第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述43

頚部・肩関節

Fri. Jun 5, 2015 6:40 PM - 7:40 PM 第11会場 (ガラス棟 G610)

座長:高村隆(船橋整形外科病院 肩関節・肘関節センター 特任理学診療部)

[O-0324] 頸椎症性脊髄症患者の術前後における頸部屈伸運動と頭部位置と体幹位置の変化

松澤克1, 保坂亮1, 井川達也1, 櫻井愛子1, 中野徹1, 打越健太1, 綱島脩1, 福井康之2 (1.国際医療福祉大学三田病院リハビリテーション室, 2.国際医療福祉大学三田病院脊椎脊髄センター)

Keywords:頚椎症性脊髄症, 動作戦略, アライメント

【はじめに,目的】
頸椎性脊髄症(以下CSM)は脊柱管内神経組織の圧迫により上肢痛,痺れなどの臨床症状を示し,術前,頸部伸展時,黄色靭帯がたれ込み,脊髄圧迫の程度が増加する疾患である。進行したCSMの治療法として手術療法があり,後方アプローチによる椎弓形成術が多く行われる。後方からの手術侵襲や手術による症状改善の影響により頸部屈伸運動は,術前後において異なる傾向を示すことが考えられる。先行研究では安静時の頸椎アライメントは,胸椎アライメントの影響を強く受けるという報告や,術後,頸部屈伸可動性は低下するという報告がある。このように安静時の頸椎と体幹アライメントの関係や術前後の頸部運動についての報告は散見されるが,頭部や体幹の位置変化を伴った頸部運動の報告は少ない。そこで今回,CSM患者の頸部屈伸運動と頭部位置と体幹位置を術前後で比較し,頭部と体幹の位置変化が頸部屈伸運動に与える影響について検討した。
【方法】
対象はCSMと診断され,椎弓形成術を行った患者16名(平均年齢66.0±13.6歳,男性12名・女性4名)とした。
計測は三次元動作解析装置VICON MXを用いた。被験者に頭部に両乳様突起,眉間,体幹部に胸骨頸切痕,剣状突起,Th10,C7,骨盤部に両上前腸骨棘,両上後腸骨棘を含む全身42個の赤外線反射マーカを貼付した。計測課題は,安静椅子座位にて頸部最大屈伸運動とし,5試行計測した。計測は術前と術後3週に各々行った。
頭部と胸郭,骨盤に貼付したマーカより頭部座標系,胸郭座標系,骨盤座標系をそれぞれ設定し,胸郭に対する頭部角度より頸部角度,胸骨頸切痕とC7の中点に対する頭部中心の前後偏位を頭部位置,骨盤中心に対する胸骨頸切痕とC7の中点の前後偏位を体幹位置と定義した。得られたデータから最大屈伸運動時の頸部角度と頭部位置,体幹位置を抽出し,各5施行の平均値を算出した。
また,X線側面像において,屈伸時のC2-C7前弯角を測定した。計測は術前,術後10日,術後50日とした。統計学的検定として術前後の頸部角度,頭部位置,体幹位置についてWilcoxonの符号順位和検定を用い,C2-C7前弯角についてFriedman検定を用い,p<0.05を有意差ありとした。
【結果】
屈曲時の頸部角度は術後有意に減少した。(術前:1.7±12.3°,術後:-9.1±12.7°,p<0.05)また,頭部位置(術前:99.0±13.9mm,術後:91.8±17.8mm,n.s)と体幹位置(術前:42.2±40.7mm,術後:23.7±31.4mm,n.s)に有意差はみられなかった。
伸展時の頸部角度は術後有意に減少した(術前:-74.5±11.0°,術後:-65.1±9.3°,p<0.05)。また,術後の頭部位置は有意に後方位が減少(術前:17.5±26.2mm,術後:28.7±20.5mm,p<0.05)し,術後の体幹位置は有意に後方位(術前:27.1±41.7mm,術後:2.3±29.7mm,p<0.05)にあった。
また,屈曲時のC2-C7前弯角は,術前後において有意な差は認めなかった(術前:-10.5±11.1°,術後10日:0.2±11.1°術後50日:-7.8±11.3°,n.s)。一方,伸展時は術後10日に比べ術後50日時のみ有意に増加した。(術後10日:21.0±10.2°,術後50日:25.6±9.9°,p<0.05)
【考察】
屈曲時,術後頸部角度が有意に減少した。伸展時では術後頸部角度が有意に減少し,頭部位置は後方位が有意に減少していた。このことから術直後では,屈曲時は頸部角度のみを減少させ,伸展時は頸部角度と頭部の後方位を減少させる動作戦略をとることが示唆された。これは,術創部や侵襲のある頸椎後面への負荷を減少させることや先行研究でも示唆されている頸部後面の筋萎縮が影響している事が考えられる。一方,伸展時の体幹位置は術前と比較し術後有意に後方位となった。これは頸部伸展角度減少の代償として体幹を後方偏位させていると考える。また,X線画像では術後10日と比較し術後50日では,伸展時に有意にC2-C7前弯角が増加しており,今後の頸部可動性の改善が予測される。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果から,術直後の可動域の減少は見られるが,X線の結果より,長期的には頸部伸展可動域改善の可能性が示唆される。しかし,頭部後方位の減少した頸部伸展運動は頸椎後面への負荷が大きくなることが予測される。このため,頸部可動域改善には頭部位置を改善させるような治療戦略の必要性が示唆された。