第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述28

呼吸4

2015年6月5日(金) 15:00 〜 16:00 第12会場 (ガラス棟 G701)

座長:山下康次(市立函館病院 中央医療技術部リハビリ技術科)

[O-0208] 消化器外科周術期リハビリテーションの統一化を目指して

~術前オリエンテーションパンフレットの作成:第2報~

森矩留美, 田中健太郎, 舛本優子, 川村光聖, 川渕正敬, 前田秀博, 國澤雅裕 (社会医療法人近森会近森病院理学療法科)

キーワード:アプローチ統一化, 早期離床, 術前オリエンテーションパンフレット

【はじめに】
我々は,第49回日本理学療法学術大会において,消化器外科術後症例に対し離床アプローチを統一化することを目的に,術後プロトコルおよび離床手順フローチャートを作成した。それを術後に使用した結果,離床時期の早期化,術後活動量の増加および術後せん妄の低下を報告した。しかし,疼痛の強い例などは困惑されることが多く,医療スタッフが離床を促しても十分な活動を促しきれない例が存在した。先行研究によれば術前からの呼吸指導や術後の治療過程を説明しておくことで,治療に対する理解が得られ離床を進めることができるとされている。このことから,看護部と共に呼吸練習や術後離床の必要性を記載したオリエンテーションパンフレットを作成し,術前オリエンテーションの統一・強化に向けて2014年1月より消化器待期術全症例に使用し始めた。
【目的】本研究の目的はパンフレット使用効果を検証する事である。
【方法】
対象は消化器外科にて待機手術が施術され,理学療法士(以下,PT)が介入した例とした。調査対象期間はパンフレット作成前の2013年の1年間(以下:未使用群)と作成後の2014年1月から9月(以下:使用群)とした。除外基準は,重度の認知症等で理解が不十分と判断された例,術前歩行補助具を用いてと歩行が不可能な例,術後何らかの医学的要因で離床が制限された例とした。
方法は症例基本情報(年齢,性別,術対象臓器),術後離床の時期,歩行開始当初の総歩行距離,術後の呼吸器合併症の発生率(肺炎,無気肺),術後せん妄の有無をカルテより後方視的に調査し,2群間比較を行なった。統計は統計解析ソフトSPSS(statistics19)を使用,有意確率を5%未満としてMann-WhitneyのU検定,χ二乗検定を実施した。
またパンフレットの使用意見を調査するべく,外来看護師5名および消化器外科担当PT10名に使用の有無,回数,伝えやすさ,満足度を5択式にしたアンケート調査を実施した。
【結果】
対象期間に該当したものは未使用群62例,使用群39例であった。以下に未使用群・使用群にて各項目を示す。基本属性では,性別は男性44例:女性18例・30例:9例,平均年齢は71.0±11.1歳・71.4±10.9歳,術対象臓器は胃21,肝,胆5,膵6,結腸22・胃15,肝4,胆2,膵6,結腸11,その他1例であった。術後情報では,坐位開始は1.2±0.5日・1.1±0.7日,歩行開始1.3±0.7日・1.3±0.9日,歩行開始当初の総歩行距離125±134.7m・170.7±163.5m,術後の呼吸器合併症の発生率6.9%・5.4%,せん妄発生率12.7%・5.4%であり,両群間に有意差を認めたものは無かった。
アンケート調査は回収率,有効回答率共に100%でありスタッフのパンフレット使用率は93%であった。使用した際の伝えやすさは「非常に」,「まあまあ伝えやすかった」を合わせて100%を占めており,使用満足度も92%であった。パンフレットを使用する事で術前オリエンテーションの統一化が図れるかの問いには,99%のスタッフが図れたと解答した。
【考察】
今回の結果より,オリエンテーションパンフレットを使用することによる患者の術後全身状態への著明な影響は確認されなかったが,職員に対する影響は大きなものがあった。パンフレット使用により,呼吸器合併症やせん妄の発生率が低下したことなどを考えると,オリエンテーションパンフレットの効果はあったものと思われる。今回パンフレットを作成したことで,治療に対する教育的効果と心理的な不安軽減に繋がったと考えられるが,その効果は症例の意見を調査する必要があるとも思われ,本学会当日には,症例へのアンケート調査結果も含めて報告する予定としたい。
【意義】
医療の原則は説明と同意であり,これを成立するには症例の理解と協力が得られるよう介入工夫をする必要がある。パンフレットを作成し,効果を検証したことは,医療の質の担保を図る上でも有効であると考える。