第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述22

呼吸3

2015年6月5日(金) 13:50 〜 14:50 第12会場 (ガラス棟 G701)

座長:玉木彰(兵庫医療大学大学院医療科学研究科 リハビリテーション科学領域)

[O-0169] 呼吸法の違いがトレッドミル歩行時の呼吸循環応答と主観的疲労感に与える影響

小名木良太, 一場友実, 五十嵐千晶, 佐々木元, 田村瞳, 石井博之, 八並光信 (杏林大学保健学部理学療法学科基礎理学療法研究室)

キーワード:口すぼめ呼吸, トレッドミル, 呼吸循環応答

【はじめに】適切な運動負荷は内部障害の自己管理に必要な意欲の向上をもたらすと言われており,運動継続を図る上で欠かせない要素である。自覚的に安楽な運動を行う方法の一つとして,呼吸法の指導が挙げられる。腹式呼吸は有酸素系エネルギーの供給を高めると報告されており,口すぼめ呼吸は呼吸器疾患患者に対する呼吸困難感の軽減が知られている。さらに,ヨガで用いられる逆複式呼吸も心身のリラックスを引き出すと言われている。このように推奨される呼吸法は様々であるが,これらを比較検討する研究は少ない。そこで今回我々は,4条件の呼吸法を用いて歩行時の呼吸循環応答と主観的疲労感への影響を検討した。
【方法】対象者は喫煙歴のない健常成人男性17名とし,測定2時間前の食事を控えた上で実施した。測定プロトコルは安静座位を2分間,トレッドミル(AR-100,MINATO)でのウォームアップ(3km/h)を2分間,呼吸法の調節を行いながら厚生労働省のエクササイズガイドが推奨する週4エクササイズに相当する6km/hの強度で8分間の歩行,クールダウンを1分間実施した。腹式呼吸は吸気呼気比を1:2,口すぼめ呼吸は1:4,逆腹式呼吸は3:5とし,呼気を1:1:3に分割させた。それぞれの吸気呼気比は被験者の歩数に合わせた。比較対象として指示を与えない自然呼吸を実施した。各測定は24時間以上の間隔をあけ,呼吸法は無作為に選択し順不同とした。また測定中は随時検者が歩数ごとに口頭による吸気と呼気の指示を与え,腹部の動きを確認した。測定項目は呼気ガス分析装置(AE-310S,MINATO)を用いて,運動中6~8分の呼吸数(RR),一回呼気換気量(TVE),分時換気量(VE),炭酸ガス換気当量(VE/VCO2),呼気終末炭酸ガス濃度(ETCO2),体重当たりの酸素摂取量(VO2/W),呼気時間(Te),吸気時間(Ti)などの換気指標を測定した。循環器系の測定には心電図(DS-7100,フクダ電子株式会社)を呼気ガス分析装置と接続し,心拍数(HR)も同期させた。測定前後に血圧を測定し,さらに開始から測定終了まで1分ごとにBorg scaleを用いて,主観的運動強度を呼吸困難感と下肢疲労感に分けて聴取した。そして4回の測定終了後に,4条件の主観的安楽順位を聴取した。統計方法はSPSS 21.0 Jを用いた。各換気指標に対する4条件間による違いには一元配置分散分析を,4条件間の比較にはBonferroni法の多重比較を用いた。また主観的運動強度から得られた結果にはウィルコクソンの符号順位和検定を用いた。主観的安楽順位にはX2検定を行った。換気指標は平均値±標準偏差,主観的運動強度は中央値で示し統計学的有意水準はすべて5%未満とした。
【結果】口すぼめ呼吸は自然呼吸に比してRR,VE/VCO2が有意に低値を,TVEが有意に高値を示した(p<0.05)。また,他の呼吸に比してRR,VE/VCO2,VEが有意に低値を,ETCO2が有意に高値を示した(p<0.05)。腹式呼吸は自然呼吸に比してVE,TVE,VE/VCO2は有意に高値を,ETCO2は有意に低値を示した(p<0.05)。主観的安楽順位は有意差が認められ,呼吸困難感と下肢疲労感ともに自然呼吸が最も安楽であると回答があり,次いで腹式呼吸,口すぼめ呼吸,逆腹式呼吸の順に続く結果となった。
【考察】4条件下での運動負荷時の結果から各条件で異なる呼吸循環応答を示した。口すぼめ呼吸は自然呼吸に比して,RR,VE/VCO2が有意に低値を,TVEが有意に高値を示した。また,他の呼吸に比して,RR,VE/VCO2,VEが有意に低値を,ETCO2が有意に高値を示し,4条件の中で換気効率の良い呼吸法であると考えられた。一方,腹式呼吸もTVEは自然呼吸に対して有意に高値を示した。しかしVE,VE/VCO2は有意に高値を,ETCO2は有意に低値を示し,RRは有意差を示さなかった。自然呼吸と比較してRRに有意差がないにも関わらず,このような結果を示したことから過換気傾向にあると考えた。しかし,主観的運動強度は呼吸困難感と下肢疲労感ともに自然呼吸が安楽であるとの回答であった。口すぼめ呼吸は肺機能障害が高度なCOPD患者ほど効果が存在すると報告されており,健常者を対象とした今回の研究では,口すぼめ呼吸による呼吸法が主観的には安楽ではなかったと考えた。
【理学療法学研究としての意義】本研究にて健常者において運動時の呼吸法の違いにより呼吸循環応答と主観的疲労度への影響が異なることが解明された。今後実際のCOPD患者を対象に検討を行い,呼吸法の有用性が示唆されれば,COPD患者の大きな問題である労作時の呼吸困難の対応にも寄与できるのではないかと考える。