第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述10

予防理学療法2

2015年6月5日(金) 11:20 〜 12:20 第10会場 (ガラス棟 G602)

座長:小松泰喜(東京工科大学 医療保健学部)

[O-0085] 地域在住高齢者における自主参加型教室の参加・継続に関連する要因の質的研究

理学療法士の専門性を生かした支援方法の検討

長澤康弘, 堀山祐史, 井手一茂 (長谷川病院診療部リハビリテーション科)

キーワード:自主参加型教室, 質的研究, 支援

【はじめに,目的】
高齢化が急速に進む我が国では,介護予防事業における自治体主体型のポピュレーションアプローチの推進には限界が生じ,近年では地域在住高齢者が主体となる自主グループでの活動が必要とされている。しかしながら,自主参加型教室の参加・継続に関連する要因について検討した研究は少ない。当院では2年半以上に渡って活動する自主グループとの係りを持つ。開始当初は講演や運動指導などの依頼を受けていたものの,現在では約1年,依頼を受けずに活動を続けている。そこで,本研究は自主参加型教室に参加する地域在住高齢者にインタビュー調査を実施し,その結果から自主参加型教室の参加・継続に関連する要因について質的分析を行い,教室の支援方法について検討することを目的とした。
【方法】
調査対象は週1回30分の自主参加型教室に参加している地域在住高齢者10名(平均年齢76.8±5.4歳)。性別は男性2名,女性8名。調査期間は1日とし,対象者には約20分の半構造化されたインタビュー調査を3名1グループに対して,2名のインタビュアーが分かれて実施した。そのうち,自主グループのリーダーについては個別インタビューを実施した。インタビューにはインタビューガイドを用いて,1)教室開始・参加への経緯,2)教室継続の要因といった質問を行った。インタビュー内容はICレコーダーに録音し,逐語録を作成した。分析には当院の理学療法士3名で逐語録より意味内容の協議を行い,その結果を集約してカテゴリ化を行った。さらに各カテゴリ化を類似化し,上位カテゴリを作成して人数を集計した。
【結果】
対象者の教室平均継続期間は24.6±5.2ヶ月であった。教室の参加要因では,「リーダーに誘われて」,「仲間に誘われて」,「チラシをみて」といった下位カテゴリから構成される「外部からの働きかけ」といった上位カテゴリに女性6名の発言を認めた。その他,「体力の低下」に女性1名,「運動が好き」に男性1名,女性1名,「一人暮らしが淋しい」に女性2名といった発言を認めた。教室の継続要因では,項目により下位カテゴリが多く存在する場合には,上位カテゴリとの間に中位カテゴリを作成した。上位カテゴリは身体的要因,心理的要因,社会的要因,環境的要因に分類した。「身体的要因」は「運動機能の維持や向上」,「運動が終わると楽になる」,「体調・体型維持」の中位カテゴリから集約されており,女性4名の発言を認めた。「心理的要因」は「前向きな気持ち」,「継続意思」,「淋しさの改善」,「生きがい」の中位カテゴリから集約されており,女性8名に発言を認めた。「社会的要因」は「コミュニケーションの場」,「仲間の存在」,「リーダーへの信頼」の中位カテゴリから集約されており,全ての対象者に発言を認めた。「環境的要因」は「運動プログラムが良い」,「教室が無料」,「一人で行ける場所にある」の中位カテゴリから集約されており,女性7名の発言を認めた。リーダーインタビューでは,教室の開始経緯について,「自治体主体型の教室では運動のレベルが高すぎるため,教室の開始に至った」,継続要因については,「教室への出席,運動の実施に強制をしない」,「参加者が効果を実感している」との発言を認めた。
【考察】
分析結果から,参加要因では「外部からの働きかけ」に発言を多く認め,継続要因では「社会的要因」に全ての対象者の発言が得られたことから,ソーシャルサポートが教室の参加・継続に大きく影響していることが考えられ,「身体的要因」,「心理的要因」にも良い影響が及んだと推測される。このことから,教室の支援には,運動指導以外にもコミュニケーションを取りやすい雰囲気づくり,参加者が集まりやすい場所を設定して,ソーシャルサポートを高める介入方法を検討していく必要がある。また,参加者を取り巻く「環境的要因」についても多くの発言を得られたことから,運動プログラムの内容,教室の費用や実施場所を充分に検討していく必要がある。リーダーへのインタビュー結果から,教室には参加者の運動機能に配慮したプログラムの提供,効果を実感できるような評価の導入が求められていた。このことから,自主参加型教室に理学療法士の専門性は充分に発揮できると考える。以上のことから,ソーシャルサポートを高める働きかけを地域住民,自治体と協力して理学療法士の専門性を生かした自主参加型教室の支援は良好な結果をもたらすことが推測される。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果を踏まえて,自主参加型教室の運営に理学療法士が携わることは,良好な影響を及ぼすことが示唆された。