[O-0282] 回復期病院における大腿骨頸部骨折後低栄養患者の歩行能力回復と栄養状態改善の関連性
Keywords:大腿骨頸部骨折, 栄養状態, 歩行能力
【はじめに】
我が国では,転倒によって大腿骨頸部骨折を受傷する者は年間17万人に達している。これら患者は,理学療法を受けたにも関わらず,寝たきりや車椅子生活になる者が20%近く存在する。大腿骨頸部骨折後の歩行能力に関する先行研究では,歩行獲得に関連する要因として,筋力,受傷前歩行能力,認知症,脳卒中の既往,年齢,術式,骨折型などに加え,栄養状態が関連することが報告されている。また,栄養状態が入院時から悪い場合は,歩行能力の回復が滞ることが報告されている。
このように,歩行能力の回復が滞る低栄養患者であるが,入院中に栄養状態が改善した場合,歩行能力の回復にどのような影響を与えるかについては明らかにされていない。地域高齢者においては,通常より高い栄養状態で運動することにより,若者と同等に筋力や骨格筋量が増加することが報告されている。
したがって,大腿骨頸部骨折後における低栄養患者においても,栄養状態が改善することにより,歩行能力が回復するのではないかと仮説を立て,その仮説を検証することが本研究の目的である。これにより,歩行能力回復と栄養状態改善の関連性を示すことができれば,大腿骨頸部骨折後の理学療法における重要な手掛かりになると考える。
【対象と方法】
調査対象は,2010年1月から2013年3月の間に,福岡県内一カ所の回復期リハビリテーション病院に大腿骨頸部骨折の診断を受け入院した316名。包含基準は,65歳以上の男女,入院時血清アルブミン値3.0mmg/dl以下の者とした。除外基準は,骨折の既往がある者,急変などの理由で転院となった者,データに欠損値があった者を除き集計対象は82名とした。調査内容は,基本属性,医学的所見,受傷前環境,栄養状態,歩行能力とした。歩行能力の測定には「Functional Ambulation Categories(以下,FAC)」を用いた。FACの測定期間は入院8週目までとし,2週間ごとに測定した。
解析方法に関して,歩行能力回復に栄養状態の改善が影響を与えるかを検討するために,退院時までに栄養状態が改善した者(以下,栄養改善群)と栄養状態が維持・低下した者(以下,栄養非改善群)に分類した。これら2群間について,t検定およびχ2検定を用い属性比較を行った。また,入院時におけるFACの経時的変化に関して多重比較検定(Scheffe法)を用い群間比較を行った。
【結果】
2群間の属性比較の結果,年齢,骨折型,術式,術側,受傷から当院入院までの経過期間,脳卒中の既往の有無,認知症の有無,受傷前歩行自立の有無,入院時FAC,入院時Alb値は,統計的に有意な差を認めなかった。多重比較検定の結果について,入院6週目以降の栄養改善群歩行能力は,栄養非改善群歩行能力よりも統計学的に有意な高値を示した(p<0.01)。
【考察】
結果より,入院6週目以降における歩行能力回復は栄養状態改善が関連することが示された。歩行能力を回復させるためには,一定の筋力が必要であり,筋力を向上させるためには,運動と骨格筋を構成する蛋白質が必要である。地域高齢者において,運動と栄養を組み合わせた介入により,若者と同等に筋力や骨格筋量が増加したことが報告されている。これは血中アルブミン濃度が上昇することにより骨格筋合成能が高くなるためと考える。一方,低栄養状態のまま運動を行っても,骨格筋の合成能が低下しているため筋力改善に繋がらないことが報告されている。これらのことから,歩行能力回復と栄養状態改善の間に関連性が認められたのではないかと推察する。
【理学療法学研究としての意義】
大腿骨頸部骨折後の低栄養患者に対する理学療法を展開する上で,栄養状態改善に向けた取り組みの重要性を示唆するものと言える。今後は栄養状態に合わせた適切な運動内容の検討や,栄養改善に向けた他職種間との連携が必要である。
