第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述2

変形性股関節症

2015年6月5日(金) 10:10 〜 11:10 第8会場 (ガラス棟 G402)

座長:永井聡(広瀬整形外科リウマチ科 リハビリテーション)

[O-0029] 前期から進行期変形性股関節症患者における関節裂隙狭小化と歩行特性との関連性

股関節累積負荷に着目した解析

建内宏重1, 小山優美子1, 塚越累2, 宗和隆3, 黒田隆3, 後藤公志3, 秋山治彦4, 市橋則明1 (1.京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻, 2.兵庫医療大学リハビリテーション学部, 3.京都大学大学院医学研究科整形外科学, 4.岐阜大学医学部整形外科)

キーワード:変形性股関節症, 歩行, 関節モーメント

【はじめに,目的】
変形性股関節症(股OA)は,軟骨の変性・摩耗を生じる慢性進行性の疾患であり,臼蓋形成不全などを有する前期から初期,進行期を経て末期に至る。また,歩行などの運動機能も疾患進行に伴って低下する。しかし,股OA患者を対象とした歩行特性(速度,関節角度や外的負荷などの特徴)やそれに関連する要因を調査した報告は,末期あるいは人工股関節全置換術後の患者を対象としたものがほとんどである。一般に,保存療法としての運動療法の適応は,疾患が進行し末期に至る以前が最適であると考えられており,その時期の関節症の進行程度と歩行特性との関連性を調査することは,疾患の進行予防などを目的とした理学療法を検討する上で重要であると考える。本研究の目的は,前期から進行期の股OA患者を対象として,関節裂隙狭小化と歩行特性との関連性を明らかにすることである。
【方法】
対象は,前期から進行期の股OA患者50名(全例女性:年齢;48.2±10.7歳:BMI;22.3±4.0)とした。診察のために撮影された臥位レントゲン正面像から,股OAの診断や進行の指標として最も信頼性が高いとされている最小関節裂隙幅を測定した。加えて,Sharp角,CE角も測定した。歩行特性の評価は,約7mの歩行路における自然歩行とし,3次元動作解析装置(Vicon Motion Systems社製:200Hz)と床反力計(Kistler社製:1000Hz)を測定に用いた。測定時には,Tシャツとスパッツを着用し,骨盤,大腿,下腿,足部に計20個の反射マーカーを貼付した。数回の練習後に,安定して行えた3試行を記録した。記録したデータから,歩行速度,歩行中の股関節屈伸・内外転・回旋の関節可動域,および外的負荷の指標として股関節屈伸・内転・回旋の外的モーメント積分値および3平面での外的モーメント積分値の合計を算出した。各変数について,3試行の平均値を解析に用いた。加えて,全対象者に歩数計(山佐時計計器社製)を配布し,連続した7日間における歩数(入浴を除いた起床から就寝まで)を記録した。膝関節を対象とした先行研究を参照し,股関節モーメント積分値(屈伸,内転,回旋,および合計)に患側下肢の1日平均歩数(7日間の平均歩数/2)を乗じることで,股関節累積負荷を算出した。股関節累積負荷は,股関節に対して一日に加わる外的負荷の総量を意味している。関節裂隙狭小化と関連する要因を調べるために,まず,最小関節裂隙幅とSharp角,CE角,年齢,BMI,歩数,および各歩行変数の間の単相関関係(ピアソンの積率相関係数)を分析し,さらに最小関節裂隙幅を従属変数としその他の要因を独立変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)を行った。有意水準は5%とした。
【結果】
対象者の最小関節裂隙幅は3.5±1.3 mmであった。単相関分析では,最小関節裂隙幅に対して,年齢が有意な負の相関を示し,歩数,歩行中の股関節可動域(屈伸),股関節累積負荷(屈伸)がそれぞれ有意な正の相関を示した。重回帰分析の結果,最小関節裂隙幅に対して年齢と股関節累積負荷(屈伸)が有意な変数として抽出された(R2=0.49:標準偏回帰係数;年齢-0.36,股関節累積負荷(屈伸)0.30)。累積負荷に関わる関節モーメント積分値や歩数は,有意な変数とはならなかった。分散インフレ係数による評価では多重共線性は確認されなかった。なお,年齢と股関節累積負荷(屈伸)との間には,有意な相関関係は認められなかった。
【考察】
股OA患者において,加齢に伴い関節裂隙幅が減少することは,先行研究の結果と一致した。一方,歩行特性については,関節裂隙幅の減少と特に屈伸方向の股関節累積負荷の減少が関連することが示された。本研究より変数間の因果関係を明確にすることは困難であるが,関節裂隙の狭小化に伴って屈伸方向の股関節への負荷を減じる適応的な変化が生じることが推察される。本研究で求めた累積負荷は,歩行時の関節モーメント積分値と歩数から算出されるため,関節モーメントの増減にかかわる歩容と日常の活動量の両要因の影響を受ける。しかし,関節モーメント積分値や歩数それ自体は,有意な変数としては抽出されておらず,関節症の進行と関連する要因としては関節モーメント積分値と歩数を統合した指標である股関節累積負荷に着目することの重要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では,新たな指標として算出した股関節累積負荷が,初期から進行期の股OA患者の関節病態の変化と関連することが示唆された。本研究結果は,股OA患者の縦断的調査や理学療法の効果検証を行う上で,重要な知見を提供するものである。