な要因によって層別化された信頼のできるデータを提示していく必要がある。全国の理学療法士が共通の目標に向かって協力し合い,多施設共同研究を行うことによって,理学療法診断に基づく臨床推論(Diagnosis Based Clinical Reasoning)を実践することが可能になると考える。本講演では,理学療法診断の概要と臨床推論における理学療法診断の位置付けについて,多施設共同研究の取り組みを含めて紹介する。
理学療法士は対象者の運動機能障害に対して,その原因を体系的に分析するための臨床推論能力を有する専門家である。具体的には,運動機能障害に対して理学療法評価を行い,年齢や重症度などの影響を踏まえたうえで,解剖学・生理学・運動学などの知識と臨床経験を基に理学療法プログラムの立案や変更を判断している。しかしながら,理学療法介入にもかかわらず,運動機能障害が低下したままの症例も少なからず存在しているのも事実である。対象者の特性を考慮した効果的な介入を選択するためには,ある介入において効果が期待できない症例を事前に判別することによって,異なる介入手段を検討する必要がある。
理学療法診断とは,様々な要因によって生じた運動機能障害の有無と程度を同定し,その関連因子や予後を予測し,理学療法による効果を判断するプロセスである。これまでの大部分の理学療法評価には評価尺度の基準値がなく,対象者の測定値の持つ意味が不透明であったため,理学療法プログラムは担当理学療法士の知識と経験に基づく臨床推論に依存していた。一方,理学療法診断では担当理学療法士の知識と経験に加えて,理学療法検査の基準値と対象者の測定値との比較による定量的な予後予測に基づき理学療法プログラムの立案や変更を判断するため,臨床推論の妥当性を可視化することが可能になる。したがって,経験の浅い理学療法士にとっては,形式知化された知識を手掛かりに技術を効率的に習得していくことができ,対象者にとっては明快な情報の1つになり得ると考える。
理学療法診断に基づく臨床推論の可能性
これまで暗黙知であった理学療法士の臨床推論に形式知を加味するためには,臨床で用いられている理学療法評価を数量化し,理学療法の適用判断を透明化する必要がある。近年,一定の判別能力を持つ検査を複数組み合わせて臨床予測モデル(Clinical Prediction Rule:以下,CPR)を抽出することによって,具体的な数値を用いた理学療法の適用判断を可能にしている。米国では,変形性膝関節症患者を対象に5つの検査を組み合わせたCPRを抽出し,そのうち2つの検査が陽性であった場合,股関節のモビライゼーションによって膝関節痛の改善が得られる確率が,68%から97%に上昇したと報告されている。また本邦では,地域高齢者を対象に3つの検査を組み合わせたCPRを抽出し,そのうち3つの検査が陽性であった場合,理学療法の介入にもかかわらず生活空間が低活動域から1年間脱却できない確率が,約50%から約90%に上昇したとの報告がある。これらの先行研究では,陽性検査数が増えれば検査後確率が高まるということを簡便に示すため,対象者毎の測定値を重回帰式に代入して検査後確率を算出する必要がなく,臨床現場において簡便に利用できるという利点がある。さらに,抽出されたCPRの交差妥当性の検証とCPRの使用の有無による治療成績の比較や医療費削減へ与える影響を検証することによって,CPRの臨床的有効性を確認することができれば,対象者や社会への説明責任を果たせるため,理学療法の透明性の改善に繋がると考える。
多施設共同研究による取り組み
検査の基準値設定を行うためには,大規模調査により多くの症例数を集積し,様々な要因によって層別化された信頼のできるデータを提示していく必要がある。全国の理学療法士が共通の目標に向かって協力し合い,多施設共同研究を行うことによって,理学療法診断に基づく臨床推論(Diagnosis Based Clinical Reasoning)を実践することが可能になると考える。本講演では,理学療法診断の概要と臨床推論における理学療法診断の位置付けについて,多施設共同研究の取り組みを含めて紹介する。