第49回日本理学療法学術大会

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専門領域研究部会 教育・管理理学療法 » 教育・管理理学療法 教育セミナー

理学療法教育の連携~現状から変革へ~

Sun. Jun 1, 2014 9:30 AM - 12:10 PM 第8会場 (4F 411+412)

司会:酒井桂太(大阪河﨑リハビリテーション大学理学療法学専攻)

専門領域 教育・管理

[2074] II 卒前教育 1 卒前教育と卒後教育の橋渡しをねらいとした実行性の高い研修システム

潮見泰藏 (杏林大学大学院保健学研究科リハビリテーション科学分野)

一般に,理学療法士養成施設では,最終学年に行われる総合臨床実習を「理学療法教育の集大成」と位置づけることが多い。臨床実習を受け入れる側もまた,3年ないし4年間の教育の総括(統合の場)として捉えている。しかし,筆者はこの考え方に与しない。なぜなら,教育の総括であるはずの臨床実習教育が全面的に外部委託され,学生一人ひとりが均一な臨床体験ができない以上,教育の集大成や総括と位置付けるのは誤りと考えるからである。施設ごとに指導方法にばらつきが多く,指導者の指導能力も不均等な状況で,この短期間に高い到達目標を設定し,過度の期待を求めること自体に大きな問題があると考えている。
昨今では,高等教育機関に進学する学生の基礎学力の低下が指摘されており,大学1年が高校の延長(高校4年)であり,基本的な読み書き(リテラシー)や学習方法の習得に時間を費やされることが多いと言われる。そして,こうした状況は専門学校であっても同様であると予想される。そのため,学生は専門科目の内容が充分に消化されぬまま,最終学年で行われる総合臨床実習に臨まざるを得ないのが現状である。これを単に学生の学力の問題として済ますわけにはいかない。今後もこのような状況はしばらく続くものと予想されることから,早急に抜本的な対応策を講じる必要があると考える。
現行の卒業前の臨床実習期間は,時間の上でも,経験する症例数の上でも,決して十分なものとは言えない。また,医療専門職としての基本的資質についても,本来,在学中の短期間に獲得できるような性質のものではなく,卒後も含めて長い時間をかけて培われるべきものである。このように考えると,現行の教育年限は決して十分とは言えず,最終学年における臨床実習を何らかの形で補うことが必要となる。
そこで,卒業後3~6ヵ月の卒後研修を義務づけ,卒前から卒後にわたる一貫した研修システムを構築することを提案したい。すなわち,養成施設における最終学年次の総合臨床実習を「前期臨床研修」とし,卒業後の初任者研修期間を「後期臨床研修」と位置づけ,卒業後の臨床業務に円滑に従事していくための準備期間とするのである。つまり,taking-off(離陸)期間を延長することによって,臨床体験の充実度を高めることがねらいとなる。この期間に,まずは専門職としての基本的な姿勢を学ぶことが肝要である。そして,前期臨床研修期間の研修内容(体験内容)に関する情報はすべて卒業後の勤務先に伝達され,後期臨床研修の参考資料として活用される。現状では,卒前に行われた総合臨床実習の体験内容に関する情報が就職先に伝えられることは無い。
新しい臨床研修モデルのように,卒業前後の最大1年間を研修期間と考えれば,自ずと卒業前の臨床実習(前期臨床研修)の到達目標は低くなり,達成すべき課題も変わってくる。また,現行の卒前における最終学年における総合臨床実習と就職後の6ヵ月間に初任者研修を行なうことによって,卒業前に不十分であった学生の課題を補うことも可能となる。後期臨床研修は免許取得後に行われるため,現在のような卒業前に行われる実習のような様々な制約を受けることも少ないであろう。
さらに,この新しい臨床研修モデルでは,一貫したクリニカルクラークシップとメンター制(メンタリング)を導入し,従来の実習指導者(supervisor)からメンター(mentor)としての役割に移行する。メンタリングは,専門知識やスキルだけでなく,人生における様々な場面での考え方について助言を与えながら,「キャリア形成」をサポートする手法である。この手法は,相互の信頼関係に基づいて指導が行われる点が大きな特徴であり,人材育成の有効なツールであるとされている。キャリアとは長期的な視点から見た自分自身の仕事生活のパターンと,そこから得られた自己理解といえる。その意味で,この卒前から卒後にわたるこの研修期間は,自分自身のキャリアに対する価値観を構築するために重要な意味をもつ。
今日,医療環境の急激な変化により,患者は安全で質の高い医療や理学療法を求める傾向が強くなってきている。理学療法は,理学療法士という「人」が提供するものであり,質の高い治療(セラピー)を提供していくためにはセラピストの資質向上が重要となることは言うまでもない。しかし,ここ数年,臨床施設ではさまざまな教育背景をもつ理学療法士で構成され,臨床実践能力の向上を経験年数だけで計ることは困難になっている現状があるように思われる。そのため,従来行ってきた「卒後年数ごとの継続教育」は臨床におけるセラピストの育成にそぐわなくなっており,個々の臨床実践能力や意欲に焦点を当てた継続教育を構築する必要があると考えられる。メンター制度の導入にあたっても,個々の理学療法士のキャリア形成,基本的資質,臨床実践能力および臨床教育に対する意欲に基づいた計画的かつ継続的な人材育成を進めていくことが望まれる。