[2071] 関節に対する物理的刺激を用いたリハビリテーション~基礎研究の視点から~
理学療法士にとって,熱,音波,電気,光などの物理的刺激を生体に応用し種々の症状を改善する物理療法は,運動療法とならんで重要な治療介入のひとつである。
最近,実験動物を使用した基礎研究の領域では,これらの物理的刺激が生体に及ぼす影響について,種々のエビデンスが示されはじめている。その背景には研究機器の開発において,工学,たとえば電気工学などの学問が大きな貢献を果たしている。例をあげると,実験用の超音波刺激装置が新たに開発されたことにより,これまでは不可能であった超音波強度をほんの僅かだけ変化させることが可能となり,その結果,超音波刺激によって効果が得られる閾値が明らかとなっている。こうした研究機器の進歩と,それによって得られた成果が蓄積されてきたことにより,ヒトを対象とした物理療法に対する考え方にも変化が生じつつある。これまで以上に,いまや科学的根拠に支持されて物理療法が広く使用されはじめようとしているのである。この変化が単なる一時的な風潮に終わるのではなく,今後も発展することを期待したい。今後の発展のためには,まず,最近明らかになった基礎研究の種々のエビデンスを知ることが出発点である。そこで本研修講演では,関節に対して物理的刺激を加えた際に生じる反応について紹介する。
関節,たとえば膝関節は,大腿骨,脛骨,膝蓋骨,それらを覆う関節軟骨,前十字靭帯,後十字靭帯,内側側副靱帯,外側側副靱帯,内側半月,外側半月,滑膜,関節包,神経,血管,関節周囲の骨格筋とその腱,ならびに皮膚と皮下組織などの構成体から成る複合体である。この膝関節複合体に体外から熱,音波,電気,光などの物理的刺激を加えると,各構成体はそれぞれどう反応するのであろうか。
私の研究室では,基礎研究の立場から変形性関節症のリハビリテーションを研究している。変形性関節症の主病変は関節軟骨の変性なので,物理的刺激が変形性関節症に及ぼす影響を調べるためには,刺激によって生じる関節軟骨の反応を知る事が重要である。そこで関節軟骨から軟骨細胞を採取して培養し,温熱刺激や超音波刺激を加えて反応を観察する実験を行ってみた。軟骨細胞に32度,37度および41度の温熱を加えるとそれぞれ反応は異なるが,37度の温熱では細胞増殖は最も促進された。また41度の温熱を加えると軟骨細胞は熱耐性を獲得した。これらの結果は,変形性関節症で生じている細胞死(アポトーシス)を温熱刺激が抑制する可能性を示唆している。
また軟骨細胞に超音波刺激,具体的には低出力超音波パルスを加える実験を行ったところ,超音波の強度依存的に軟骨破壊因子が抑制されることが判明した。この結果もまた,低出力超音波パルスを変形性関節症に応用すると関節軟骨の保護効果が期待できることを示唆している。
物理的刺激の範囲にメカニカルストレス,たとえば歩行によって生じる関節荷重ストレスも加えてみると新しい視点が生まれる。歩行による荷重ストレスは物理療法ではなく運動療法になるが,関節内の物理的な環境をいかに維持するか,その一方で環境を変化させていかに刺激として,治療介入として用いるのかという観点でみると,温熱や超音波刺激を加えた場合と同様に,刺激を加えて反応を導くという理学療法士固有の視点から新たな研究や臨床における治療介入の潮流を創ることになると考える。
そこで膝関節に軟骨欠損をつくり,その部分に細胞移植を行った動物に対してトレッドミル歩行によって荷重をする実験モデルを作成してみた。このモデルでは,たんにケージ内で飼育してトレッドミル歩行しない場合と比較すると関節軟骨の修復を示すスコアが改善していた。これは,トレッドミル歩行による荷重というメカニカルストレスを加えると,それを加えない場合よりも良好な結果が得られたことを示している。適度なメカニカルストレスの範囲がどの程度なのかについてはまだ明確になっていないが,運動による荷重が効果的であるという証左が得られたと考えている。
本研修講演では,関節軟骨だけではなく,骨格筋および神経などに及ぼす物理的刺激の影響について述べ,神経筋機能制御について言及する。国内外の研究を紹介しながら,関節に対する物理的刺激を用いた介入が,今後,有効な理学療法となり得ることを強調したい。
