第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述29

身体運動学2

Fri. Jun 5, 2015 4:10 PM - 5:10 PM 第7会場 (ホールD5)

座長:中江秀幸(東北福祉大学 健康科学部 リハビリテーション学科 理学療法学専攻)

[O-0222] 指先での軽い接触の有無と位置の相違が姿勢制御戦略に及ぼす影響

河津弘二1,2, 松原誠仁3, 本田啓太2, 飯山準一3 (1.社会医療法人社団熊本丸田会熊本リハビリテーション病院, 2.熊本保健科学大学大学院保健科学研究科, 3.熊本保健科学大学)

Keywords:身体動揺, Light touch, 姿勢制御戦略

【はじめに,目的】
立位姿勢において,指先で固定点に102g以下の重さで軽く触れること(Light touch,以下LT)で身体の動揺が減少することが報告されており(Holden 1994),臨床でもしばしば経験される。このような身体動揺の減少には,力学的支持だけではなく指先からの求心性感覚情報の入力が関与するとされる(Kouzaki 2008)。しかしながら,LTの有無および指先位置の相違が身体動揺に及ぼす影響に関する報告は少ない。そこで,本研究は,不安定な立位姿勢におけるLTの有無と指先位置の相違が身体動揺に及ぼす影響について,バイオメカニクス的手法を用いて明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は,一般健常男子大学生6名(年齢20.2±0.8歳)であった。被験者に2台の地面反力計(AMTI社製,100Hz)上で,左片脚立位およびタンデムスタンス(左下肢前,以下タンデム)の姿勢を50秒間保持させた。その様子を光学式3次元自動動作解析装置(Motion Analysis社製,100Hz)のカメラ6台で計測した。同時に,表面筋電図計(Kissei Com Tech社製,1000Hz)を用いて,左片脚立位では支持下肢の大殿筋,中殿筋,内側広筋,外側広筋,大腿二頭筋,半腱様筋,前脛骨筋およびヒラメ筋を,タンデムでは左右の中殿筋,内側広筋,前脛骨筋およびヒラメ筋の筋活動を計測した。なお,試技は1)LTの有無,2)指先位置の側方および前方(以下,位置の0°,90°),3)開閉眼,を組み合わせ無作為に計測した。また,LTは大転子の高さで計量器に右示指で行わせた。このとき,デジタルビデオカメラ(Canon社製,50Hz)および計量器(TANITA社製)を用いて,LTが保持されていることを確認した。次いで,得られた足圧中心(center of pressure,以下COP)を用いて累積移動距離,面積および前後・左右方向の平均速度を求め,これらを身体動揺の指標とした。また,得られた被験筋の活動の様子を時間積分し,これを筋活動量とした。得られた48試技の動揺指標,地面反力および筋活動量を,二元配置分散分析を用いて条件ごとに比較した。有意水準は5%未満とした。

【結果】
左片脚立位における左右および前後方向の地面反力,累積移動距離,面積および前後・左右方向の平均速度は,LT有の方が無より有意に低値であった(p<0.01)。また,外側広筋,大腿二頭筋および前脛骨筋の活動量は,LT有の方が無より有意に低値であった(p<0.05)。また,指先位置の相違における動揺指標,地面反力および筋活動量は有意な差がみられなかった。一方,タンデムにおける前後方向の地面反力は,前後の下肢で位置の90°よりも0°の方が有意に低値であった(p<0.01)。また,ヒラメ筋の活動量は,後下肢で位置の0°よりも90°の方が有意に低値であった(p<0.01)。
【考察】
片脚立位では,地面反力および動揺指標が有意に低値であったことから,102g以下のLTは,床面に投影した身体重心位置とCOPの距離を最小にすることで身体動揺および下肢筋活動量を減少させることなどが示唆された。一方で,指先位置の相違において有意な差がみられなかったことから,LT位置の相違は身体動揺および下肢筋活動に影響を及ぼさないことが示唆された。以上のことから,片脚立位における感覚入力としてのLTは,相対位置に依存しない筋活動を制御するための入力信号であることが示唆された。一方,タンデムでは,後下肢のヒラメ筋の筋活動量は後下肢で位置の0°よりも90°の方が有意に低値であったことから,指先位置の0°では筋活動量を大きくし,位置の90°では筋活動量を小さくすることで重心動揺を制御していたことが示唆された。以上のことから,タンデムにおける感覚入力としての指先位置の相違は,相対位置に依存する筋活動を制御するための入力信号であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では,感覚入力信号としてのLTおよび指先位置の相違が身体動揺を制御する筋活動に及ぼす影響を明らかにした。本研究で得られた知見は,立位姿勢練習のアプローチ法立案などに貢献できると考えられる。