[O-0313] 脳卒中後片麻痺患者に対する経頭蓋直流電気刺激(tDCS)による即時効果について
―上肢パフォーマンス課題による検討―
キーワード:経頭蓋直流電気刺激, 脳卒中, 上肢パフォーマンス
【はじめに,目的】近年,脳卒中後の運動麻痺の治療として経頭蓋反復磁気刺激(Repetitive transcranial magnetic stimulation:rTMS)や,経頭蓋直流電気刺激(Transcranial Direct Current Stimulation:;tDCS)を用いることで,運動麻痺や高次脳機能障害の改善の一助になることが明らかになっている。昨年度はrTMS前後で脳卒中後の運動麻痺に対する運動学的な効果について報告した。同様に運動麻痺に対する効果が期待できるtDCSによる研究は近年報告され始めているが。まだ運動麻痺への効果に関しては十分把握されていない。tDCSは陽極と陰極の配置によって,脳活動を促通または抑制する機序が知られている。半球間抑制の理論に従い,非病巣側を抑制し,病巣側を促通することで脳内の活動のバランスを改善することで麻痺を改善に有効であるがある。今回この理論に従って半球間抑制の不均衡を改善させることで,運動麻痺の改善がみられるのではないかと仮説を立てた。そこで,今回脳卒中後の患者を対象にtDCS前後で上肢パフォーマンスの変化について検討した。科学研究費(研究課題番号:26870558)の研究助成を受けて実施した。
【方法】対象は初発脳卒中後片麻痺患者5名(平均年齢65.4歳;55~81歳,右片麻痺1名,左片麻痺4名,全員右利き,上肢Br-stageV,手指Br-stageIV~V)とした。対象にはtDCS(NeuroConn GmbH社製)を利用して,1mAの直流電流を非病巣側運動野に陽極,病巣側運動野に陰極を生理食塩水に浸したフェルトパッド製電極(5×7cm)を貼付した。被験者には安楽な座位をとらせ,20分間刺激を与えた。また,同様の設定で電流が最初にだけ流れるSham(偽)刺激を1週間以上あけて行った。刺激前後での評価は,tDCS,Sham刺激それぞれの前後に,上肢パフォーマンステストとして,Box&Blockテスト(麻痺側上肢で1分間,立方体のブロックを移動させる課題で,欧米では上肢パフォーマンステストとして信頼性は高い)を実施した。計測は1回とし,移動させたブロック数と刺激前後での改善率も算出した。統計学的分析はtDCS・Sham刺激前後での個数と改善率をWilcoxon符号付き順位和検定によって,tDCS,Sham刺激前後で比較を行った。有意水準は5%とし,統計にはSPSS ver21を使用した。
【結果】tDCS刺激では刺激前31.8±7.7個から刺激後35.2±8.4個となり,sham刺激では刺激前33.0±8.5個から刺激後34.0±8.7個となった。tDCS刺激の改善率は110.9±3.3%,sham刺激の改善率は103.2±2.0%となり,tDCSで有意な改善がみられた(p<0.05)。
【考察】tDCS前後での上肢パフォーマンスの即時効果を検討した結果,即時効果の有効性が明らかになった。これは先行研究にあるように,tDCSは半球間抑制を減弱させ,病巣周辺領域の運動野が抑制から開放される(脱抑制)ことや筋緊張が減弱し,麻痺側上肢の動きが改善したこと,病巣側運動野での機能促通などにより効果を示すと考えられる。今回の検討ではtDCSの効果のひとつである麻痺肢痙性の低減の効果による可能性が示唆される。録画画像の検討などからは運動パフォーマンスの変化は痙性の低下により,複合的な運動の速度が向上したことによると考えられた。今回の結果より,tDCSは脳卒中後患者の上肢のパフォーマンスの変化に有効であることが示唆され,刺激後の理学療法などの介入により機能改善をさらに増大させる可能性も考えられる。
【理学療法学研究としての意義】tDCSにより上肢の運動機能が変化することが明らかになった。電気刺激の効果のひとつとして過剰な半球間抑制を減弱することによる痙性抑制がある。さらなる検討でtDCSの脳卒中などの痙性麻痺への効果を明らかにし,適応症例を選択することで,その後の理学療法の効果の増大・機能回復の向上につなげることができると考えられる。
【方法】対象は初発脳卒中後片麻痺患者5名(平均年齢65.4歳;55~81歳,右片麻痺1名,左片麻痺4名,全員右利き,上肢Br-stageV,手指Br-stageIV~V)とした。対象にはtDCS(NeuroConn GmbH社製)を利用して,1mAの直流電流を非病巣側運動野に陽極,病巣側運動野に陰極を生理食塩水に浸したフェルトパッド製電極(5×7cm)を貼付した。被験者には安楽な座位をとらせ,20分間刺激を与えた。また,同様の設定で電流が最初にだけ流れるSham(偽)刺激を1週間以上あけて行った。刺激前後での評価は,tDCS,Sham刺激それぞれの前後に,上肢パフォーマンステストとして,Box&Blockテスト(麻痺側上肢で1分間,立方体のブロックを移動させる課題で,欧米では上肢パフォーマンステストとして信頼性は高い)を実施した。計測は1回とし,移動させたブロック数と刺激前後での改善率も算出した。統計学的分析はtDCS・Sham刺激前後での個数と改善率をWilcoxon符号付き順位和検定によって,tDCS,Sham刺激前後で比較を行った。有意水準は5%とし,統計にはSPSS ver21を使用した。
【結果】tDCS刺激では刺激前31.8±7.7個から刺激後35.2±8.4個となり,sham刺激では刺激前33.0±8.5個から刺激後34.0±8.7個となった。tDCS刺激の改善率は110.9±3.3%,sham刺激の改善率は103.2±2.0%となり,tDCSで有意な改善がみられた(p<0.05)。
【考察】tDCS前後での上肢パフォーマンスの即時効果を検討した結果,即時効果の有効性が明らかになった。これは先行研究にあるように,tDCSは半球間抑制を減弱させ,病巣周辺領域の運動野が抑制から開放される(脱抑制)ことや筋緊張が減弱し,麻痺側上肢の動きが改善したこと,病巣側運動野での機能促通などにより効果を示すと考えられる。今回の検討ではtDCSの効果のひとつである麻痺肢痙性の低減の効果による可能性が示唆される。録画画像の検討などからは運動パフォーマンスの変化は痙性の低下により,複合的な運動の速度が向上したことによると考えられた。今回の結果より,tDCSは脳卒中後患者の上肢のパフォーマンスの変化に有効であることが示唆され,刺激後の理学療法などの介入により機能改善をさらに増大させる可能性も考えられる。
【理学療法学研究としての意義】tDCSにより上肢の運動機能が変化することが明らかになった。電気刺激の効果のひとつとして過剰な半球間抑制を減弱することによる痙性抑制がある。さらなる検討でtDCSの脳卒中などの痙性麻痺への効果を明らかにし,適応症例を選択することで,その後の理学療法の効果の増大・機能回復の向上につなげることができると考えられる。