我が国では,転倒によって大腿骨頸部骨折を受傷する者は年間17万人に達している。これら患者は,理学療法を受けたにも関わらず,寝たきりや車椅子生活になる者が20%近く存在する。大腿骨頸部骨折後の歩行能力に関する先行研究では,歩行獲得に関連する要因として,筋力,受傷前歩行能力,認知症,脳卒中の既往,年齢,術式,骨折型などに加え,栄養状態が関連することが報告されている。また,栄養状態が入院時から悪い場合は,歩行能力の回復が滞ることが報告されている。
このように,歩行能力の回復が滞る低栄養患者であるが,入院中に栄養状態が改善した場合,歩行能力の回復にどのような影響を与えるかについては明らかにされていない。地域高齢者においては,通常より高い栄養状態で運動することにより,若者と同等に筋力や骨格筋量が増加することが報告されている。
したがって,大腿骨頸部骨折後における低栄養患者においても,栄養状態が改善することにより,歩行能力が回復するのではないかと仮説を立て,その仮説を検証することが本研究の目的である。これにより,歩行能力回復と栄養状態改善の関連性を示すことができれば,大腿骨頸部骨折後の理学療法における重要な手掛かりになると考える。
【対象と方法】
調査対象は,2010年1月から2013年3月の間に,福岡県内一カ所の回復期リハビリテーション病院に大腿骨頸部骨折の診断を受け入院した316名。包含基準は,65歳以上の男女,入院時血清アルブミン値3.0mmg/dl以下の者とした。除外基準は,骨折の既往がある者,急変などの理由で転院となった者,データに欠損値があった者を除き集計対象は82名とした。調査内容は,基本属性,医学的所見,受傷前環境,栄養状態,歩行能力とした。歩行能力の測定には「Functional Ambulation Categories(以下,FAC)」を用いた。FACの測定期間は入院8週目までとし,2週間ごとに測定した。
解析方法に関して,歩行能力回復に栄養状態の改善が影響を与えるかを検討するために,退院時までに栄養状態が改善した者(以下,栄養改善群)と栄養状態が維持・低下した者(以下,栄養非改善群)に分類した。これら2群間について,t検定およびχ2検定を用い属性比較を行った。また,入院時におけるFACの経時的変化に関して多重比較検定(Scheffe法)を用い群間比較を行った。
【結果】
2群間の属性比較の結果,年齢,骨折型,術式,術側,受傷から当院入院までの経過期間,脳卒中の既往の有無,認知症の有無,受傷前歩行自立の有無,入院時FAC,入院時Alb値は,統計的に有意な差を認めなかった。多重比較検定の結果について,入院6週目以降の栄養改善群歩行能力は,栄養非改善群歩行能力よりも統計学的に有意な高値を示した(p<0.01)。
【考察】
結果より,入院6週目以降における歩行能力回復は栄養状態改善が関連することが示された。歩行能力を回復させるためには,一定の筋力が必要であり,筋力を向上させるためには,運動と骨格筋を構成する蛋白質が必要である。地域高齢者において,運動と栄養を組み合わせた介入により,若者と同等に筋力や骨格筋量が増加したことが報告されている。これは血中アルブミン濃度が上昇することにより骨格筋合成能が高くなるためと考える。一方,低栄養状態のまま運動を行っても,骨格筋の合成能が低下しているため筋力改善に繋がらないことが報告されている。これらのことから,歩行能力回復と栄養状態改善の間に関連性が認められたのではないかと推察する。
【理学療法学研究としての意義】
大腿骨頸部骨折後の低栄養患者に対する理学療法を展開する上で,栄養状態改善に向けた取り組みの重要性を示唆するものと言える。今後は栄養状態に合わせた適切な運動内容の検討や,栄養改善に向けた他職種間との連携が必要である。