第49回日本理学療法学術大会

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頸椎捻挫と徒手理学療法

2014年5月31日(土) 11:00 〜 12:10 第12会場 (5F 502)

司会:佐藤友紀(常葉大学健康科学部)

専門領域 運動器

[2052] 頸椎捻挫と徒手理学療法

頚椎捻挫(むち打ち)後の頚椎痛は日常的なものである。頚椎捻挫受傷時に救急外来に運ばれる年間患者数は10万人あたり300人であり,この数は頚椎神経根障害発生率年間10万人あたりの3倍以上である。
頚椎捻挫は(むち打ち)は1928年Croweにより最初に報告された。交通事故が原因となり,突如かつ急速な力(加速減速力)が頚椎に加わり,頚椎周囲の組織が損傷されることが症状の出現に関係している。発症から数週間経過すると疼痛が消失する患者もいるが,患者の半数は十分に回復せず,30%は中等度から重度の障害を持ち続けている。また,頚椎捻挫にかかる年間医療費は米国で100億ドル,カナダでは2億5千ドルとも言われている。このように,頚椎捻挫そして頚椎捻挫後の慢性的な症状は臨床的,社会的問題となっている。
頚椎捻挫(むち打ち)における頚椎損傷機序について,以前は頚椎の過伸展位が損傷を起こす肢位であると考えられていた。しかし,交通事故発生50-75msec後に頚椎はS字状のカーブとなり,このS字状のカーブの肢位をとることが損傷の原因であるという研究が報告された。このS字状のカーブは,上部頚椎の前屈位,中部頚椎の後屈位からなるものである。加えて,損傷を受けやすいと予想されるS字状カーブを取るまでの時間は上記のように50-75msecであり,筋の防御的収縮が間に合わないほどの短い時間である。
臨床で使用されている画像検査では病態を十分に判断することが困難であるため,遺体を使用した実験,頚椎捻挫後に亡くなった後の解剖所見,そして動物実験からその病態について研究されてきた。その結果,今日理解されている病態として関節突起部の骨折,関節内出血,椎間板損傷,椎体終板の骨折,前縦靱帯損傷,棘間靱帯損傷,黄色靱帯損傷,翼状靱帯損傷,環椎横靱帯損傷,後環椎後頭膜損傷,筋損傷,脳出血,硬膜下血腫,そして交感神経損傷などがある。また,同一遺体に対して複数の画像検査,クライオマイクロトミーを使用し,組織の損傷の有無を検査方法間で比較した研究から,従来の画像検査では十分に組織の損傷を判断することが困難であることが明らかである。つまり,臨床で診ている頚椎捻挫後の患者において,組織の損傷についてその有無の確認,損傷の程度をその場で十分に判断することが困難であるといえる。
頚椎捻挫後の症状として主として頚部痛があるが,その他,頚部のこわばり,頭痛,眩暈,視覚障害,聴覚障害(耳鳴り),知覚障害,不安・うつ状態,などが報告されている。これら症状の原因は,上記で述べた病態が関係していると思われる。
頚椎捻挫後の患者への治療として頚椎カラーの処方,非ステロイド抗炎症剤が一般的である。頚椎捻挫後の患者に対する保存療法の効果を検証した研究から,疼痛のない範囲で通常の活動を続けることを指導,頚椎自動運動,マッサージ・セラバンドを使用した抵抗運動などを含めた理学療法,モビリゼーションを含めた理学療法,認知行動療法などの有効性が報告されている。しかし,どの治療がより効果的であるのか統一見解はない。一方,理学療法などの保存療法を積極的に受けた患者群はそうでない患者群より回復が遅いことも複数の研究から報告されている。
以上,頚椎捻挫について多くの論点があることが分かる。本セッションでは,頚椎捻挫の病態について確認した上で,その理学療法について焦点を絞り3名のシンポジスト(日本理学療法士協会 板場英行先生,常葉大学 平野幸伸先生,済生会西条病院 山内正雄先生)を交え意見交換する。特に,徒手理学療法の治療の必要性を判断する検査,そして治療の現状について議論することで,現在の課題を明確にし今後の発展に寄与できればと考える。

参考文献
1. Holm LW, Carroll LJ, Cassidy JD, Hogg-Johnson S, Co^te´ P, Guzman J, et al. The Burden and Determinants of Neck Pain in Whiplash-Associated Disorders After Traffic Collisions. Spine 2008;33:S52-S59.
2. Carroll LJ, Holm LW, Hogg-Johnson S, Co^te´ P, Cassidy JD, Haldeman S, et al. Course and Prognostic Factors for Neck Pain in Whiplash-Associated Disorders(WAD). Spine2008;33:S83-S92.