最近,実験動物を使用した基礎研究の領域では,これらの物理的刺激が生体に及ぼす影響について,種々のエビデンスが示されはじめている。その背景には研究機器の開発において,工学,たとえば電気工学などの学問が大きな貢献を果たしている。例をあげると,実験用の超音波刺激装置が新たに開発されたことにより,これまでは不可能であった超音波強度をほんの僅かだけ変化させることが可能となり,その結果,超音波刺激によって効果が得られる閾値が明らかとなっている。こうした研究機器の進歩と,それによって得られた成果が蓄積されてきたことにより,ヒトを対象とした物理療法に対する考え方にも変化が生じつつある。これまで以上に,いまや科学的根拠に支持されて物理療法が広く使用されはじめようとしているのである。この変化が単なる一時的な風潮に終わるのではなく,今後も発展することを期待したい。今後の発展のためには,まず,最近明らかになった基礎研究の種々のエビデンスを知ることが出発点である。そこで本研修講演では,関節に対して物理的刺激を加えた際に生じる反応について紹介する。
関節,たとえば膝関節は,大腿骨,脛骨,膝蓋骨,それらを覆う関節軟骨,前十字靭帯,後十字靭帯,内側側副靱帯,外側側副靱帯,内側半月,外側半月,滑膜,関節包,神経,血管,関節周囲の骨格筋とその腱,ならびに皮膚と皮下組織などの構成体から成る複合体である。この膝関節複合体に体外から熱,音波,電気,光などの物理的刺激を加えると,各構成体はそれぞれどう反応するのであろうか。
私の研究室では,基礎研究の立場から変形性関節症のリハビリテーションを研究している。変形性関節症の主病変は関節軟骨の変性なので,物理的刺激が変形性関節症に及ぼす影響を調べるためには,刺激によって生じる関節軟骨の反応を知る事が重要である。そこで関節軟骨から軟骨細胞を採取して培養し,温熱刺激や超音波刺激を加えて反応を観察する実験を行ってみた。軟骨細胞に32度,37度および41度の温熱を加えるとそれぞれ反応は異なるが,37度の温熱では細胞増殖は最も促進された。また41度の温熱を加えると軟骨細胞は熱耐性を獲得した。これらの結果は,変形性関節症で生じている細胞死(アポトーシス)を温熱刺激が抑制する可能性を示唆している。
また軟骨細胞に超音波刺激,具体的には低出力超音波パルスを加える実験を行ったところ,超音波の強度依存的に軟骨破壊因子が抑制されることが判明した。この結果もまた,低出力超音波パルスを変形性関節症に応用すると関節軟骨の保護効果が期待できることを示唆している。
物理的刺激の範囲にメカニカルストレス,たとえば歩行によって生じる関節荷重ストレスも加えてみると新しい視点が生まれる。歩行による荷重ストレスは物理療法ではなく運動療法になるが,関節内の物理的な環境をいかに維持するか,その一方で環境を変化させていかに刺激として,治療介入として用いるのかという観点でみると,温熱や超音波刺激を加えた場合と同様に,刺激を加えて反応を導くという理学療法士固有の視点から新たな研究や臨床における治療介入の潮流を創ることになると考える。
そこで膝関節に軟骨欠損をつくり,その部分に細胞移植を行った動物に対してトレッドミル歩行によって荷重をする実験モデルを作成してみた。このモデルでは,たんにケージ内で飼育してトレッドミル歩行しない場合と比較すると関節軟骨の修復を示すスコアが改善していた。これは,トレッドミル歩行による荷重というメカニカルストレスを加えると,それを加えない場合よりも良好な結果が得られたことを示している。適度なメカニカルストレスの範囲がどの程度なのかについてはまだ明確になっていないが,運動による荷重が効果的であるという証左が得られたと考えている。
本研修講演では,関節軟骨だけではなく,骨格筋および神経などに及ぼす物理的刺激の影響について述べ,神経筋機能制御について言及する。国内外の研究を紹介しながら,関節に対する物理的刺激を用いた介入が,今後,有効な理学療法となり得ることを強調したい。