第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述26

予防理学療法5

2015年6月5日(金) 15:00 〜 16:00 第10会場 (ガラス棟 G602)

座長:島田裕之(国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター生活機能賦活研究部)

[O-0198] 睡眠障害と身体活動の相乗作用が認知機能に与える影響

中窪翔1,2, 土井剛彦1,3,4, 島田裕之1, 牧迫飛雄馬1, 堤本広大1,5, 堀田亮1, 李相侖1, 李成喆1, 裵成琉1, 原田和弘1, 原田健次1, 鈴木隆雄4 (1.国立長寿医療研究センター生活機能賦活研究部自立能力開発研究室, 2.神戸大学保健学研究科地域保健学領域, 3.日本学術振興会, 4.国立長寿医療研究センター研究所, 5.神戸大学保健学研究科リハビリテーション科学領域)

キーワード:睡眠障害, 認知機能, 身体活動

【はじめに,目的】
高齢期は睡眠障害の有症率が高い反面,診断,治療がなされていない場合が多い。高齢期の睡眠障害と認知機能低下との関連を示唆する報告がなされており,睡眠の質の低下が1年後の全般的認知機能低下の発生に関連していることや,遂行機能や記憶機能の低下と関連していることが明らかになっている。さらに,睡眠障害は身体活動の低下との関連性が示されており,また一方で身体活動の低下も認知機能に影響を与える重要な因子である。しかし,睡眠と身体活動量を包括的に評価し,認知機能に対する相乗作用を含めて関連性を検討した報告は少なく,対象が女性のみであり,認知機能の評価も限定的である。本研究の目的は,睡眠障害及び,身体活動の中でも特に重要性が報告されている中強度以上の活動と認知機能の関係性を横断的に検討することである。
【方法】
本研究の対象者は,国立長寿医療研究センターが2013年6月~12月に実施した高齢者機能健診に参加した65歳以上の地域在住高齢者5,781名のうち,アルツハイマー病,パーキンソン病の既往のある者,及びMini-Mental State Examination(MMSE)が18点未満の者を除外した5,696名(女性2,973名,男性2,723名,平均年齢75.1±5.1歳)とした。認知機能検査は,National Center for Geriatrics and Gerontology-Functional Assessment Toolを用いて実施した。全般的認知機能検査としてMMSE,論理的記憶検査として物語の遅延再認,実行機能として改訂版Trail making test part B(TMT-B)とSymbol digit substitution test(SDST)を測定した。睡眠の評価にはPittsburgh Sleep Quality Indexを使用し,先行研究に従って6点以上のものを睡眠障害とした。身体活動の評価として,International Physical Activity Questionnaireを使用して強い身体活動,中強度の身体活動の有無をそれぞれ聴取し,いずれかの身体活動を行っている者を中強度以上の身体活動ありとした。睡眠障害の有無,中強度以上の身体活動の有無の2要因の組み合わせにより4群に分類した(I群:睡眠障害なしかつ中強度以上の身体活動あり,II群:睡眠障害なしかつ中強度以上の身体活動なし,III群:睡眠障害ありかつ中強度以上の身体活動あり,IV群:睡眠障害ありかつ中強度以上の身体活動なし)。統計解析は,各認知機能検査結果を従属変数とした分散分析を用いて群間比較した。さらに,年齢,性別,教育歴,BMIを共変量として投入した共分散分析を行った。統計学的有意水準は5%未満とし,多重比較にはBonferroni法を用いた。
【結果】
解析対象者は,I群2,054名(36.1%),II群951名(16.7%),III群1,746名(30.7%),IV群945名(16.6%)に分類された。分散分析の結果,対象者特性およびすべての認知機能検査結果において群要因は有意な関連性を有していた(p<.001)。多重比較の結果,すべての認知機能検査結果においてIV群はI群と比較して有意に低い点数を示し(p<.05),TMT-B,SDST,物語遅延再認においてIV群はII群,III群と比較しても有意に低い点数を示した(p<.05)。さらに,年齢,性別,教育歴,BMIで調整した共分散分析においてもなお,これらの有意性は維持された(MMSE,物語の遅延再認:p<.05,TMT-B,SDST:p<.001)。
【考察】
本研究の結果から,睡眠障害と身体活動,特に中強度以上の身体活動の非実施それぞれ単独よりも,これらが併存することによって,さらに実行機能や論理的記憶などの認知機能がより低いことが示唆された。睡眠障害や身体活動量が実行機能や記憶機能などの認知機能低下と関連していることが種々の報告によって明らかになっており,また先行研究において,中強度活動量が少ない群においてのみ,睡眠効率と実行機能が有意な相関関係を示すことを報告している。本研究は,実行機能に加えて睡眠との関連が示唆されている記憶機能との関連を示唆したことから,先行研究の結果を支持,拡大するものと考えられる。しかし,睡眠,身体活動の評価が質問紙を用いた主観的評価によるものであるため,今後は客観的評価による検討を実施する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,認知機能低下のリスク要因である睡眠障害と身体活動低下が併存することで,さらなる認知機能低下を引き起こす可能性が示唆された。認知機能低下に対する介入という観点において,より多角的な評価を実施し,個々の状態に沿った内容で介入することの必要性を述べる根拠のひとつとなると考える。