第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述33

肩関節

2015年6月5日(金) 16:10 〜 17:10 第11会場 (ガラス棟 G610)

座長:山崎重人(マツダ株式会社 マツダ病院 リハビリテーション科)

[O-0249] 肩関節外転運動における肩峰骨頭間距離の観察

中村壮大1, 勝平純司1, 黒澤和生2, 村木孝行3 (1.国際医療福祉大学小田原保健医療学部, 2.国際医療福祉大学保健医療学部, 3.東北大学病院リハビリテーション部)

キーワード:肩峰骨頭間距離, 超音波画像, 肩関節

【はじめに,目的】Nakamuraらが2011年に実施した1万人規模のアンケート調査において慢性疼痛の発生部位として,腰,頸に続いて肩関節周囲の疼痛が有病率では3番目に高頻度であることを報告している。肩関節の疼痛を引き起こす主な原因としては,インピンジメント症候群が挙げられている。種々の要因で上腕骨頭が上方へ変位すると肩峰骨頭間距離Acromio-humeral-distance(以下,AHD)が狭小化して肩関節の運動時に肩峰の前下縁で腱板が衝突して組織の損傷が起こるとされる。近年,インピンジメント症候群は,肩峰下インピンジメントとインターナルインピンジメントに分類されるようになった。インピンジメント症候群の病態によっても適切な治療方法は異なると言える。そこでインピンジメント症候群の評価において病態の分類が簡便に行えれば,発生要因の違いを考慮した適切な治療介入が可能となる。肩甲上腕関節がどの程度の外転位になった時に肩峰と上腕骨大結節の接触がみられるのかという各年代における基礎データが必要になる。しかしながら,若年者と高齢者を対象として肩関節外転角度の増加に伴うAHDの詳細な変化や,肩峰最突出部の下方を上腕骨大結節が通過する角度を比較した研究は,我々が渉猟し得た限り見当たらない。本研究の目的は,超音波診断装置を用いて肩関節の外転運動における若年者と高齢者のAHDの変化を計測し,若年者と高齢者の基礎データを比較検討することにより,各年代の肩峰下接触動態の特徴を明らかにすることである。
【方法】対象は,若年男子21名42肩,高齢者17名34肩とした。課題動作は,肩関節外転動作とした。AHDは肩峰の最突出部の骨硬化像から上腕骨大結節外側端までの最短距離とした。測定角度は,肩関節外転0~80°までの角度で,10°ごとに測定を実施した。課題肢位は立位とし,超音波診断装置にて測定を実施した。分析方法は,条件間の比較には2(左右)×9(角度)の二元配置分散分析後,Bonferroni法による多重比較検定を行った。有意水準は5%とした。
【結果】若年健常者のAHDについては,交互作用は認められず,肩関節外転角度に主効果を認めたが左右には主効果を認めなかった。肩関節外転運動における肩峰最突出部の下方を,上腕骨大結節が通過する角度は,40°で6肩,50°で12肩,60°で24肩が通過していた。高齢者においても交互作用は認められず,肩関節外転角度に主効果を認めたが,左右には主効果を認めなかった。肩関節外転運動における肩峰最突出部の下方を,上腕骨大結節が通過する角度は,30°で8肩,40°で20肩,50°で5肩,60°で1肩が通過しており,若年者に比べ高齢者では初期外転角において肩峰最突出部の下方を,上腕骨大結節が通過していた。若年者と高齢者ともに左右に主効果が認められなかったため,若年者21名の42肩,高齢者17名の34肩を対象として,角度と年齢による二元配置分散分析を行った結果,若年者は角度が増加するとともに緩やかにAHDが減少するが,高齢者は角度が増加するとともに急激にAHDが減少していた。
【考察】肩関節外転角度の変化において,肩峰最突出部の下方を上腕骨大結節が通過する角度が,若年者に比べ高齢者では初期外転角において通過していることが明らかとなった。中村らは,体幹に対し約120°で上腕骨の大結節が肩峰に対面し,それ以上の外転が妨げられ90°以上になると,上腕骨は外旋し,大結節は肩峰下面の後縁をすり抜けて,外転を継続すると報告している。しかし本研究結果では,若年者は外転角度60°,高齢者では40°で多くの被験者が肩峰最突出部の下方を上腕骨大結節が通過していた。これは本研究では,生体に対し超音波診断装置を用いて先行研究よりも外転角度を増やしてAHDを測定したために得られた結果と考えられる。高齢者で急激にAHDが減少し初期外転角で上腕骨大結節が通過したのは,健常の肩関節外転運動では三角筋と腱板が共同作用により不安定に滑ることなく,関節の安定化が起こるが,加齢に伴い,腱板の関節窩に上腕骨頭の引きつけを行う安定化作用が低下する。さらに肩関節の外転角度の増加による肩甲上腕関節にかかる負担に耐えることが困難となり,高齢者では30°~40°と初期外転角にて通過し急激なAHDの変化が生じたと考える。
【理学療法学研究としての意義】関節を動かす際のAHDの変化を捉えることは,肩関節障害と関節機能面の関連を把握するとともに,肩峰下の接触が強くなる運動を制限することも可能となり,理学療法分野における予防リハビリテーションの重要な知見となると考える。